見つめろ!ハシビロコウ!!

@PPPP

第1話 伝えたい、この想い

 快晴の空に高く高く昇った太陽がわずかに西に傾き、昼下がりを迎えた平原は、風通しの良い爽やかな空気に包まれていた。


「この辺りなのですか、博士」

「この辺りなのですよ、助手」


 風切る音もなく、上空を旋回する二つの影――アフリカオオコノハズクの博士とワシミミズクの助手は、お互いの顔を見合わせながらつぶやいた。


 眼下の広い草原では、ライオンやヘラジカたちが、ゴムのような素材でできた球を遠くに蹴ってはそこに一斉に群がり、また誰かが球を蹴って遠くへ飛ばす、ということを何回も繰り返している。


 博士たちがその光景に気づく。


「あれは昔、ヒトが発明した遊びでサッカーというのです」

「ライオンたちが割れない球が欲しいと頼んできたから、かしこい我々があの球を作ってやったのです。じゃぱりまん10個で」

「しかしあれでは全く対決になっていないのです。かしこい我々のようにもう少し頭を使わないと……やれやれなのです」


 やがて博士たちは、目的としていた場所を見つけたのか、平原の中では比較的木や茂みの多い辺りに、ふわり、と降り立った。


「こうして様々なちほーを視察するのも我々の務めなのです。この島の長なので」

「かしこい我々が、トラブルを未然に防ぐのです。この島の長なので。ところで――」


 助手はミミズク特有のふわふわのファーで覆われた首を、博士の方にくるりと向ける。


「ところで、本当にこの辺りで間違いないのですか?」

「この辺りに良質なスパイスの採れる植物が自生していると、この前マーゲイから聞いたのです。確かあれはライブの演出のために光る棒を作ってやった時のこと。じゃぱりまん15個で」

「マーゲイはPPPぺぱぷのツアーに帯同して様々なちほーを回っているから、意外に情報通なのです」

「マーゲイの言う通りならば、我々が求める良質のスパイスが手に入るのです。じゅるり」

「我々が求めるおいしい料理のためには、畑の食材だけでは足りないのです。じゅるり」

「……とは言え、食材を探すのはあくまで視察のついでなのです」

「今日はたまたま偶然この辺りを視察にやってきただけなのです」


と、誰に問い詰められているわけでもないのに、勝手に言い訳を始めた博士たち。そんな二人の後ろの木の陰に、一人のフレンズが身を潜めていた。

 手触りが固そうな灰色の髪は羽を連想させるかのように左右に分けられ、黄色いサイドテールが目を引く。服も髪色に合わせた灰色で統一され、動きやすそうなホットパンツからは大きな尾が垂れ下がっている。そして何よりの特徴は、その鋭い眼光を投げかける、大きく切れ上がった双眸だった。


 彼女の名前はハシビロコウ。得意なことは――


じーっ……


(あれは博士と助手……こんなところで何をやってる……?助手が手に持っているのはカゴのようだな……なるほど、食通の博士たちのことだ、きっとここまで食材を探しに来たのだな)


――得意なことは、見つめること。


じーーっ……


(……あっ、博士の首のファーのところ、何か付いてる。あれは……この前かばんが作ってた、確かカレーって言ってたっけ?それが食べるときに着いたんだ。博士たち、お皿に直接口をつけて食べようとするから、ちょうど首元のファーの見えにくいところに。早く博士に教えてあげなきゃ……!)


じーーーっ……


(ああでもどうしよう、二人とも何か話しててなかなか声が掛けられない)


じーーーーっ……


(冷静に機会をうかがって、会話が途切れた瞬間を狙えば……)


じーーーーーっ……


(よし!いまっ……あっダメ、今度こそ……あっ、ちょっとそっち向かないでっ……)


じーーーーーーっ……



「な、なんだか後ろの方から強烈な視線を感じるのです」

「我々の第六感が危険を知らせているのです」

「あまりに危険すぎて、体が細くなってしまいそうなのです」

「すぐに逃げるのです、我々はかしこいので」

「君子危うきに近寄らずなのです」

「三十六計逃げるにしかず、とも言うのですよ」

「残念だけどスパイスはまた今度なのです」


 そう言い残すや否や、足早、いや羽早に飛び立った博士たちは、ハシビロコウが声を掛ける隙すらも与えない間に、見えないところまで飛んで行ってしまった。


(あっ、そんな……待って……!)


 すがすがしい青空の下、平原に一人取り残されるハシビロコウ。

 遠くからはライオンたちの賑やかな声が響いていた。


 想いが伝わるその日まで、見つめろ!ハシビロコウ!!

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