けものフレンズ 12.X話 さいかい

えすぱ

カバとアードウルフ

「大本命アライさんにお任せなのだ!ナナメ45度の角度で叩くとなおると聞いたのだ!」


フェネックが止める間もなく小動物に向けて鋭いアライさんの手刀が放たれ───見事に隣の何も無い地面に炸裂した。


「うええええええええええ!」


痛みに悶絶するアライさんへフェネックの言葉が追い打ちをかける。


「アライさん、やってしまったね~。叩くとなおるのはTVだよ~」

「ええー!そ、そんなー!」


喧騒が続く中、カバは驚きで硬直したままの小動物をそっと抱き寄せた。


「なんだか思ったより大事になってきましたわね」


ため息を漏らすカバをサーバルが励ます。


「へーきへーき。みんなで頑張ればかばんちゃんの時みたいにきっと何とかなるよ」

「本当に、そうなると良いんですけど……」



カバの抱える小動物の名前はアードウルフ。

ナワバリの様子を確認しに戻る途中のカバが、サバンナの入り口近くで見つけてきた。

アードウルフは水色の大型セルリアンに一度食べられ、獣の姿に戻ってしまっていた。


これまでのカバであれば「ジャパリパークの掟は、自分の力で生きること」だと関わりは最小限に留めていただろう。しかし、ヒトであるかばんちゃんとの交流を経て、カバはこの小動物を助けたいと考えるようになっていた。


カバがフレンズの姿を取り戻させるための方法を思案していたところでサーバル達と出会い、解決方法を各々が探しに行ったのだが……気が付くとあちこちのフレンズにまで話が広まり、アードウルフ復活コンテストが始まっていた。


「気を取り直して次のチャレンジャーさん!いってみましょー」

「これね、水筒って云うんだって。身体に良いお茶を淹れてきてみたよ。さあどうぞ~」

「わたしはートぉーキー!歌にはー癒しの効果がーあるってぇー聞いたのぉぉぉぅー!」

「プレーリー式のご挨拶で眠り続けるお姫様も目覚めたそうであります!んーーーー!」

「温泉に入れて3分たったけど姿は戻らないっす」「僕も入りたい」「あなたね~~」


会場に集まったたくさんのフレンズ達が色々な方法でアードウルフを元の姿に戻そうと試みたものの、その姿に変化は無かった。


「少し休憩にしましょうか」

「さんせーい」

「お弁当ありますよ」

「お茶もあるよ」

「ジャパリまんおーいしー!」

「アードウルフもしっかり食べなさいな」



お昼を少しまわったあたりで休憩タイムへ。

皆でジャパリまんを食べながらああでもない、こうでもないとフレンズに戻す方法を話し合う。多くのフレンズの協力が得られていることを改めて実感しながらカバはジャパリまんをほおばる。


「やっぱり博士達に相談するのが一番じゃない?」

「かばんさんとフネ?について何か調べてるんでしたっけ」

「アードウルフの事は伝えてあるからそのうち来ると思うよー」


<アードウルフ。ハイエナ科最小種でサバンナや草原に生息しているよ。名前は大地のオオカミという意味だよ。シロアリが大好きで毒を持ったシロアリを食べるために毒を中和する成分の唾液を持っているね。穴を見つけると潜る習性があるよ>


「あ、ボス!かばんちゃんと博士も!」


会場にやってきたかばんちゃん、博士、助手にこれまでの状況を話す。

博士と助手の知る限りでは有効な手立ては他に無さそうだったが、考え込んでいたかばんちゃんがおずおずと口を開いた。


「あのっ……思ったんですけど、セルリアンにサンドスターを食べられて元動物に戻ってしまったのなら、サンドスターをまたあげることでこの子はフレンズに戻れるのではないでしょうか?」

「やるですね!博士、カバンの話は一理ある気がするのです」

「そうですね。助手、試してみる価値はあるのです」


サンドスターを集める方向で話がまとまるとそこからの動きは早かった。


「よし、サンドスター集めは草原のフレンズに任せてくれ」

「ライオンよ、どちらが多くのサンドスターを集めるか競争だな?」

「いえ、今回そういうのは……」

「いざという時の護衛はセルリアンハンターが務めますよ」

「サンドスターの持ち運びにはこの黄色い桶を使うと良いです」


協力を申し出るフレンズが次々と現れ、サンドスター収集に向かっていく。

みるみるうちにサンドスターが集まり小山のようになった。


「流石はライオン、やるな」「ヘラジカ、お前こそ」

「ちょっと多過ぎない?」

「「はっはっは」」

「ありがとうございます、皆さん」



集まったサンドスターにそっとカバがアードウルフを乗せる。

キラキラと光に包まれて輪郭を失っていくアードウルフに皆の声がかけられる。


「アードウルフー!」

「がんばれー」

「美味しいジャパリまんが待ってますぞー!」

「アードウルフさん、頑張ってください」


周囲の声援の中でカバはアードウルフは何を頑張れば良いのかしら、と光を見つめながら身震いしていた。サンドスターを使ってもフレンズに戻ることが出来なかったら?恐ろしい考えで頭の中がいっぱいになり、声が出ない。


「大丈夫、かばんちゃんはすっごいんだよ!」


気がつくとサーバルがカバの隣にいた。

サーバルの視線は光に包まれたアードウルフに向けられている。

その視線に不安や迷いの色は無い。

サーバルの瞳を見てカバの覚悟も決まった。


「ええ、知ってますわ」


微笑んで光の中のアードウルフに声をかける。


「大丈夫かしら? あなた自分の名前は、わかる?」


カバに促され、ゆっくり2本足で立ち上がったフレンズは頷いた。

ふらつく身体ををカバが隣から支える。


「ありがとう……です。みんなのお陰で元に戻ることが出来ました……アードウルフです」


フレンズ達の歓声が一斉にわあっと上がった。


「おかえりなさい!」「良かったよー」

「これからもどうかよろしくね!」


「……はい!」

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