けものがたり

狐路

第1話「ぼす」

 日之出港では、夜が明けようとしていた。波は穏やかで、さざ波の音をさせており、海風も超巨大セルリアン討伐作戦には支障のある強さではなかった。

 陸地から、この船まで転々とヒグマの用意した松明が灯り続けている。

 もうすぐ、あの先から、ボクが何とかしないといけない超巨大セルリアンが来る。その後、ボクが破壊されずにいられる確率は、何万回計算しても、0か、予測不能の結果しか出ない。

 これが、ヒトや動物でいうところの寿命というやつかもしれない。別に自分が破壊される結果に対して、何も思うところはない。そういった最後に対し、ロボットのボクには、何か思うような感情プログラムなどインストールされていないのだから。

 船の運転システムを最終チェックしながら、ボクは二人との旅を思い返していた。

 ボクはラッキービースト。それがボクの正式名称。識別番号は10452。

 これは、主にラッキービースト間での通信や管轄エリアのメインサーバーへのアクセス時に、使用するためのIDである。それ以外にボクを他のラッキービーストと区別できる個体的な情報は与えられていない。

 その事に不満など無い。パークガイドロボットとして、ジャパリパークの保安管理と来場者の接客案内、フレンズの保護育成というパーク管理者から与えられた役割を処理していく。そのために並列化してある自動機械なのだから、個性的な設定情報など、あればあるほど逆にジャマである。

 だけど、パークの管理者であるヒトは、セルリアンの襲来によって、全職員が島から退去してしまった。現段階ではフレンズ達と一緒に待ち続けている。

 ミライ。ボクが起動してから最初に仕事したマスター管理者が彼女だった。ボクたちの管轄である、キョウシュウエリアのいろんなちほーを彼女と一緒に巡回し、フレンズ達の生態系を維持しつつ、彼女の補佐をしていた。パークガイドをやる時に活かせそうな最新情報やヒトが与える知識は、彼女から学習した。

 セルリアン襲来後、先代サーバルや他のフレンズと一緒に原因究明やジャパリバスで戦闘支援を行ったが、その奮戦も実らず、彼女は退去することになる。

 ゆうえんちの観覧車に乗って、寂しげな笑顔でパークを見ているミライの帽子が飛ばされた。あれが無いと、ジャパリパーク管理者ではいられなくなるくらい大事なのに、彼女は、少し困ったように驚いただけで、取りに行こうともぜず、ボクに帽子が飛ばされた場所を特定してとも言ってこない。

 後で何度分析してもわからないヒトの生態だった。ただ、パークの留守を任されたボクが、彼女の帽子を悪用されないよう確保しておくのは、自動で理解した。

 帽子を追いかけた先にいたのが、彼女だった。アライ。管理者の帽子が悪用される恐れがあるため、交渉していたところに、サンドスターの大爆発が起きた。その時降ってきたサンドスター塊で生まれたのが、かばんである。

 ボクより足が早くて見失ったけど、ジャングルちほーで再会できた。

 最初、かばんをどう扱うかで、混乱していた。野生動物のフレンズなら緊急対応以外、無視しなければならない。ヒトならパーク来場者として接客する。結局、ヒトであることは間違いないし、そちら側を優先することにした。何よりパークガイドロボットとして初めて接客できるかばんがいてくれることが嬉しかった。嬉しくなる方をボクは選んだ。パークガイドロボットとして初めてミライから教わった言葉をかばんに贈る。

 「よろしくね。きみの名前を教えて。きみはなにが見たい」

 それから、三人で図書館へ行くまでの旅が始まった。全職員が戻るその日まで、全ラッキービーストが、パークの保全に努めている。とはいえ、管理者のいない状況では限界があり、様々な施設や見学ルートが荒廃していた。ボクの中にあるパークの全地図データを検索しても、対応できない事が多く、何度もフリーズしてしまった。

 それでも、ボクの力不足なガイドにかばんは怒ることがない。むしろ何度も励まし、助けてくれた。かばんについてきてるサーバルも何かと支えてくれた。規則でお礼が言えないのがもどかしい。各ちほーに生息しているフレンズが困っていた事をボク達は解決していく。まるでミライと旅していた頃を思い出す。その時も先代サーバルがついてきていた。

 空気が振るえるような震動が立て続けに起こり、回想が中断された。夜明けの薄く見え始めた森の方から黒々とした異様な生物がこちらへ向かって来ている。

 ボクは、たいまつ作戦時の1次撤退と同時に、全ラッキービーストの力を借りて、全ちほーのフレンズ達に救援を求めておいたが、間に合ってくれただろうか。

 もう視認できるほど超巨大セルリアンが森を抜け、大きな松明と明るい照明だらけのこの船に向かってまっしぐらに来ている。陽動作戦は成功である。かばんがいなければ、ボクやフレンズ達は、あのセルリアンに食われるか、逃げ惑うしかなかった。

 セルリアンが体重をかけて足を乗せたら、後は船を動かすだけ。

 サーバルとも、本当はずっと話したかった。かばんの危機でやっとボクは、キミへの思いを言えたんだ。君達との旅は楽しかったよだなんて、まるでお別れみたいだけど、ラッキービーストとしてではなく、ボクだけの言葉を贈れただけでも満足だ。

 ボクはボス。

 かばんとサーバルとボクとで、また旅をするパークガイドロボット。

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