素敵なこんび、なのだ!
れーせんさん
素敵なこんび、なのだ!
コノハちゃん博士「それでは任せたのですよ、アライグマにフェネック。まんまる、ですからね?」
ミミちゃん助手「ちゃんとまんまるのヤツを持ってくるのですよ・・・ちゃんと『まんまる』のヤツを持ってくるのですよ。」
アライさん「に、二回も言わなくていいのだ!アライさんにおまかせなのだっ!ふははははー♪」
博士と助手が念押しをしてくる。そんなに心配しなくても大丈夫なのになー・・・私もいるんだし。
アライさん「よーし、それじゃあしゅっぱーつ!なのだー!わっせ、わっせ、わっせ・・・」
フェネック「はいよー。わっせ、わっせ、わっせ・・・」
こうして私達は足漕ぎ式のバス・・・的な乗り物でゆうえんちを出発し、かばんさんのジャパリバスの修理に必要な部品を探しに行くのだった。
『まんまる』の部品・・・タイヤ(だったかな?)は、さばくちほーでツチノコさんが集めていた数々のゴミのやm・・・もとい、宝の山の中にあった。
最初は『オレの物が欲しいんなら代わりになるものをなんか持ってこい!』って言われたんだけど私がかばんさんのためなんだーって言ったら『なんでそれを先に言わないんだよっ!ホラ、さっさと持っていけ!』ってタイヤを軽く蹴とばしてアライさんの方に転がしてきた。
アライさん「わぁっ、ありがとうなの・・・がふっ!ふえぇええええん、転んじゃったのだぁ~・・・」
フェネック「アライさん大丈夫ー?飛びついてキャッチしようとする癖は治さないと危ないよー?」
ツチノコ「なにやってんだお前は・・・あ、そうだ。オレもかばんの船出には立ち会うからな、ちゃんと伝えておくんだぞ?」
アライさん「うう・・・まだアゴがピリピリするのだぁ・・・」
フェネック「顔面をモロにぶつけてたもんねえ、そりゃー痛いでしょー」
ゆうえんちへの帰り道、大雨と強風に見舞われてしまった私達は山の中腹にある洞窟の中でおさまるのを待っていた。この感じだと明日の朝までは止まないだろうなーと私は思った、勘だけど。
そんな事を考えていると、アライさんが小刻みに体を震わせているのに気付いた。寒いのかな?
フェネック「アライさーん、ひょっとして雨に濡れて体が冷えちゃったのかなー?」
アライさん「だ、だいじょうぶなのだ・・・アライさんは強い子だからこれくらいの寒さ、へっちゃらぷーなの・・・ぶぇっくしゅっ!」
豪快にくしゃみをすると同時に顔面鼻水まみれになってしまうアライさん。ぐしぐしと腕で拭き取ろうとするものだからさらに被害が拡大しちゃってるよーぷぷぷっ。
アライさん「ううー・・・フェネックゥ・・・やっぱり寒いのだー・・・」
フェネック「もーしょうがないなーアライさんはー。それじゃあー・・・えいっ」
アライさん「はわっ!?ふぇ、フェネック・・・?」
私はアライさんを正面からぎゅっと抱き締めると、そのまま壁を背にしてゆっくりと座った。
アライさん「おっ・・・おおおー!フェネックのからだ、なんだかすごく暖かいのだー♪」
フェネック「ふふーん、私の体はー夜の寒さにもバッチリ対応できるように出来てるのさー♪」
アライさん「そ、それはすごいのだ!流石はフェネックなのだ!・・・はわー、本当にぬくぬくなのだー・・・むにゃむにゃ」
私の胸に顔をうずめながら眠そうな声を出すアライさん。かばんさんのためだって、ここ数日ずっと頑張ってたから疲れちゃったのかな?
