PPP × TokiToki Combination

沢菜千野

世界中に響け、素敵な歌声

「みんないくわよ!」


 ペンギンパフォーマンスプロジェクト――通称PPPペパプのリーダーであるプリンセスが、手を宙に向かって突き出した。


 コウテイとジェーンがプリンセスの手に手を重ね、イワビーもロックに振り上げる。


 フルルはというと、巨大な赤い観覧車の脇に再建中のステージをぼうっと見つめていた。


「セルリアンを倒せた&かばん何の動物か分かっておめでとうの会、ほんとに私たちも参加していいの?」


 そう言うのは、トキ。トキの横には、喋るトキを楽しそうに眺めるショウジョウトキの姿もある。二人はジャパリカフェで出会ってからというもの、しょっちゅう会って話すようになっていた。


「もちろんよ。一緒に盛り上げましょ!」


「嬉しい。私の歌でもっと楽しいお祝いの会になるわね」


 プリンセスからの快諾に、トキは笑顔を見せる。


 しかし、そのトキを見て周囲のペンギン五人の顔は心なしか引きつっていく。


「ん、何言ってるの。よりすごいお祝いの歌を届けられるのはあたしよ」


「あら、本当? それじゃあ今から勝負ね」


「ストップストーップ」


 今にも波動を生み出しそうな二人の間に、コウテイが割って入った。


 しかし、それも虚しく、コウテイの両耳に二人の歌声が直撃することとなる。


 襲い来る赤と白のメロディーに、コウテイは思わず白目をむいてしまう。


「どうしましょう。コウテイさんがトキさんたちの声に挟まれて白目になっています」


「ほっとけよ。勝手に自滅しただけだ」


「どんどん舞台が出来上がっていくね」


 トキとショウジョウトキの歌声が一帯を支配する中、それをかき消す音量で誰かが喋った。


「もうみんな! ちゃんと練習しないと!」


 一週間後の本番に向けて、今からしっかり練習していかなくてはならないのに、その段階にすらなっていない。


 しびれを切らしたプリンセスは思わず叫んでいた。


 その声を聞いて、好き勝手に喋っていたフレンズたちはやっと静かになる。


「ハカセからの依頼なのよ。ちゃんとやらないとジャパリまん持ってかれちゃう」


 それに、とプリンセスは続ける。


「セルリアンを倒せたことだけじゃなくて、ジャパリパークのために頑張ってくれたかばんを祝う会でもあるの」


「わかってるけどよ」


「ごめんなさい」


「歌はみんなの心に響くもの。届ける側がこんな気持ちじゃ伝わるものも伝わらないわね」


 口々にフレンズたちは反省の言葉を紡いでいく。


 三週間前の重大事件。パークのみんなで戦った記憶を思い出し、自然と言葉が溢れていた。


「そうだね。トキコンビとPPPが力を合わせれば、とってもすごい会になるよ」


「よっしゃあ。ロックにいこうぜ!」


「では、まずは歌の練習からですね」


 ショウジョウトキが口角を吊り上げ、イワビーは元気よく吠える。


 しかし、ジェーンがそう言った途端に場の空気が凍り付いた。


「お前らも歌うのか?」


「はい。ぜひ歌わせてください」


「ってコウテイ、白目をむくなーっ!」


「ほらほらほら! みんなで最高の舞台にするんだから。トキとショウジョウトキ、ようこそジャパリパークへ、歌ってみて」


 プリンセスの言葉に、トキとショウジョウトキは破顔する。


 そして二人は視線を送り合うと、息を大きく吸い込み歌い出した。


 その瞬間、周囲の空気は一変する。


 今までのただ漂っていただけの空気とは違う、確かな存在がそこに生まれた。


 一部のラッキービーストが言うとってもうるさく濁った声であっても、精一杯気持ちを込めた二人が集まって歌えば、それは素敵な歌声へと変わる。


 思わず聞き惚れてしまうほど綺麗な音楽が、広場に響き渡っていた。


「どうだった、私たちの歌」


 二人が歌い終えたとき、PPPの五人は気が付けばペチペチと拍手をしていた。


「すごーい……」


「感動しました!」


「何だよ。すげぇじゃねえか」


「やればできるじゃない」


「……ジャパリまん、ハカセたちに持ってかれちゃうの!?」


「えっ?」


 満足そうな表情を浮かべていたトキとショウジョウトキの表情が、驚きで一瞬真顔になった。


 四人が賛辞を贈っていた中、フルルだけは相変わらずの天然具合を炸裂させる。


「今かよ!」


 イワビーが間髪入れずにツッコミを入れると、みんなも堪えられずに笑い出し、その顔に笑顔を咲かせた。


「さあさあ、あったまってきたところで本格的に練習に移りましょ」


「ですね」


「ああ!」


 それぞれが良い顔をしたまま、七人はフォーメーションを組む。


「それじゃあいくわよ。大空ドリーマー!」


 プリンセスの掛け声を合図に、彼女たちは歌い出した。


 PPPの持つフレンズを魅了する才能と、トキトキコンビの努力の賜物が重なり合う。


 広場で改修作業をしていたフレンズたちも、思わず手を止めて聴き込んでしまう。


 観覧車を整備していたラッキービーストは目を虹色に光らせ、他のラッキービーストと通信を始めていた。


 そんな様子を眺めていた博士と助手、そしてマーゲイは満足そうに何度も何度も頷く。


「この七人を組ませたことに間違いはありませんでしたね」


「もちろんです。我々は賢いので」


「当然です。我々は賢いので」


「……でも、ほんとこのPPP×トキトキコンビもありですね。うへへ。えへへぁ」


 マーゲイは瞳をハート型にして頬を桃色に染める。


 それを見た博士と助手は、やれやれといった様子で広場を後にするのであった。






「サーバルちゃん、ラッキーさんから何か聞こえてきますよ」


「ええっ。どうしたの?」


「この声は、PPPの皆さんと……トキさん?」


「うそだー。そんなはずないよ!」


「どうして?」


「だって、こんなにじょ、じょう……」


「どうしたの、サーバルちゃん」


「ううん。何でもないよ」


「でも、笑ってるように見えるよ?」


「そんなことないよ!」


 ラッキービーストを介して、ジャパリパーク各地へ広がっていく七人の歌声。


 その素敵な歌声は、ペンギンユニットの歴史に確かに刻まれる。


 自分の力で生きていくことが掟であっても、そこには頼れる仲間がいる。


 力を合わせて笑い合えるのなら、どんどん誰かを頼って頼られる、そんな関係を築いていってもいいのかもしれない。

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PPP × TokiToki Combination 沢菜千野 @nozawana_C15

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