第1話 「出会い」
100年前に突如この世界に出現した、
それは、僕が住んでるこの街、アルドーラにも出現した。
地下は何階まであるかは分かっていない。 つまり、まだ誰も
アルドーラにある
その
「はぁ…! はぁっ…!」
「グルアアアッ!」
走っても走っても、振り切る事が出来ない。
今僕は、ゴブリン三体に追われている。
ゴブリンは、迷宮では最弱の
だが、僕はその
左腕はゴブリンが持っている剣に斬られたせいで、血が止まらず使い物にならない。
左腕程じゃないが、右腕も足も怪我している。
はっきり言って、絶対絶命だ。
「……う、嘘…だろ…?」
そして、この
なんと、ゴブリンから逃げた先は行き止まりだったのだ。
迷路なんだから、当然行き止まりもある。
だけど…こんなタイミングで行き止まりなんて…
後ろを振り返ると、ゴブリン三体がニヤニヤしながら僕の方に歩いてくる。
戦おうと思っても、持ってきた僕の剣はゴブリンに折られてしまい手元にない。
今の僕はただの一般人だ。
「キヒヒヒヒ…」
ゴブリンが気色悪い声で笑う。
その笑い声は、さらに僕を絶望させた。
身体が震える、汗が止まらない。
「い…嫌だ…」
冒険者になる為に、これまで必死に勉強してきたのに…
四年間、アルドーラ学園で頑張って、昨日、やっと卒業したのに…
初日でこんなのって…ないだろ…
「死にたくない…」
僕は学校では成績が良くなかった、剣術と魔術はいつも最下位。
ずっと落ちこぼれで、
「お前なんか辞めちまえ」「お前は冒険者になれない」とクラスメイトに何度も言われた。
クライブ君にも、さんざん馬鹿にされてきた。
だけど、ずっと耐えてきた。 暴言にも暴力にも、耐えてきた。
冒険者になるのは、僕の夢だったから。
なのに…
「誰か…! 助けて下さい…!!」
死にたくない。 無様でも、格好悪くても、死にたくない。
まだ…行きたい…
「アイス・ニードル!」
誰かの声が聞こえた。 綺麗な声だった。
そんな声がして、ふと前を見てみると……
それまでニヤニヤしていた三体のゴブリンの腹に、大きな丸い穴が空いていた。
腹に穴が空いたゴブリンは、前のめりに地面に倒れた。
「……え…え…?」
な、何が起こったんだ…?
な、なんでいきなりゴブリンが…
それに…あの声は…
「大丈夫? 怪我はない?」
僕がパニックになっていると。
僕が逃げてきた方向から足音と共に声が聞こえてきた。
そして、遂に声の主が見えてきた。
「…良かった。 死んでないみたいだね」
声の主は、綺麗な長い白髪の…美少女だった。
胸と腕だけに鎧を付け、白と青の服を着て、腰には剣を刺している。
白髪の美少女は僕の姿を見て優しく微笑んだ。
「君、
その一言で、確信する。 この人は、中級…または上級冒険者だ。
そんな人が僕を出口まで案内してくれる…
「た…助かっ…た…」
安心したら足の力が抜けて、地面に座り込んでしまった。
「大丈夫? ……怖かっただろうね」
白髪の美少女は、優しく僕の頭を撫でてくれた。
この人…見た感じ僕と歳は近い感じだけど…凄いな…
「あ、あの…助けていただいて、ありがとうございます」
「お礼なんていいよ。 助け合うのは当たり前の事だから」
な、なんて優しい人なんだ…!