フェネック「まだ雨も止みそうにないし、寝ちゃってもいいよーアラーイさん♪」
アライさん「んにゅ・・・それじゃあおやすみなさいなのだ・・・あ、そうだ。フェネックゥ・・・」
フェネック「なーにー、アライさん?」
アライさん「いつも一緒にいてくれてぇ・・・ありがとう、なのだ♪」
お日様にも負けないくらい眩しい笑顔でそんな事を言うと、アライさんは再びボフっという音を立てて私に体を預けてきた。しばらくするとスー、スーっという規則正しい寝息が聞こえてきた。
フェネック「・・・・・・・嬉しい事言ってくれるじゃないのさーアライさーん。」
アライさんの頭をナデナデしながらそんな独り言を言ってみる。
実はねアライさん。私、出会ってすぐの頃はやることなすこと愉快で面白いアライさんの傍にいればしばらくは退屈せずに済むかなーっとか、そんな気持ちで一緒にいたんだよ。
でもね、いつの間にかアライさんの傍に居ることがどんどん心地よくなっていって最近ではここが自分の居場所、みたいに思い始めてきたんだー。不思議だよねぇ・・・こういうのなんて言うんだっけ?見守ってあげたい的な・・・母性?うーん、ちょっと違うなぁ・・・まーいいや。
フェネック「うぅん・・・私も少しだけ・・・寝ようかな。おやすみ、アライさん・・・」
私はアライさんを抱き締める腕に少しだけ力を込めるとゆっくりと瞼を閉じた。
アライさん「太陽がぴっかぴかなのだー!よく晴れててアライさんはとっても気分そーかいなのだ♪」
フェネック「おおーそれは良かったねえアライさん。」
一晩中降り続いていた雨は、朝にはすっかり上がっていた。風はまだちょっと強いけどこれくらいならバスを漕ぐのには問題ないレベルかな?
アライさん「?あれっ?あれれーなのだ・・・バスはどこに行っちゃったのだー?」
フェネック「んー?どうしたのアライさーん」
振り向くと、アライさんが昨日バスを止めておいたはずの木の下で首を捻っていた。バスは縄で木に括り付けて固定しておいたはずだけど、あれだけの強風だったし外れてしまったのかもしれない。
フェネック「あららー・・・これは困ったねえアライさん。ゆうえんちまではまだちょっと距離があるしタイヤを持ちながら歩いていくのは大変だー」
アライさん「ぐぬぬ・・・き、きっとまだ近くにあるに違いないのだ!探すのだフェネック!」
フェネック「はいよー」
~数分後~
アライさん「あっ・・・あったのだー!あそこっ、あそこなのだっフェネック!」
フェネック「んー?おおー本当だ、横になっちゃってるねえ」
バスは私達が居た洞窟からそんなに離れていない崖の傍で見つかった。おそらく縄が外れて勝手に動いた後、あそこの岩に当たって横倒しになったのだろう。
この時私にはあっさり見つかって良かったという気持ちと、バスを無くした事をハカセ達に報告した時のアライさんの煽られっぷりを見たかったという気持ちの両方があった。まあ、今は早くゆうえんちに帰ってゆっくりしたいから前者の方が気持ち的には強いかなー。
アライさん「早速起こしてあげるのだ!ダーーーッシュッ!」
フェネック「アライさーん急いじゃダメだってー・・・って、あれ?」
ピキッ・・・ミシッ・・・という音が私の耳にはっきりと聞こえた。ひょっとして、あの横倒しになっているバスの近くから・・・?もしそうだとするなら・・・
フェネック「ま・・・待って、アライさん。それ以上バスに近づいちゃあダメ・・・」
アライさん「?何を言ってるのだフェネック。さーバスを起こすのを手伝うの・・・だっ!?」
ガラッ!
アライさん「はわっ!?お、落ちちゃ・・・!」
フェネック「アライさん!」
やっぱりそうだ。昨日の大雨と強風で地盤がゆるんで崖が崩れやすく・・・ってそんな事冷静になって考えてる場合じゃない・・・!
