ようこそ、ジャパリカフェへ!

@arice0001

一客目 アフリカオオコノハズクとワシミミズク

「いらっしゃい、ようこそぉ、ジャパリカフェへ〜」


本日も絶賛営業中のジャパリカフェに来店を告げる呼び鈴の音色が鳴る。

カップを拭いていたアルパカが振り返り、喜びを隠そうともしない出迎えの声を張り上げた。


「いらっしゃってやりましたです、アルパカ」

「きてやったですよ、アルパカ」


やってきたのはアフリカオオコノハズクことコノハ博士と、ワシミミズクのミミちゃん助手だ。


「あれぇ、博士たちじゃあないか、どしたの今日は?」

「どうしたもこうしたも、ここはカフェなのですからお茶を飲みにきたに決まっているです」
「あなたの腕がどれほど上達したのか、この舌で確かめてあげようとわざわざやってきたのです」


ジャパリカフェは博士の知恵で経営が可能になったといってもよく、つまりこのカフェの経営者は事実上博士のようなものであり、アルパカはいち従業員もしくは店長の立場であるから、いつでも紅茶を振舞われる権利が私たちにはあるのですーー

との、口上を助手は述べ、「ちえ? けいえい?」と、ちんぷんかんぷんなアルパカに案内されるまま二人は席に着いた。


「ちょっと待っててねぇ、これ終わっだらすぐに入れて上げるからぁ」


「いいえ、急いでは事を仕損じるというのです。いくらでもとは言いませんが、まぁ、待ってあげるのです」


「そうです、口に含むのはこちらなのです。時を急いで失敗しました、なんてことになったら目も当てられません。幸い、我々は待つのは苦にはしないのです」


ドンドンと両手で机を叩きながら言う博士と助手に、なぜかアルパカは嬉しそうに笑ってキッチンへと戻っていく。

残った二人は、大きく首をぐるりと動かし店内を見回した。

テラスの席も含めて座っているのは自分たちの姿しかない。

僅かに甘いような香りも漂っているのは少し前にお客がいたのだろうかと顔を見合わせ、アルパカに声が届かないような小さな声で会話を始めた。


「誰もいない、ですね、博士。我々の貸し切り状態です」


「そうですね、助手。内装もなんだかおしゃれっぽくて、賢い我々にはピッタリなのです」


「では、残る問題は一つーー」


「お茶なるものが美味しいかどうか、です」


お茶の入れ方を教えて欲しい、とアルパカが図書館を訪ねてきたときは個人的に嗜むものだと思っていたが、そんな二人の意に反してまさかカフェを開いていたと知ったのはつい最近のこと。

ふとした風の噂でジャパリカフェなるものが営業していると聞いて、賢いフレンズの二人はすぐにぴんときたのだ。
鳥系のフレンズでもなければ訪れるものが限定されるこうざんエリア、ロープウェイがあるものの長い間メンテナンスを受けておらず使用されていないとなれば、まともに動かせる状態ではなかったが、それがどうしたことか、

隣の地方に飛んでいくフレンズの休憩場所として機能し、ロープウェイも動いているという。
フレンズたちの長として、博士とその助手がジャパリパークの異常を黙って眺めているわけはなく、こうして「調査」に足を運んでやってきたのだ。


「飲み物とはいえ、水を口にする以外したことがない我々ですが、この店に漂っている香りはなんとも形容しがたい複雑さなのです」

「鼻を突き抜ける透き通る香りはミントでしょうか、花のような甘さもあります、不思議と森に近い匂いもするのです。

確か博士はアルパカにハーブティーの知識も授けていましたね。

いいです、気に入りました。『私』はとても好きな香りです」


手持ち無沙汰にテーブルに円を描いていた博士の視線が助手を捉える。

助手もまた博士の視線を正面から受け止めた。


「そうですね、『わたし』も好きなのです、この香り」

「つまりアルパカの入れるお茶は『我々』が好む味というわけなのです」


二人の口角がほんの少し曲がり、またすぐに戻っていく。


「ところで、助手」

「なんですか、博士」

「お茶にはお菓子という甘い料理が付き物だそうなのです」

「甘い料理……カレーのような刺激的な辛さとはまた別のものなのでしょうか」

「ジャパリまんやカレーはお腹を満たすため栄養を摂取するため主食とするべきものであるのですが、お菓子はその主食の時間から外れた時に食べる娯楽品なのです」

「なるほど、我々が料理を求める心と同じようなものなのですね」


納得がいったように首を縦に振った助手は、お菓子について博士に尋ねていく。

見た目はどのようなものか、食欲を誘う香りか否か、肝心の味は美味しいのか美味しくないのか。

助手が尋ね、博士が答えていく。ボールを投げ合うように淀みなく喋る二人は、いつの間にかアルパカがハーブティーを運んでテーブルの上に置いてあることにようやく気がついた。


「んー、話は終わりか? だっだら、冷めないうちにさっさと飲んだほうがいいよぉ」


にこにことアルパカが、隣のテーブルから引っ張ってきた椅子に座って二人を眺めている。

ティーを注いだカップからは、博士と助手のどちらも嗅いだことがないような香りが漂っていた。


「「では、いただくのです」」


カップを口につけ喉に流し込む。


「どうどう? 博士に教えてもらったはーぶてぃー? っていうのやってみたんだぁ。美味しい? ねぇ、美味しい?」

「…………」

「…………」

「あ、あれ〜? まさか、美味しくなかったとかぁ……」


ウキウキと期待に胸を膨らませていたアルパカの表情が曇っていく。

カップに口をつけたまま停止していた博士と助手は慌てて感想を言った。


「い、いえ、美味しいです。美味しいのですがーー」

「なにぶん初めて口にするものですから、ちょっとびっくりしてしまったのです」

「そっかぁ、よがったよぉ、喜んでもらえて〜」


アルパカはその場で飛び上がり、堪え切れない喜びを表現する。

お茶の入れ方を教えてもらった本人に美味しいと言ってもらえたなら嬉しさは人一倍だろう。

そんなアルパカを見ながら最後の一滴まで飲みきった博士と助手は、立ち上がりカフェを出ようとして、


「あ」


と、呟いたアルパカに立ち止まった。


「さっき博士たちが言っでだ、おかし? ってやつうちで出来るがもしれねぇよ」


どういうことですかと助手が問いただすと、なんてことのないようにアルパカはキッチンの奥の戸棚からあるモノを取り出した。

それを見た博士と助手は恐る恐るモノに近づき、触ったり叩いたり座ったり持ち上げたり持ち上げられなかったりして、

目をカッと見開き、テーブルの上に置かれたピカピカの電子レンジを指差し、同時に叫んだ。


「「ジャパリ革命です!ジャパリパークに食の革命を起こすのです!」」


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