第206話 Planet Eater (larva)

 醜い胎児が口を開ける。


 口の中から漏れ出す青白い燐光。

 幾千の鳥が鳴くような断続的な高い音。


 まさか、そんな筈はない。

 そう頭で否定するもその光景は何度も隊で教えられていたとある予兆だった。


 それは第三次世界大戦中に開発された。

 膨大な電力が必要とされ、発射の反動で壊滅的な電磁波を撒き散らすそれは費用対効果が見合わず理論上だけのものであった。

 BCCSと自立稼働兵器が出来上がるまでは……



 荷電粒子砲。

 一夜にして各国の主要都市を蒸発させた兵器。



 咄嗟に私は御守りを翳す。


 防げるかどうかの確証はなかった。

 だが、それをする他にやれることがなかった。


 私の意図に気が付いたオイナリサマが御守りに手を添えた。


 醜い胎児の口が大きく開かれる。

 直後にセルリアンの口から視界が真っ白に染まる程の光が溢れ、全てを破壊する一撃が放たれた。



 バリアに当たった荷電粒子砲が拡散して塔の至るところに穴を穿ち、今までセルリアンの攻撃を平然と防いでいた御守りが私の手から弾き飛びそうなくらいに激しく揺れる。


 ピキ……


 御守りから聞きたくない音が出た。


 耐えろ……

 耐えてくれ……!!


 祈るように私は御守りを握り締める。

 時間にしては3秒にも満たなかったが、私には数時間経過したかのような錯覚さえ覚えた。


 光が収まる。


 そこには口がただの穴となり、全身が焼け爛れたようになっている醜い胎児がいた。

 荷電粒子砲は電磁波を撒き散らす性質上、無人で運用するのが前提の兵器だ。

 そんな物を生物の身で撃てばどうなるかなんて明白だ。


 二度目は撃てまい。


 私はフレンズ達の顔を見る。

 オオウミガラスは微笑みながら私に対して頷く。

 私の考えていることはお見通しか。


 クーちゃんは……ヤケクソ気味だ。

 本当は楽な旅の予定だったのだが、巻き込んでしまって申し訳ない。


 セルナは覚悟を決めたような表情をしている。

 少し私に似てきただろうか?


 ヤマバクは怯えながらもしっかりと敵を見据えている。

 彼女は怯えながらも逃げる気はないようだ。


 オイナリサマはまだ顔色が悪いがその目には決意の光が見える。

 守護けものとしてこのセルリアンを打ち倒さねばならない。


 私は大きく亀裂の入った御守りを構える。

 赤い鳥居と深緑の逆さ鳥居、2つの紋章が表れた御守りでフレンズ達を強化する。


 周辺に漂うサンドスターが火が着いたかのように輝きだし、サンドスター・ローが激しく流動を始めた。


 醜い胎児が咆哮する。

 獅子のような、猛禽類のような、人の悲鳴のような、歯車の軋む音のような……

 セルリアンらしからぬ生物らしい全てが入り混じった叫び。


 同時に周囲の結晶化したセルリウムに炎が灯る。

 熱のないその炎は徐々に結晶化したセルリウムを溶かしていく。


 今、私達が対峙しているのは地方1つを覆い尽くす程の巨大なセルリアン。

 難攻不落の強固な鎧を剥がされた心臓部だ。


 倒す機会は今しかない。

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