第24話 旅の終わり

 港へ到着した。


 このエリアの玄関口となる港ではショッピングエリアも兼ねていたのか、店の跡地と思われる建物が幾つか建っている。

 特に桟橋の直ぐ傍にある建物では乗船手続き等が行われていたと思われる。


 ここへ来てジャパリパークの放棄が実はかなり急な出来事であったことではないかと感じる。


 店の中にはいまだにお土産用のぬいぐるみや服等が陳列されているのが外から確認できる。


 いよいよ船に向かうだけなのだが、何故かオオウミガラスが私の腕を掴んで離してくれない。

 どうしても行っちゃうの?と……


 それは別れが寂しいと言うよりは、相手が心配で堪らないと言った表情だった。


 何故?


 私は心配は要らないとオオウミガラスに言い聞かせる。

 外から見る限り船の保存状態は良好、錆も少なければ破損した様子もない。


 だから、大丈夫だ。


 オオウミガラスは何か言いたそうに口を開いたが、すぐに口を閉じた。

 その何かを言うべきでないと考えたのかもしれない。


 私はオオウミガラスが見守るなか船の中へ足を踏み入れた。


 船は個人用ではなく客を運ぶのに適した遊覧船のような構造になっている。


 きっとジャパリパークが正常に運営されていた頃は、ジャパリパークのエリア間をお客を乗せて運航していたに違いない。

 ただ、使われた回数自体は少ないのか船の席の革は擦り切れたような後はなかった。


 操縦室にはエンジンのカギが付けたままになっており、今からでも動かすことができそうだ。

 意外と船の操縦機は簡単な作りをしており、少し練習をすれば動かせるようになりそうである。


 そっとカギに手を添える。


 これを手にしてしまった以上、ここへは長くは居られない。

 練習の期間や航路の設定等を行ってもせいぜい1週間くらいになるだろう。


 オオウミガラスに助けられて私は草原の浜辺で目覚めた。

 彼女が居なかったら私は死んでいたかもしれない。

 私は彼女に何かを恩を返すことが出来たのだろうか?

 ここまで私に付いて来てくれた彼女に何一つ返してやれていない。


 私はオオウミガラスの為に何かしてやれるのだろうか?


 この練習の期間で何かオオウミガラスが喜びそうな物を作ってみよう。


 何か思い出に残るような物を……



 私は遠い海の果てを見て今後の事に思いを馳せながらぐっとエンジンのキーを回した。


 エンジンのキーを回した。


 何の反応もなかった。


 何故だかとても恥ずかしいような気分になって、私は顔をよく分からない羞恥に染めながら船のエンジンが動かなかった原因を探る。


 見た目は綺麗なのにまさか故障していたのだろうか?


 色々見て回っている内に一つのメーターの針が左下のとあるアルファベットを差していることに気が付いた。


 E


 そもそも、どんな機械も必ず動力が必要である。

 何故、私は燃料が入っていることを前提に考えてしまっていたのだろうか。


 今回は燃料を補給すれば良いだけなのだが、燃料が何処にあるかが全くわからない。


 私は項垂れながら船の外へ出た。


 オオウミガラスはどうだったと聞いてきたので私は返事を返した。



 もうしばらくジャパリパークに残ることになりそうだ。

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