第170話 空腹

 任せて!


 そう言うラッキービーストに従って私達は道無き道を進む。

 途中から道路に入ったようだが、ろくに整備もされていない道は草が覆い繁って判別が難しい。


 一匹だった腹の虫も次第に増えていき、今では四匹の虫が合唱を始めていた。

 森の中を進むのは良いが、食べれそうなものが何一つないとは恐れ入る。


 ラッキービーストが案内するとは言ったが、食べ物を食べれるのは何時の事になるのやら……

 もう、太陽も真上を過ぎて徐々に西へと落ち始めている。


 このままではきっと空腹のまま夜を過ごすことになるだろう。

 もしかすると数日は何も食べられない可能性もある。


 ……このままでは不味い。


 私の中で徐々に食料確保に関する不安が大きくなっていく。


 ふと、道の脇に朽ち掛けた倒木が目に入った。

 そう言えば、芋虫と言うのは森における貴重なタンパク源だと聞いたことがある。

 大抵、朽ち木の中に潜んでおり、見た目はあれだがそれなりに味は良いとされていた筈だ。


 私は朽ち木に手を掛けて無理矢理抉じ開け、中からお目当ての白い芋虫を引き摺り出した。


 私の突拍子もない行動にラッキービーストを含めて足を止めてこちらを見詰めてくる。

 私が口を開けたところで何かに気が付いたであろうセルナが私を全力で止めてきた。


 ダメ!


 と言われても食える時に食べておかないと次に何時食料が手に入るか分からない。

 こんなところでくたばってたまるか。

 それに虫を食べることを気にしているのはセルナだけだ。


 大丈夫、ヒトは雑食だ。

 ……セルナも食べるか?


 セルナに虫を近付けると涙目になりながら首を横にブンブン振りながら後退る。


 虫は苦手か。


 私とセルナのやり取りを見ていたラッキービーストが私の前にやって来て一言発する。


 食べちゃダメだよ。


 知るか!

 私は食すぞ!


 食べちゃダメだよ。


 私が虫を口に近付けるとラッキービーストがぐいっと顔を寄せてもう一度食べてはいけないと言う。

 声の抑揚は変わっていないが、食べさせてたまるものかと言う強い意思を感じた。


 その時、風向きが変わった影響なのか、空腹で鋭敏になった私の嗅覚が食べ物の匂いを捕らえた。


 この香ばしい匂いは……パンの匂いだ!!


 私は芋虫を投げ捨ててパンの匂いがする方角へと駆け出した。


 森林を抜けて草原に出る。

 草原と言うよりはサバンナだろうか?

 ポツポツと生えている気が以前にサバンナ地方で見かけた木と良く似ている。


 そして、森林と草原の境目付近に食料を見付けた。

 パンのロバ屋と書かれたキッチンカーに食料が整然として乗せられている。


 私の背後にピッタリとくっついてきたクーちゃん、遅れてセルナとオオウミガラス、最後にラッキービーストが追い付いてきた。


 よし!

 食料事情はこれで解決だ!


 大喜びをしている私達に対して、遠慮がちに声を掛けるフレンズが現れた。


 ……何時からそこに?


 始めから居ましたけど……


 彼女の名はロバ。

 このパンのロバ屋で食料を提供しているフレンズだ。

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