けものフレンズss「ぐわんぐわんびょう」

チェック

第1話

この世のどこかに作られた超巨大総合動物園「ジャパリパーク」。

巨大セルリアンを倒し、島中を席巻させた誰かさん達が旅立っていったそのすぐ後。

再び島には平穏が戻る……


はずもなく。

フレンズ達は騒がしくも楽しげな日々を過ごしていた。

◆◇◆

森林の中に佇む「ロッジ・アリツカ」。

その一室で執筆をしていたタイリクオオカミの安穏な午後も、お騒がせ者の階段を駆け上がってゆく足音によって強制的に終了となってしまった。

「せ、せせせ先生!事件です!」

バァン、と勢いよく扉を開けて入って来たのはへっぽこ探偵――もとい、タイリクオオカミの弟子であるアミメキリンだ。

「そんなに慌ててどうしたんだい、弟子。それからその抱えているのはどちら様?」

とっくに散ってしまった和やかな雰囲気を諦め、とりあえずタイリクオオカミは弟子の話に耳を傾けることにした。

「え、ええとですね、誰だかわからないんですけど森で倒れててそれで辺りには変なモヤモヤがですねッ!?それで変な音まで聞こえるしこれは事件だ事件ですってなって――」

「はあ…大丈夫よ、私が説明するわ。」

混乱しながら矢継ぎ早に言葉を繰り出すアミメキリンを見兼ねてか、サルベージされた主――アミメキリンの言う事件の被害者と思しきフレンズが抱えられた腕からするりと降りた。

「私はカラカル。状況を説明すると、森を歩いてたら突然視界や感覚がおかしくなっちゃってね。意識がはっきりしないまま地面に倒れてたら助けられたってわけ。」

「なるほど。それで、身体の方はもう大丈夫なのかい?」

「ええ、問題ないわね。やたらと騒ぐものだから思わず醒めちゃったわ。」

「それで、弟子が言ってた変なモヤモヤと音っていうのは?」

「ああ、あれね。森に広がってた謎の煙みたいのよ。それを吸ってからかしら、おかしくなったのは。あと変な音っていうのはくしゃみみたいな音よ。誰かのね。」

「なるほど…一応ハカセにも聞いてみるか――っておっと。」

ちょうど窓の外を飛んでいたハカセとその助手を視界に捉えたタイリクオオカミは、窓から身を乗り出して2人を呼び止めた。

◆◇◆

「なるほど。それは間違いなくこの島の一部で確認され始めた病気に間違いないので――はくしゅん!……間違いないのですよ。」

「です。不思議な色の煙を吸うと、視界がぐわんぐわんとなってしまうのです。あと博士のくしゃみは気にしなくていいのですよ。」

「むう…この体になってからというもの、この季節には花粉が舞ってやけに――へぷち!くしゃみと鼻水が出るのです…」

「ヒトは花粉症と呼んでいたらしいのです。この体も一筋縄じゃいかない、ということですね。」

「このままでは長としての威厳が台無しなのです。いっそこの島の草花を根こそぎ駆逐するのも吝かではないですね。それはさておき、我々はこの病気に名前をつけました。」

「強引に話を戻したわね。」

そんなカラカルのツッコミをスルーして、博士は続ける。

「その名も、ぐわんぐわん病なのです!」

博士はふんす、と鼻息を荒くして言い放った。

――若干の沈黙をさて置いて、アミメキリンが突然席を立った。

「…?どうしたんだ、弟子?」

「先生!この事件の犯人がわかりました!」

「はあ…どうせ、現場のくしゃみの声の主が博士で、犯人は博士とでも言うんだろう?」

「ええそうです!ですがちゃんと動機まで説明可能!この名探偵アミメキリンの推理力を侮るなかれ!」

「んで、動機っていうのは?」

「それはですね…かばんおめでとうの会で印象づいてしまった食いしん坊という属性を払拭するために、このぐわんぐわん病事件を起こして!更に解決することで長の威厳を保とうという虚しくも悲しい動機が――」

