きょうりゅうずかん

林 佑

ずかん

「へぇ。これがサーバルちゃんの動物の姿なんですね。体の模様や大きな耳とかがそっくりです」


《フレンズ化シタ姿ニハ、元ノ動物ノ形質ガ強ク反映サレルヨ。サーバルノ跳躍力、トキノ歌声ノヨウニ、外見以外ノ部分ニモ動物ノ特徴ガ見ラレルンダ》



大型セルリアンの事件が一件落着してから数日後。かばんは、コノハ博士とミミちゃん助手からの「新しい料理を所望するのです。我々は常に新しい刺激を求めているのです」という呼びつけによってジャパリ図書館を訪れていた。



「サーバルちゃんについて書いてある本が"ほにゅうるい"で、PPPのみなさんたちが書いてある本が"ちょうるい"……」


《図鑑ニハ、動物ヲ分類ゴトニ分ケテ記述シテイルヨ》


「なるほど。コノハ博士たちはこういう本を使ってフレンズの皆さんの名前を調べていたんですね」



"ふるーつけーき"なる甘い料理を作り、この島の長たる二人を満足させたかばんが本棚の前で座り込んでペラペラとめくっているのは、コノハ博士たちに教えてもらった『図鑑』といわれている持ち歩くことが出来ないほど大きく重い本。

そこには様々な動物のイラストが簡単な解説文とともに記されており、サーバルを初めとしたフレンズ化している顔なじみ達の動物の姿もある。


サーバル達のフレンズ化した姿しか知らないかばんにとって、友達のもう一つの姿というものは非常に興味深いものである。腕でピカピカと光るボスの解説を受けながら、同じ様に目をキラキラと輝かせて黙々と読書を進めていた。


 哺乳類の図鑑を最後まで読み終えたかばんは、満足感を得るとともに一つの疑問を抱いた。



「ところでラッキーさん。動物って全部で何種類くらいいるんですか?」



 指差したのは図鑑の索引。そこには哺乳類しか取り上げていないにも関わらず、数ページに渡りたくさんの動物達の名前が並んでいた。文字を読むことの出来るかばんにはこれが名前の羅列だと理解できるが、きっと大部分のフレンズ達には一枚の絵としか判別できないだろう。さらに、この図鑑に入り切らなかった動物もたくさんいるとコラムで紹介されていた。まだ最初の一冊目であることから、これがまだ後数冊分。動物が何種類いるのを一人で数えるのは無謀でしかない。と、いうわけでかばんは自分で調べるよりは詳しそうなボスに聞いたほうが早いだろうという判断を下したのだった。



《動物ハ地球上デ百万種以上イルトサレテイルヨ。植物ヤ菌類モ合ワセタ場合、地球上ノ生物ハ五百万種以上ニナルト言ワレテイルンダ》


「言われている、ってことはまだヒトと会ってない人もいるんですか?」


《ソウダヨ。昆虫ノヨウナ小サナ生キ物ハ、今デモ新種ガ発表サレテイルンダ》


「すごいんですね……」



 そんな会話をしながらかばんは並べた図鑑たちを物色する。すると、一際目を引く一冊を発見した。



「"きょうりゅう"……? はちゅうるいとは違うのかな」



 かばんが持って引き寄せたのは、表紙にトカゲのような動物が描かれている図鑑。爬虫類の動物によく見られた鱗で覆われているものもいれば、鳥類のように羽毛が生えているものも表紙に描かれている。さすがに図鑑一冊を読破した後にもう一冊最初から熟読する集中力はなく、適当なところに指を入れてパッと開いた。

 

 そこには、骨、骨、骨!



「食べっ!?」



 するどい牙、するどい爪、大きな口に太い足、水平に伸びる長い尻尾。これらの体が骨だけで形作られている絵が見開きで掲載されいてた。まさにモンスター。現代の動物のさらにフレンズ化した姿ばかりを見てきたかばんの口から、しばらくご無沙汰だった口癖が飛び出しそうになる。

 そこで、腕のボスがピカピカと解説を始めた。



《コレハ"ティラノサウルス"ノ化石ダネ。中生代白亜紀ニ生キテイタ恐竜ダヨ》


「恐竜……」



 恐竜をはじめて見たかばんはこんな生き物が実際に生きていたことに大きな驚きと少しのワクワクを感じずにはいられない。今まで見てきた動物とは明らかに違う風貌で、本当に同じ動物なのかと疑うくらい。近くのコラムには、鳥は恐竜から進化したかもしれないと書かれているが、少なくともトキやPPPとはイマイチつながらない。

 そんな時、二つの影が上から降りてきた。



「どうですか、かばん。ヒトの知識の塊ともいえる図鑑を始めてみた感想は」


「それを解き明かした我々の知能も、です」



 それは勿論、満足げのコノハ博士とミミちゃん助手である。そういえば、二人は猛禽類という鳥の中でも戦う力が強い種類らしい。

 ほっぺたにくっつけた生クリームが、その印象を完全に打ち消しているが。



「ふたりとも、もう食べ終わったんですね」


「美味しかったのです。また作るのです」


「今度は中の果物を変えてみましょう。博士」



 よほど気に入ったのか、フクロウの二人はこちらに飛びながらもう次回の料理のメニューを決定させていたようだ。

「それはそうと」 と机に広げられた図鑑を一瞥してコノハ博士は続ける。



「かばんも恐竜の図鑑を見たのですね」


「あ、はい。すごいですね、恐竜のみなさんって。やっぱり、ぼくみたいに恐竜のみなさんもフレンズになってるんでしょうか」



 つまり、ヒトの体毛からフレンズ化したかばんのように、動物”だった”ものから恐竜がフレンズとして蘇るのか、ということである。

 その疑問にミミちゃん助手が答えた。



「我々はこの島の長ですが、恐竜のフレンズは見たことがないのです。同じような条件ならジャイアントペンギンやディアトリマがいるのですが」


「こういうのはラッキービーストに聞くのが一番なのです」



突然、コノハ博士がかばんの手を取ってボスに話しかける。



「えっ、でもラッキーさんはフレンズさんには……」


「我々は賢いので」



 それだけ言うと、コノハ博士はかばんの頬に自らの顔を近づけ、「んぁ」と軽くかばんの頬を噛んだ。



「ラッキービースト、ジャパリパークに恐竜のフレンズはいるのですか? 教えないとかばんをがぶりと食べてしまうのです」


《コノ島デハ確認サレテイナイヨ。食ベチャダメダヨ》


「「おー」」



 かしこい。かばんだけでなくミミちゃん助手も思わずぱちぱちと拍手をしてしまう。

 


「と、いうことらしいのです。まあ、もし恐竜とやらがこの島でフレンズとして生まれても、結局は同じフレンズなのです。我々がこの島の長であることには変わりないのですが」



 コノハ博士は自慢げに図鑑を指差した。そこには、恐竜達が暮らしている風景の想像図。そこに、今の動物との大きな違いは見られない。そこの住人達に毛が生えてる子がちょっと少なくて、生えてる植物が針葉樹が多いくらいだ。

 どこに生きても、どんな生き方でも、そして何時に生きていても、サンドスターを浴びてアニマルガールになったなら、つまりはみんながフレンズなのである。



「サンドスターは気まぐれなのです。ツチノコみたいな例もあるから、そのうちかばんもどこかで出会えるかもしれないのですよ」


「ツチノコさん? そういえばツチノコさんを図鑑で見てないような」


 

 確か爬虫類図鑑には載っていなかったような。

 そんなかばんの独り言に、島の長二人は一冊の本を差し出した。



『激録! ホントにいたUMA図鑑!!』

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