「そろそろ立てる? 早く出た方がいいと思う」
「あ、はい! すみません!」
壁に手をついて何とか立ち上がる事が出来た。
「それじゃあ、行こうか」
「は、はい!」
白髪の美少女が歩き出し、僕も後ろをついて行く。
「ガアアアアッ!」
「あ! ご、ゴブリンです!」
出口に向かって歩いていると、ゴブリン一体と遭遇してしまった。
ゴブリンを見ただけでまた身体が震えだす。
「大丈夫。 怖くないよ」
僕を気遣ってか、肩をポンポンと優しく叩いてくれた。
白髪の美少女は、腰に刺している剣を抜き、構える。
「…っ!」
強い。 一瞬で分かった。 あの人は強い。
剣の構え方、佇まい、どれも学校で見た人以上だった。
「……ふっ!」
白髪の美少女は地面を蹴ると、一瞬でゴブリンの懐にたどり着き、ゴブリンの腹に剣を突き刺した。
「ガアッ⁉︎」
「終わり」
そのまま剣を右に振ると、ゴブリンの身体が真っ二つに割れた。
「………」
言葉が出なかった。
さっきはパニックで良く見れなかったけど、今度ははっきりと見れた。
だからこそ、はっきりと分かった。 実力が違いすぎる。
「さぁ、行こうか」
「…は、はい!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「見えてきた。 出口だよ」
「ほ、本当だ!」
やっと迷宮から出れる。
外へと続く階段を登ると…
「そ…外だ…」
今から迷宮に行くと思われる人達が、剣の手入れや、持ち物のチェックをしていた。
「君」
「は、はい!」
白髪の美少女に呼ばれ、直ぐに振り返ると、白髪の美少女は、僕の左腕を指差し…
「その左腕、出来るだけ早く治療した方がいいよ。 菌が入ると危険だから」
「はい…分かりました」
この人が一瞬で倒した相手に、僕はこんなに怪我させられて、殺されかけて…
情けないな……必死で勉強したのに…
「……綺麗だね」
「……へ?」
突然、白髪の美少女が呟いた。
僕が困惑していると、白髪の美少女は僕の頭を撫で…
「君の髪。
そう言って、至近距離で微笑んだ。
その笑顔を見た瞬間、僕の顔が熱くなった。
きっと赤くなったんだろう。
「え…あ…あの…」
「黒髪って珍しいよね。 あまり見た事がないよ」
「そ…そうで…すね…」
確かに、アルドーラには黒髪はあまり居ない。 学校でも黒髪は僕1人だったし……
だけど…ずっと頭を撫でるの、やめてもらっていいですか…?
「あ…あの…」
「あ、ごめんね。 つい夢中になっちゃった。 私は行くね」
僕の頭から手を離し、白髪の美少女は僕から離れる。
僕は手を振ろうとして、気づく。
名前…教えてもらってない…
「あ、あの! 待って下さい!!」
あの人とは友達じゃないし、もしかしたらもう会う事はないかもしれない。
「ん? なに?」
だけど…名前を、知りたいんだ。
「あ、あの…名前…教えてもらっても…いいですか…?」
「え……?」
お互いに何も言わずに、数秒間立ち尽くす。
……やっぱり、見ず知らずの相手に名前なんて教えたくないよね…
「すみません…やっぱりいいで……」
「私、もしかして名前教えてなかった…?」
「へ…?」
「ごめんなさい。 私、偶に自己紹介するの忘れちゃうの」
え…自己紹介を忘れるって……え?
でも良かった。 嫌な訳じゃないんだ…
「私の名前は、シャルロット・スフィール。 君は?」
シャルロット・スフィール……シャルロットさんか……
「僕は、グラン・ブライトです!」
「グラン君、だね。 覚えたよ、それじゃあ、また今度ね」
また今度。 こんなに嬉しい「また今度」は初めてだ。
「はい! また今度!」
最後に白髪の美少…いや、シャルロットさんは手を振ってから、アルドーラの街へと歩いて行った。
「シャルロット・スフィールさん……かぁ…」
顔も可愛かったけど、名前も可愛いなぁ……
しかも凄く強かった。
出来る事なら、一緒に
「よし、決めた!」
これまでは、冒険者になる事を夢にして頑張ってきた。
でも、その夢は今日叶ったから、僕には今夢がない。
だから、今、新しい夢を決めた!
「絶対に強くなって、シャルロットさんと一緒に
これが、僕の新しい夢だ!
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