第205話 楔

 御守りの力を発動させると、今までに感じたことのない強烈な抵抗を受ける。

 まるでオイナリサマ自身が御守りのバリアに弾かれるかのように、私の腕の中から強烈に押し出されようとしている。


 ここで手を放したらいけない。


 私は有らん限りの力でオイナリサマを抱き締める。


 ず……ずず……


 まるで大きなカブを抜くかのようにオイナリサマの体が少しずつセルリアンから抜けていく。


 私が苦戦中に根の動きが完全に止まったようで、少し遅れてオオウミガラス達が私の手伝いにやってきた。


 ヤマバクがオイナリサマの後ろ抱え、右腕をオオウミガラス、左腕をクーちゃんが引っ張る。


 抜けろぉおおおおおおおおおお!!!


 ブチブチとまるで肉を引き裂くような音を立ててセルリアンからオイナリサマが分離した。

 有らん限りの力でフレンズ達に引っ張られた反動でオイナリサマと私達はシャンパンのコルク栓のように宙へ吹っ飛んで行く。


 ぶつかる直前にクーちゃんが何とか減速をしてくれたお陰で私達は無傷で地面に降りることが出来た。


 オイナリサマを確保。

 セルリアンは!?


 セルリアンはまるでエネルギー源を失ってしまったかのように萎びて動かなくなる。


 ……当面の安全は確保できたか。


 数度揺するとオイナリサマは目を開いた。

 上体を起こしたオイナリサマはもう先程の女王のような瞳ではなく、元の瞳に戻っている。


 ヤマ……バク?


 オイナリサマに声を掛けられたヤマバクは感極まって飛び付いた。


 ゴコクの超巨大セルリアンと違い意外と簡単に目的を達成できてしまった。

 拍子抜けするような思いで私はオイナリサマとヤマバクを見ていた。


 そう、余りにも簡単過ぎた。


 寝惚けているのかオイナリサマは困惑するかのように自身の体を見つめる。

 どうして、元に戻ったのでしょうかと。

 私は簡単に状況を説明するとオイナリサマは目を見開いて叫んだ。


 してやられました!!


 それと同時に私達の横を黒いキツネが駆け抜ける。


 どうして、気が付かなかったのだろうか。

 昨日まであれほど妨害を受けていたのに今日に限って殆んど襲われることなくオイナリサマの元へ辿り着いた。

 オオウミガラス達だけでも対処できるくらいの温い攻撃、肝心なところで外れた相手の攻撃。


 私達の見ている前で黒いキツネが花弁の中央潜り込む。


 ドクン……ドクン……

 まるで脈を打つかのようにセルリアンが動き出した。


 そう、オイナリサマはセルリアンの内側から封印をしていたのだ。

 オイナリサマの救出はこのセルリアンを楔から解き放つ事に他ならなかった。


 花が散って果実を結ぶかのように花の根元が膨らんでいく。


 オイナリサマは震える脚で立ち上がりながら言う。


 アレは産まれてはならない存在。

 アレを世に解き放ってはなりません。

 放置すれば全ての“かがやき”を喰らい尽くします。


 実った果実の内側から妊婦の腹を引き裂くように這い出してきた。


 未発達の手足と根本に接続されたへその緒。

 頭部に無数の目を持つ醜い胎児が産声を上げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る