我々は「楽しい」を知りたいのです

@include_bababa

遺跡調査隊なのです

「なんでいつも一人でいるですか、ツチノコ」

「落ち着くんだよ!」


 アフリカオオコノハズクの博士とその助手ワシミミズクは、ツチノコのいる遺跡にやってきました。


「っていうかお前ら何しに来たんだ!冷やかしなら帰れ!」


 いきなりの博士の挨拶に、ツチノコはご機嫌斜めです。威嚇されて心なしか細くなっている博士に代わって助手が答えます。


「ツチノコ、この遺跡の調査に協力して道案内をするのです」

「はあ、なんでオレが手伝わなきゃならないんだ!」

「博士、あれを」

「そうだったのです」


 博士が取り出したのは、一枚の古びた地図。


「図書館で見つけたのです。遺跡に眠る、お宝の地図です」

「お、お゙だがら゙ぁ!?」


 急にツチノコの目の色が変わりました。


「宝探しをするです。見つけたお宝は、ツチノコが持っていくといいのです」

「い、いいのか……?」

「もちろんなのです。我々はこの島のおさとして、調査をしに来ただけなのです」

「我々は心が広いのです。この島の長として」

「……よーし、任せとけ。いっちょやってやる」


 最初の不機嫌はどこへやら、ツチノコはお宝には目がないのでした。


「うまくいきましたね、博士」

「ノコノコ思ったとおりいったです、助手」



 *



「それにしても、ここは道がぐねぐねしていて、地図もはっきりしないものばかりで、わかりづらいのです」


 地図に従ってお宝探しを始めた一行でしたが、どうも苦戦しているようです。遺跡の中は道が迷路のようになっているのですから、それも仕方ないことでしょう。


「道が複雑なのは、ここがきっとヒトを楽しませるために作られた施設だからなんだ。その証拠に前にラッキービーストが反応して、あ、前というのはかばんが来た時で、だからヒトがいるときにラッキービーストが反応したということは……はわっ!?」


 自分の好きなことは夢中になって語りだしてしまうツチノコなのでした。


「な、なんだコノヤロー!文句あるか!シャー」


 途中で思わず我に返ったツチノコでしたが、後を引き取って博士が続けます。


「ここが『あとらくしょん』ということですね」

「知っているのか……?」

「当然なのです。我々は賢いので」


 さすがは森の賢者です。助手も続けます。


「『あとらくしょん』はこの遺跡以外にも、何か所か確認されています。そのすべてが、ヒトを楽しませるための施設だと考えられるのですが、あまりにも共通点がないので、どのようにしてヒトが楽しんでいたのか、不明な点が多いのです」


「博士たちは天才ですが、『楽しい』というのがどういうことなのか、まだよくわからないのです。わからないことは知りたくなるです。今日ここに来たのは、宝の地図を見つけたからなのですが、この地図に『フレンズと一緒ならもっと』と書いてあったのです。だから、遺跡に詳しいお前をそそのかして『楽しい』を探しに来たのです」


「というわけで、ツチノコ、我々にもっと聞かせるのです。わかったこと、全部話すです」


 ツチノコ、若干言葉を失っています。それもそうでしょう、今まで他のフレンズに話した時は、煙たがられるか黙って聞いてもらうかのどちらかだけでした。聞き手に知識があって、しかももっと話せと言われたことはこれまでありませんでした。


「ぉ、おぉ、コホン。そうだな……」


 咳払いひとつ、気を取り直して。


「この遺跡自体、ヒトを楽しませるためにつくられたものだが、もうひとつ、このお宝の地図。これもきっとヒトを楽しませるためのものだ。だから、この地図はあえて読みづらくしていて、この地図でお宝を探すのが『楽しい』ということなのだと思う。」


 思わず地図をのぞき込む博士と助手。


「その説、なかなか興味深いのですよ。いかがでしょう、博士」

「この地図が『楽しい』ですか……まだよくわからないのです」

「やっているうちにわかってくるのでしょうか」


 むむむむむ、と二人して地図とにらめっこしていましたが、そこでツチノコが気がつきました。


「なぁ、ところで今気づいたんだが……この迷路、上から飛んでいった方が早いんじゃないか?」

「「あ」」



 *



 というわけで、ツチノコは羽ばたく博士たちに抱え上げてもらい、上空から道を探すことであっさりお宝の場所に到着しました。それにしてもこの遺跡、ずいぶんと天井が高いですね。


「これが……お宝……」


 三人の前には宝箱があります。


「では、開けるですよ」


 ごくり。息をのんで、その瞬間を迎えます。ギギギギギ……。




『ケケケケケケケケケケ!』

「「「ぎゃー!!!」」」


 中から不気味に笑う人形が飛び出してきました!

 しかもセルリアンを思わせる見た目をしているのです。どこかから、アナウンスの声も聞こえてきました。


『残念!その宝箱は、外れ。びっくりした?』


 びっくり箱でした。


「ななな、なんなんですか!これは!びっくりするじゃないですか!」

「す、すごいぞ!これも『あとらくしょん』なんだ!これが『楽しい』なんだ!そうか、入口のアナウンスがかすれてたのも、壊れたんじゃなくて実はわざとなのかもしれない。演出か!はっ、そういえばラッキービーストが地下迷宮って呼んでたな。ということはこの『あとらくしょん』全体がそういう演出で……はわっ!?」


 じーーっとツチノコを見つめる博士と助手。視線に気づいて、ツチノコは思わず我に返りました。


「お宝は手に入らなかったですが、ツチノコ楽しそうなのです」

「興味深いですね、博士」

「コホン……」


 ツチノコ、咳払いひとつ。しっぽをぱたぱたしながら言いました。


「今日は、お宝は手に入らなかったけど、なんていうか、思ったよりよかった……。一人でいるのは落ち着くが、こうやってお前らと遺跡を探検するのも、なかなかいいもんだ。だ、だから……また図書館に、もし宝の地図とかあったら、またやろう」


 顔を見合わせる博士と助手。博士が何か思いついたようです。


「ツチノコ、今度、図書館に来て一緒に料理を食べるです」

「なんでそうなるんだ……!」

「今日お宝を探してちょっとわかったのです。きっと『楽しい』は、料理を食べた時の『おいしい』と似たものなのです。顔が似ていたのです。だから、ツチノコも『おいしい』がわかれば、『楽しい』ももっとわかるようになるです」

「博士が言ってました。おいしいものを食べてこその人生なのですよ」


「……わかった。今度、行く」


 うつむき気味に顔を赤くするツチノコでしたが、まんざらでもない顔をしていたのでした。

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