アライさん「フェ、フェネッ・・・!」
フェネック「ッ・・・野性解放・・・!」
足場が崩れ、既に体が浮いてしまっているアライさんを非力な私が引っ張ろうとしてもただ道連れになるだけ・・・なら、こうするしかないかな。
バッ!・・・ぎゅっ。
フェネック「こうすれば・・・大丈夫だよー、アライさん♪」
私は跳んだ。そして空中でアライさんに飛びつくと同時に、めいっぱい体を大きく捻り自分が下になるような態勢になった。右手は後頭部に、左手は腰のあたり・・・でいいかな?ガッチリ掴んでないとねー。
大丈夫、アライさんは私が守ってあげるからねー。
アライさん「・・・ック、フェネック!しっかりするのだ、フェネック!!」
フェネック「ん・・・あ・・・らい・・・さん・・・?」
アライさん「フェネック!良かったのだ・・・目を覚ましてくれたのだぁ・・・ぐすっ」
フェネック「はーい・・・フェネック・・・ですよー・・・ふふっ」
真っ暗だった視界は少しずつアライさんの姿を映し、遠かった耳は次第にはっきりとアライさんの声を届けてくれた。頭はまだ少しクラクラしてるけど、アライさんを抱き締めながら崖を転げ落ちた事はちゃんと記憶していた。
フェネック「だいじょうぶ・・・だったかな?怪我はしてないよね・・・?」
アライさん「ぐすっ、アライさんは・・・アライさんは・・・大丈夫なのだ・・・フェネックが・・・ずっとぎゅーってしててくれたから・・・ぐずっ・・・全然へっちゃらなのだぁ・・・」
フェネック「そっか・・・それはよかった・・・ねー・・・アライさーん」
本当に良かった。私としても結構勇気を出してダイブしたわけだし上手くいかなかったら恰好悪いもんね。
フェネック「ん・・・よっこいしょっ・・・って、あれ?よっこい・・・んー?」
何度も起き上がろうとするけど、できなかった。上半身はかろうじて起こせたけど両脚に全くといっていいほど力が入らない。んーこんなこと初めてなんだけど・・・まあ、原因はアレしかないよね。
アライさん「フェ、フェネックゥ!?ひょっとして、サンドスターがもう・・・」
フェネック「あはー・・・どうやらそのようですなあ・・・」
さばんなちほーからみなとまでかばんさん達を追いかけてたのがつい先日の出来事で、加えてさっきは野性解放までしたんだからサンドスターがほとんど無くなっててもおかしくないよね。
フェネック「ハカセ達が急かすもんだからすぐに出かけちゃったけど少し休んでからの方がよかったかもねえ・・・」
アライさん「あぅ・・・フェネック、ごめんなさいなのだ・・・」
フェネック「?どうしてアライさんが謝るのさー?」
アライさん「アライさんが・・・アライさんが走ってバスに近づいたりしなかったら・・・きっと地面がガラガラってなったりはしなかったかも、なのだ・・・だから・・・」
フェネック「いやー・・・多分普通に歩いて近づいてても崩れてたと思うよー。だからーそんなに泣きべそかかなくてもいいんだよーアラーイさん♪」
アライさん「ア、アライさんは泣いてなんていないのだーー!!」
フェネック「まーまーそういう事にしておいてあげるね♪さてさて、これからどうしよっかなー・・・」
落ちてきた崖をぼんやりと見上げる。転げ落ちてた感覚からもっと高いのかと思ったけど案外そうでもないみたい。昨晩、誰かさんのよだれでベチョベチョになった私の服・・・セーターが洞窟の中にまだあるはずだからアライさんの嗅覚ならそれを辿って崖の上まで戻れるかも。それなら・・・
フェネック「・・・ねえ、アライさん。ハカセ達を呼んできてもらえないかな?」
アライさん「ふぇ?ハカセ達を?」
フェネック「うん、私は見ての通りここから動けそうにないからさー。あの二人なら空を飛べるからきっと色々楽だと思うんだー頼むよーアライさん。」
理由はそれだけじゃなくて、ハカセ達ならばサンドスターが著しく消耗したフレンズの回復方法を知っているかもしれないと思ったから。あくまで『かも』だけど。
問題は・・・アライさんがこの崖の上に戻ってからゆうえんちまで、どんなに頑張って走っても1日はかかるだろうということ。その間にセルリアンに見つかってしまう事や私のサンドスターが完全に失われる事なく無事に過ごせる確率は・・・はっきり言ってかなり低いと思う。うーん、実は結構絶望的な状況なのかも?
と、そんな事を考えているとアライさんが体を後ろに大きく反らしてえっへん、なポーズを取っていた。
アライさん「ふっふっふーなのだ、フェネックもまだまだなのだ♪アライさんはもーっといいさくせんを思いついちゃったのだ!」
フェネック「作戦?・・・って、ひゃっ」
アライさんは私の体をひょいっと持ち上げて、お姫様抱っこしてきた。右腕でしっかりと私の両脚を抱えながら、さらに両腕を自分の首に回した。
アライさん「腕に力は入りそうなのだ?できるだけ頑張ってぎゅーってしてるのだぞ!それじゃあ早速しゅっぱーつ!なのだー!」
言うが早いか、アライさんは崖に足をかけて空いている左腕一本だけで登り始めようとしていた。え・えー??