「失敬な。はくしゅん。」

「失敬ですね。」

「まあ、そうなるよな。」

「そ、そんな…そこまで的外れじゃないですよね!?割と理屈は通りますって!」

「全く…弟子、こんなときギロギロはどうしていた?」

「どうしていたかって…ええっと…」

「現場に出向いて鋭い視線で物事を見極めていただろう?そら、まずは現場に向かおう。」

「はっ…さすが先生!それじゃあ現場に出向するわ!」

◆◇◆

そんなこんなで、一向はカラカルが倒れていたという場所まで出向いた。

「ここがカラカルが倒れていたところよ。むむ…なにか手がかりは…」

「もう時間も経っちゃってるし、さすがにあの煙は残ってないわね。」

「…いや、煙は残っていないがまだが残っている。」

その言葉を聞き、カラカルがタイリクオオカミの方に視線をやると、彼女の身体からはサンドスターが漏れ出していた。

「なるほど。野生解放をして犯人の匂いを追うのですか。」

「これなら手当たり次第に探す手間が省けましたね、博士。」

タイリクオオカミが匂いを伝ってるゆくと、次第に場所にも変化が訪れ始めた。

「この霧…というか煙は…」

「これ!これだわ!私が現場で見たのは!」

「ということは近くに犯人が…へっくしゅん!」

「待って!何か聞こえるわ。これは…間違いないわ!あのやたら特徴的なくしゃみよ!」

カラカルの声で一同が耳を澄ますも、聞こえてくるのは博士が鼻をすする音だけだった。

「博士、もうちょっと静かにお願いできないのですか。」

助手がそう話しかけた瞬間、アミメキリンがもやの中で謎の人影を目に捉えた。

「はっ…容疑者〜!!」

正体を考察する過程を放棄し、彼女はそのまま謎の人影へと突進していった。

「ちょっ…あの子突っ込んでったわよ!?」

カラカルの心配をよそに、人影へと体当たりしたアミメキリンは、事の原因と思しき人物をそのまま拘束していた。

「無茶が過ぎるぞ弟子!?ってこの娘は…」

アミメキリンが捕らえた人影。その正体は、赤と黒の縞模様の入ったフードをかぶる、フレンズであった。

◆◇◆

「え、えと…アメリカドクドカゲって言います…その…本当にすみませんでした…」

「この煙は、君が出したものなのか?」

「はい、そうです…くしゃみが止まらなくて…ええ…こんな感じで…っへくしゅん!」

アメリカドクドカゲがくしゃみをすると同時に、大量の煙が噴出した。

「す、すみませんすみませんわざとじゃないんですうぅ!自分でも、制御、できなくて…」

各々が各々の防御体制をとりながら、アメリカドクドカゲが俯いて弁解する様を見ていた。

すると、突然博士が毛皮のポッケをガサゴソと探って一枚の布切れを出した。

「そんなお前にはこれをやるのですよ。かつて、ヒトが使っていたものの一種のようなのです。」

「これは…?」

博士が渡した物、それは花粉症の味方・マスクだった。

「これで少しはマシになるはずなのです。私は息苦しいので付けませんが。」

「あ、ありがとうございますうぅ!メチャクチャ息苦しいしやけに暑いですけどなんとかなりそうです!」

「えーーーーっと…事件は解決したってことでいいのかしら…?」

若干置いてけぼりなカラカルが耐えきれなくなったとばかりに声をあげた。

「そういう事なのです。はっくしゅ!」

「かばんがいなくても我々の力だけでこんな事件、ちょちょいのちょい、なのですよ。我々達も伊達にフレンズじゃないのです。」

「ま、そうだね。あ、かばんと言えばだけども。」

タイリクオオカミは一呼吸置いて言った。

「彼女ら、元気でやってるといいな。」

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