ジャパリカフェ事件

@nelleh

第1話

ジャングル地方の一角、とある山の頂上にあるジャパリカフェは、三人の来訪者を迎えて以降徐々に客足を伸ばしていた。


その日は特に来客が多く、トキから「喉に良いお茶」の評判を聞いたPPPの5人と近頃マネージャーに就任したマーゲイ、平原の二大勢力の長であるライオンとヘラジカに加え、住処が近いことから常連になっていたジャガーとオセロットが来店したところで、店主のアルパカが用意


していた茶葉が底をついた。

「あらー、お茶っ葉がもうなくなっちゃったよ。今取ってくるからちょっと待っててね。」

ジャガーとオセロットに了承を得ると、アルパカはカウンターの奥にある茶葉の保管庫に入っていった。

「うれしいなー。お茶っ葉が足りなくなるくらいお客さんが来てくれるなんて。・・・あれ?」

ウキウキしながら一通り目当ての茶葉を補充したアルパカの目に見慣れない瓶が映った。

「あれー。こんなところにもお茶っ葉があったんだ!」

薄暗い保管庫の最奥、一番高い棚にぽつんと置かれた茶葉は、これまでアルパカが飲んだどんなお茶とも違う香りを放っていた。

「ちょうどいいから今いるお客さんに試しに飲んでもらって、感想を聞いてみようかな。」

その瓶を小脇に抱え、新しいメニュー発見の予感にワクワクしながら、アルパカは店へと戻った。瓶のラベルには「危険!フレンズへの提供禁止!」とヒトの言葉で殴り書きがしてあったのだが、文字の読めないアルパカは知る由もなかった。


「これ、さっき見つけた新しいお茶なの。よかったら感想聞かせてね。」

アルパカは店へ戻ると、早速新しい茶葉でお茶を淹れてそれぞれのテーブルへ提供して廻った。

異変はすぐに起こった。


「うん、不思議な香りだけどなかなかおいしいわね。・・・って、マーゲイ、どうしたの?顔が赤いわよ。」

PPPのテーブルではメンバーが口々に感想を言い合う中、マーゲイがお茶を口にしてから黙ったままうつむいていた。心配したプリンセスが声をかけると、マーゲイは顔を紅潮させ、うつろな目でプリンセスを見つめ返した。

「うへへへ・・・・・・プリンセスさん、やっぱりかわいいですねえぇ~!」

言うが早いか、マーゲイはプリンセスに抱きつき頬ずりをはじめた。

「ちょっと!一体どうしちゃったのよ!」

慌てて引き剥がそうとするプリンセスだが、マーゲイの腕はがっしりとプリンセスの体に絡みついて離れなかった。

「おいおい、どうしたんだ?」

異変に気づいたコウテイが声をかけると、マーゲイはグリッと頭を向けてコウテイを視界に捉え、プリンセスから離れてコウテイに飛びかかった。

「うふふふふ・・・・・・コウテイさん、ふかふか~」

コウテイを床に押し倒したマーゲイは、コウテイのお腹にぐりぐりと頭を押し付けてその柔らかさを堪能していたかと思うと、そのまま眠り込んでしまった。

「なんなのよ・・・」

残されたメンバーは突然の出来事に失神してしまったコウテイと、そのお腹で幸せそうに眠るマーゲイを呆然と見つめる他なかった。


ライオンとヘラジカのテーブルでは、突然床に寝転がり、ゴロゴロと喉を鳴らすライオンにヘラジカが戸惑っていた。

「お、おいライオンどうした?なんだかフニャフニャだぞ・・・」

「ガァウッ!!」

とりあえず起き上がらせようと腕を伸ばした瞬間、ライオンの爪がヘラジカの頬をかすめた。ライオンは即座に起き上がり、四つん這いになって「グルル・・・」と喉を鳴らしながらヘラジカを威嚇した。

「ほう、なにやらよくわからんが、やる気になったということだな・・・?」

強者との力比べを何よりも好むヘラジカは、ライオンの異変を気にするよりも、久々に本気のライオンと闘えることに心を踊らせていた。

「ニャハハハハ!なんだかとっても気分がイイぞー!いっちょやるかぁ!!」

そんなヘラジカを見て、ライオンも大きく笑って肯定の意を示した。

「いいだろう!表にでろ!」

そのまま二人は店を出て取っ組み合いをはじめてしまった。


「あわわわわ・・・みんなどうしちゃったの?!」

ジャガーがボロボロと涙を流しながら眠りこけたオセロットに延々管を巻いている横で、アルパカは客の異変にうろたえるばかりで動けずにいた。その時、カランカランとドアベルの音が響き、カフェに二人の訪問者が現れた。

「発電機の様子を見に寄ってみれば、一体全体なんの騒ぎです?」

「まったく、騒がしいのです。」

入り口に立っていたのはジャパリパークの知恵袋、博士と助手のコンビだった。

「あー!はかせいいところに!」

ジャパリカフェの開店に、その知識をもって協力してくれた博士たちなら、この事態を収束させてくれるはずだと確信し、アルパカは事の経緯を説明した。

「それでね、このお茶を飲んだらみんなおかしくなっちゃったの・・・」

博士と助手は、オセロットの飲み残したお茶と、問題の茶葉が入った瓶の中身を口に含んだり、匂いを嗅いだりしてあれこれ調べ、すぐに結論を出した。

「これは、マタタビ茶なのです。」

「またたび茶?」

アルパカがよくわかっていない様子なので、やれやれと言った様子で助手が言葉を繋いだ。

「マタタビを猫科の動物が食べると酔っ払ってフニャフニャになってしまうのです。」

「毒ではないので、放っておけばその内元に戻るのです。」

博士の言葉を聞き、アルパカは安心した様子でへたり込んだ。


その後、博士の言葉通り夕日が沈む頃には全員落ち着きを取り戻し、各々の住処へと帰っていった。

マタタビ茶は二度と客に出さないよう、博士と助手はアルパカに釘を差して帰ったのだが、時々こっそり店を訪れてはマタタビ茶を注文するフレンズがちらほらいるらしい。

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