フェネック「ま、待ってよアライさん、私の事は大丈夫だからハカセ達を呼んできてよー。ほら、あっちの道からきっと崖の上まで歩いていけるから・・・」
アライさん「ダメなのだ!!」
フェネック「えっ?あっ・・・」
私は驚いた。もちろんそれは耳元で大きな声を出されたからというのもあったけど、それ以上にアライさんの表情が今までに見た事もないような真剣なものだったからだ。
アライさん「フェネックは・・・フェネックはアライさんが気付いてないと思ってるのだ・・・本当はすっごく辛いのを我慢してるのに・・・黙っていればバレないと、そう思っているのだー!」
アライさんは空に向かってそう叫ぶと、ついに崖を登り始めた。
フェネック「アライさん・・・!」
アライさん「さいたん、さいそくで行くのだ!よいしょ・・・よい・・・っしょ!なのだ!こんじょー出して頑張るのだー!」
アライさんだってもうサンドスターが残り少ないはずなのに・・・一人で崖を登るのだって大変なはずなのに・・・
フェネック「・・・アライさんはどうしてこんなに・・・その、私のために頑張ってくれちゃうのさー?」
アライさん「この間・・・うんしょっ、ハカセ達が言ってたのだ!かばんさんとサーバルの二人はたのしー時だけじゃなくって、かなしい時やつらい時も・・・よいしょっ、傍にいてお互いを支えあう事のできる『ホントウノトモダチ』なんだって!」
本当の・・・友達・・・?
アライさん「アライさんとフェネックもきっと『ホントウノトモダチ』に違いないのだ♪だからフェネックをあんなところで独りぼっちにするなんて、そんな事はアライさんには絶対にできないのだ!一刻も早く、ハカセ達のところに連れていってあげるのだー!!」
そっか・・・そういう事だったんだ・・・アライさんと私は、いつの間にかこんなにもお互いを想える関係になっていたんだね。だから今まで一緒に居てあんなにも心地良かったんだ・・・ホントウノトモダチ、だから。
アライさん「アライさんに、おまかせなのだ♪ンどっこいしょーっ!なのだ!」
フェネック「ふふっ、はーいよっと♪」
その後、アライさんは見事に崖を登り切ったもののそこで完全に力を使い果たしてしまい大の字で倒れこんでしまった。私はどうしたものかなーっと考えていると、幸運な事に崖崩れの音を聞きつけてやってきたトキ、ショウジョウトキの二人が鳥系のフレンズと協力して私達をゆうえんちまで運んでくれたのだった。
トキ「もう少しで着くから・・・頑張るのよ」
ショウジョウトキ「ソッコーでゆうえんちまで行くんですけど!頑張れなんですけど!」
ふふっ、ジャパリパークって・・・本当にいい所・・・だよね、アライさーん。
1ヵ月後、ハカセ達にチョイしてもらいすっかり元気になった私とアライさんはゆうえんちで『無事セルリアンを倒せた&かばん何の動物か判っておめでとうの会』を皆と楽しんでいた。アライさんはあの時の事を得意げに話していて、かばんさんとサーバルは目を輝かせながらそれを聞いていた。ちなみに、今日でこの話をするのは10回目になる。
かばんちゃん「うわー・・・何度聞いても本当に素敵なお話ですね!お二人の信頼関係の深さを改めて知ることができました」
サーバルちゃん「ほんとほんと!私、すっごーく感動して涙?が出てきちゃったよぉ・・・早起きしたからかな?」
かばんちゃん「ふふっ、サーバルちゃん今日お昼過ぎまで起きてこなかったじゃない。全然早起きじゃありませーん♪」
サーバルちゃん「もー!私は夜行性だからいいのー!そんな事言う子はー・・・こうだー!みゃみゃみゃみゃみゃー♪」
かばんちゃん「あっサーバルちゃん・・・ふふっ、急にくすぐるのはダメだってばーあははっあははははー♪」
ああ、始まってしまいましたなあ。いつものよーに、かばんさんとサーバルのイチャイチャタイムが。
アライさん「かばんさんとサーバルも間違いなくホントウノトモダチ、なのだ!でもアライさんとフェネックだって負けてないのだ♪」
サーバルちゃん「みゃみゃみゃみゃ・・っと、そうだね!アライグマとフェネックの二人もすっごーく素敵なコンビだよっ♪」
アライさん「そうなのだ!アライさんとフェネックはこれからもずーっと素敵なこんび、なのだ♪」
満面の笑みを浮かべたアライさんが柔らかい手を私に重ねてきた。私もとっておきの笑顔でお返しだー。
守って、守られて。笑顔を見せ合って。時にはケンカしてすっちゃかめっちゃかしてもすぐに仲直り。きっとそれが、本当の友達。
そんな素敵な関係が、いつまでもいつまでも続いていきますように。
ねっ、アラーイさーん♪
素敵なこんび、なのだ! れーせんさん @reisensaan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
カミヒトエの色/タコ君
★34 二次創作:けものフレンズ 連載中 75話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます