ジャパリカフェ、チェーン展開計画!?
とこよみあ
第1話
「とっても美味しかったわ」
「そう? 嬉しいねぇ。淹れたかいがあったってもんだよぉ」
ジャパリパークの高山にある、ジャパリカフェ。ここでは店主のアルパカ・スリが、今日も常連客を紅茶でもてなしていた。
常連客といっても、アルパカのほかにはトキとショウジョウトキしか、店内にはいない。
「淹れがいって意味じゃ、この前の方が楽しかったんじゃない?」
ショウジョウトキが、先日のことを思い出して言った。ラッキービーストに呼ばれて、巨大黒セルリアンをみんなで倒したあと、アルパカ・スリは、遊園地に集まったフレンズたちに、紅茶を淹れてあげたのだった。
「でもあのときは、あんなにひとが集まってるとは思わなくて紅茶をすぐ切らしちゃったし、設備もないから、みんな満足できなかったんじゃないかなぁ……」
落ち込むアルパカに、紅茶のおかげで歌が上達しているトキが声をかけた。
「みんな、美味しいって言っていたわ。でも、たくさん飲みたかったフレンズも、いるでしょうね」
「そうかなぁ? でも、だったらカフェに来てくれればいいのに……」
「やっぱりみんな知らないんじゃない。カフェがここにあるって」
「でもさ、トリ系の子は、外にある“あれ”のおかげで、気になって来てくれる子もいるじゃない――あたしみたいに」
かばんがカフェの外の草を刈り取ってかたどったカフェのマークは、たしかにカフェにフレンズを集めた。それでもやはり一番熱烈に通っているのはトキで、ショウジョウトキは、トキに熱烈に誘われて、二人はこうして多くの時間をカフェで過ごすことになっていた。
「遊園地で紅茶を気に入ってくれた子たちが、ここに来てくれない、ってことね」
たとえばトリ系のフレンズであっても、アフリカオオコノハズクとワシミミズクは図書館に、アリツカゲラはロッジにと、なかなか難しそうだった。
「だからさっ、『自分のなわばりにもカフェがあればいいのに』って子、いたわよ。ここ以外にもカフェ、つくればいいんじゃない?」
ショウジョウトキのその提案に、アルパカは驚く。
「ああ~! そ、そうだ、それだよぉ! そうすれば、みんないろんなところで紅茶が飲めるねぇ!」
「でも、こんな大きなもの、どうやって作るのかしら。図書館で訊いてみる?」
「そういえば、遊園地に集まってたフレンズに、ものを作るのが得意な子たちがいたわよ。頼んでみたらどうかしら?」
「そうだねぇ、行ってみよかなぁ」
「たしか、湖畔に住んでたはずよ」
「カフェ……っすか?」
「紅茶はほんとうはそこで飲むんでありますか!興味深いであります!」
「塔の上で飲む紅茶も美味しいけどね」
湖畔にあるアメリカビーバーとオグロプレーリードッグの家に、アルパカたちは来ていた。
「ここで飲む紅茶も美味しそうね、ふふ」
「持ってきたよぉ、みんな飲むぅ?」
すぐに、五人分の紅茶がカップに注がれる。余分はほとんどなかった。
「カフェ……作ってみたい……っすけど、どんなふうに作ればいいのか……」
「確かに……、自分とビーバーどのと二人だけの家、とは勝手が違うでありましょうし……」
「せめて、一回カフェを見れればいいんすけど……」
「じゃぁ、一回来てみてよぉ」
「それじゃ、カフェに戻りましょうか」
「あっ、……待って。飛んでいけるのはトキとあたしだけだし、それぞれ一人しか運んでいけないわ」
「二回行き来すればいいんじゃない。まずアルパカと、ビーバーかプレーリーのどっちかを運んで、もう一回こっちに戻って残った二人を運ぶの」
「えっとぉ、それって、おれたち二人をまとめて運んでもらうんじゃ、駄目っすかね?」
アメリカビーバープレーリードッグの表情が少し曇っていた。二人で生活を始めたのは最近のこととはいえ、少しでも別れる時間を想像したのだった。
「でもぉ、お客さんを待たせるのは申し訳ないかなぁ。それにね、カフェを開けてる間は、店員、が、いないといけないんだってぇ」
「外だけじゃなくて、中も見てもらったほうがいいものね」
そのとき、ショウジョウトキが、また記憶をたどって口を開いた。
「ようは、実物じゃなくても、カフェがどんなもか分かればいいんでしょ。この家も、絵を見て作ったんでしょ」
「かばんさんのおかげで、おれたちが好きなように変えてしまったっすけどね」
「カフェの絵なんてあったかしら」
「ないなら、描いてもらえばいいのよ。ロッジに行きましょう」
「カフェといえば、こんな話があってね。夕暮れ時、客もいなくなって、店員が一人。店じまいをしようとしたとき、客がやってきてね。店員が『ご注文は?』と尋ねると、客は……、なんて言ったと思う?」
「え……、こ、紅茶……かしら……」
ロッジからついてきてくれたタイリクオオカミが、机の向かいに座るショウジョウトキに、話をしていた。タイリクオオカミは、カフェの外観のスケッチを終えて、いまはアルパカが紅茶を淹れてくれるのを待っている。
「くす、違うよ」
ショウジョウトキは、タイリクオオカミの得も言われぬ雰囲気に怯えていた。カウンターでアルパカと談笑しているトキのほうをちらちら見ている。
「客は言ったのさ……注文は、……」
「……ごくり」
「お前だーっ!」
「きゃーっ!!!」
タイリクオオカミは、満足げな表情で、カフェの内装のスケッチとは別の紙に、ショウジョウトキの怯えた顔をラフに描いていく。
「いい表情、頂き」
「なになに、どしたのー?」
アルパカがポットを持って近づいてきた。
「なに、ちょっと怖い話をね。冗談だよ、ショウジョウトキ」
「こ、怖かったんだからぁー!」
ショウジョウトキが、カップを運んでいたトキの袖をつまんでいた。
「だいじょうぶ。安心できるように、歌でも歌おうかしら」
「い、いまはいいわ」
タイリクオオカミのスケッチのおかげで、アメリカビーバーとオグロプレーリードッグによってジャパリパーク中にジャパリカフェを建設する計画が動きはじめる。電気設備などは木で完全に再現しきれず、また壁にぶつかるのだが、それはまた別の話。
「いやー、これでパークのみんなが、飲みたいときに紅茶を飲めるようになるねぇ」
「そうなるといいわね。あ、でも結局、高山のジャパリカフェにフレンズが来ないって問題の解決にはならなかったかしら」
「あーっ、そうだったねぇ。しかも、一人じゃたくさんのカフェを回りきれないよぉ」
「まぁ、それはアルパカがしてもらったように、他のフレンズが紅茶の淹れ方を覚えればいいんじゃないかしら」
「となると、問題はここにひとが来ないことだけかぁ、どうしようかなぁ」
「いいんじゃないかしら」
「え……?」
「ほかにカフェができても、私はここに来るもの。ここが好きだし、ここで飲む紅茶もね」
「あ、あたしも、トキがいないカフェって想像もつかないわ」
「ふふ、嬉しい。歌おうかしら」
「そうねぇ、いまならいいかしら」
「……うん、うん! 聞かせてぇ! でも、その前に、紅茶飲むぅ?」
こうして高山では今日もトキの歌が響き渡る。
ジャパリカフェ、チェーン展開計画!? とこよみあ @kanatakaya91
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます