りょうり

@tunayu

さぷらいずなのです!

超大型セルリアンを皆で協力して倒してから2日が経過しようとしていた。フレンズ達によるかばんのための密かな計画もスタートし、全ては順調に思えたのだが……。

「博士、これはパークの危機なのです」

「そうですね、助手」

博士ことアフリカオオコノハズクと助手ことワシミミズクは険しい顔で頷きあう。そんな二人に向かい合うようにしてやや呆れた様子でヒグマが口を開く。

「いや、パークの危機っていうには流石に大袈裟じゃ……」

「何を言うのです!これは一大事なのです!」

「博士の言う通りです、頭を使うのです」

「そ、そんなになのか……?」

ヒグマは二人の剣幕に只ならぬものを感じ取る、彼女達がここまで真剣に悩んでいる様子など滅多に見れるものではない。

「かばんがこの島からいなくなったら、いなくなってしまったら……!我々は、我々は……!」

ヒグマはゴクリと唾を飲む。少しの沈黙の後、博士はかっと目を見開き叫ぶ。

「料理が食べられなくなるのですーー!」

図書館に、博士の絶望に塗れた声が響いた。


「と、いうわけでかばんがいなくても料理を作れるようにするのです!我々は賢いので」

「ついでにサプライズでかばんに振る舞ってやるのです、かばんには内緒なのです」

「ああ、だからかばんに教えてもらわないのか。だからって、なんで私が呼ばれてるんだ?」

不思議そうに尋ねるヒグマに助手がやれやれと言わんばかりに答える。

「料理には火を使うのです、頭を使うのですよ」

「ああ、だから私が呼ばれたのか。料理ってのが何なのかも大体わかった。でもそれ、そんなに重要そうに思えないぞ?」

ヒグマは二人に素朴な疑問を投げる、彼女達は島の管理を任された長としてこれまで多くの問題を解決してきた。ヒグマも彼女達の事は頼もしく思っている。だが、どうしても彼女達が料理を食べられるようにすることはさほど重要な問題だとは思えなかった。

「料理を食べられないと頭が回らないのです。我々は賢いので……」

「お腹が空くと力が出ないのです。我々は賢いので……」

彼女たちはがっくりと力なくうなだれる。どうやら彼女たちにとって料理が食べられない事はヒグマが思うより深刻な事であるようだった。

「頭が回らないとパークの管理に支障が出るのです。パークの危機なのです」

「勿論かばんに頼めばすぐに理解できるのです、ですが……」

助手はそこまで言うと口ごもる。そこから先は、言われなくてもヒグマにはなんとなく分かった。要するに、彼女たちはかばんを喜ばせたいのだ。

「ですがまだ肝心の料理する方法が分からないのです」

「また分かったら教えるのです。くれぐれもかばんには内緒にするのですよ」

ヒグマが頷くのを満足そうに見届け、博士と助手は彼女を送り出すのだった。


「分からないのです~!」

あれから一週間経った夜。助手を寝かせたままこっそりとベッドから抜け出した博士はわなわなと料理本を握っていた。あれから調理本の文字を解読しようと試みているのだが、最初の一文字すら理解することは出来なかったのであった。不意に博士の肩を誰かがつかむ。博士が振り返るとそこにはヒグマが立っていた。

「いや、ほら。毎晩博士達が頑張ってるみたいだからさ。何か私たちに出来ることがないかなと思って、はい差し入れ」

ヒグマはじゃぱりまんを博士に差し出すが、その上には土がこれでもかと言わんばかりに盛られている。

「私はあんまり美味しいとは思わなかったんだけどさ、アクシスジカの奴が博士なら絶対気にいるはずだって――」

「はぐ、はぐ、はぐ、はぐ」

博士は夢中でそれを頬張る。その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。

「これは料理ではないのです、じゃぱりまんに塩を塗っただけ……なのに、なのにすごい美味しいのです」

私は大馬鹿ものだったのです。料理とは、料理だから美味しいのではなかったのです。こうして自分のために食べ物を作ってくれてるから、それが嬉しくて美味しく感じるのです。

「大丈夫か博士!?どこか痛むのか!?やっぱり身体に悪いんじゃ」

心配そうに尋ねるヒグマに博士は涙を拭いつつ答える。

「ありがとうヒグマ。おかげで元気が出たのです、やっぱり私にもまだまだ知らないことはいっぱいあるのです」

ヒグマは照れ臭そうに頭をかく。

「そ、そうなのか。元気になったようでよかったよ」

それを眺めると博士は微笑む。

「でも、やっぱり料理は作らないとなのです。かばんにもこの美味しさを味わってもらわなければですね」

「ああ、頑張れよ。んじゃ、私、助手のとこ行ってくるから」

「え、助手も起きてるのですか!?」

「え?ああ。外から見たときは助手の部屋も明かりついてたぞ。博士の邪魔をしちゃ悪いと思ったんじゃないかな」

「水臭いのです!一緒に行くのです!」

博士とヒグマは一緒に部屋を出る。月明かりが図書館を優しく照らしていた。


「やっぱり分からないのです~!」

その翌日、博士と助手はわなわなと料理本を握っていた。あれから調理本の文字を解読しようと試みているのだが、やはり最初の一文字すら理解することは出来なかったのであった。そこに誰かの声がかかる。

「お、やってるやってる。ちょっと漫画の資料を探しに来たよ」

「オオカミではないですか、まあせいぜいゆっくりしていくのです」

「今日はキリンとは一緒ではないのですね、まあゆっくりしていくのです」

「賑やかなのもいいけれど、たまにはこうしてゆっくりと描きたいときもあるのさ」

オオカミは適当な場所に腰を掛けようとする、が。不意に彼女たちの握っている本が気になるようだった。

「オオカミには難しすぎるのです、おとなしく原稿を書くのです」

「我々は今とても忙しいのです。我々は賢いので」

「いいじゃないか、少し見せておくれよ」

オオカミは興味津々といった風に身を乗り出し、すらすらと本に目を通し始める

「へえ、野菜を切ったあと火の上に置いた鉄の箱に入れ水を入れるのか。何の漫画なんだい?気になるね」

博士と助手は驚愕の面持ちでオオカミに身を乗り出す。

「タイリクオオカミ!?ひょっとして文字が読めるようになったのですか!?」

「驚きなのです、でもタイリクオオカミは記号は読めても文字は読めなかったはずなのです」

「え?ああ。ここに何が書いてるのかはさっぱりわかんないんだけどさ」

タイリクオオカミはその料理本の写真部分を指差して言う。

「ここさ、丁度私の描いている漫画みたいにこっちに進むごとに時間が進んでいってるだろう?」

「……………!!!!」

「……………!!!!」

「なんだい?ひょっとして、気づいてなかったのかい?」

「まさか、貴方を試したのです」

「一番最初の文字の解読に躍起になってそこに気付かなかった、なんてことはないのです。我々は賢いので」

「こうしてはいられません、早速ヒグマを呼んでくるですよ。助手!」

「我々の賢さを見せつける時がきましたね、博士!」

そう言いながら博士と助手は空へと羽ばたいて行く

「あ、ちょっと!結局これは何の漫画なんだい!ねえってば!」

「丁度良いからオオカミにも食わせてやるのです」

「後で説明してやるのです。良い子にして待ってるのですよ」

博士と助手は勢いよく空へと飛んでゆく。


その後オオカミの指示によりカレーの様なものが無事出来たのだった、博士と助手は早速口に運んだのだが……

「ま、まずいのです~~~~!」

彼女たちが火加減を覚えるのは、まだ先になりそうだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

りょうり @tunayu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