スペース・フレンズ・ナンバー1

秋田川緑

宇宙で一番優しい場所

 遥か宇宙の彼方から、奴らは現れた。

 宇宙人である。


 彼たは卓越したテクノロジーを持ち、地球周辺の宇宙空間に展開。

 超巨大母船とそれに搭載された空母からなる船団、そして多数の戦闘機と言う、圧倒的な武力を持って地球に迫っていた。

 奴らは戦闘民族であり、その目的は侵略である。

 今、地球はかつてない危機に直面していた。


 ――――


「あの青い星の調査報告書です」

「ふむ。どれどれ……」


 その報告書が出されたのは宇宙船の会議室で開かれていた議会である。

 複数の権力者が話し合う、奴らのあらゆる指標を決める大切な会議であった。

 地球を調べた奴らが最初に無人探査機を降り立たせた地、それは後に、奴らにも現地語を元にジャパリパークと呼称されることになったあの島である。


「サンドスター……フレンズにセルリアン……! この星の知的生命体は興味深いぞ!」

「ふむ。武力で一気に制圧すれば簡単だが。とりあえず調査を続行しよう。どう干渉するかの作戦会議はそれからだ」


 調査は数ヶ月に及んだ。


 対象A、後に「カバン」と呼ばれるフレンズと、対象B「サーバル」と呼ばれるフレンズに焦点を合わせ、その旅の様子を観察していたのである。


 報告書は映像作品と言う形で提出された。


『狩りごっこだね!』

『た、食べないでくださいー!』


 まず最初の一幕は対象Aと対象Bの出会いである。

 逃げる対象Aを追いかける対象Bのカメラ視点が悪かったのか、多くの出席者が映像に酔ってしまい、そこで席を立った。


「もう分かった。文化レベル、知能レベル共に低い。これは思ったよりも簡単に侵略できそうだ」


 しかし、さばんなちほーのゲートと呼ばれる地点で起きたセルリアンとサーバルの戦いの後、フレンズの文化レベルにしては作りこまれている人工物などが目に止まり、少数の人々が報告書の続きに目を通した。


「ボス? これはロボットではないか? 一体なんなのだ?」


 極めつけはバス、太陽光発電装置等の装置である。

 これはそう単純な話ではない。

 そして報告書の途中、カバンがかつてジャパリパークに生息していたヒトという動物であること、そしてヒトが全て絶滅していたことを彼らは知った。

 人工物はヒトの残した遺物だったのである。

 そして、全12回に分けて提出された対象Aと対象Bの旅の報告書を通し、フレンズと言う生物達の、素直で邪気の無い美しい心を彼らは知ったのだ。


「良い、報告書だった……」

「ああ……」


 最後まで目を通した者達の目には、美しく優しい心の光が灯っていたという。

 侵略と言うことしか考えられなかった、冷えた心に現れた暖かな光だった。


 その時には既に、多くの人々が報告書の内容を知っていた。

 素晴らしさを知らしめようと、母船に暮らす一般人にも広く公開されていたのである。


「君も優しいフレンズなんだね!」

「わーい!」

「タイリクオオカミ先生の漫画が読めるのはジャパリパークだけ!」

「ああ~こころの中でボスがぴょんぴょんするんじゃぁ~!」


 毎日、宇宙船の中では老若男女が入り乱れるドッタンバッタン大騒ぎが繰り広げられていた。

 こうして、この星を侵略することに誰もが躊躇いを覚え、自分達を野蛮だと恥じることとなったのである。


「自分達はフレンズと接触するにはあまりにも野蛮であり、未熟である」

「うむ。もはや、我々の心には『やさしい』が芽生えた。『たのしー』を求めて、銀河の旅に出よう」


 ちょうどその頃、地球へと近づく巨大彗星の動きが観測されていた。

 このままでは地球に衝突し、ジャパリパークも宇宙の藻屑へと変わってしまう。

 これを知った、宇宙人たちの心は一つであった。


「ふむ。侵略どころの話では元々なかったと言うことか。よし、あれを破壊して、それを彼女達へのプレゼントにしよう。我々は彼女達と触れ合うには野蛮すぎる。旅に出よう。平和な心を持つことが出来た時。また遊びに来ようではないか。その時は、きっと我々も『お友達』になれるよ」


 ――この日、ジャパリパークでは大量に降り注ぐ流れ星が観測された。

 船団からの攻撃を受けて破壊された彗星の破片である。


 大気圏へ突入し、空気との摩擦熱で燃え尽きるそれは、綺麗に輝いて、消えていった。


――


「あっ、流れ星なのだ! たくさんなのだ! 見るのだ、フェネック!」

「そうだねー、アライさん」


 夜空一面に降り注ぐ流れ星は、まさに圧巻であった。

 今、多くのフレンズ達が、その流れ星を見ている。


 ある者は感動した。


「カバンちゃん、綺麗だね」

「うん。サーバルちゃん」


 ある者は怯えた。


「こ、これは一大事なのです、助手」

「博士。とりあえずは様子を見ましょう。我々は賢いので」


 ある者は興奮していた。


「マーゲイ! 次のライブの演出、これにしましょう!」

「ウハー! 良いですね! これをバックにして歌って、踊る……最高です!」


 ある者は推理していた。


「犯人は! アリツカゲラさんです! お部屋『みはらし』のために、空に星を降らせるなんてことをしたのです!」

「ええ!?」

「ふむ、冤罪だね。でも、良い表情かお、いただきました」


 ある者達は集まっていて、和んでいた。


「こういう空の下で温泉に入るのも、悪くないね」

「うんー、そだねー」

「特別な夜だねー」

「一曲歌いたい気分だわ」

「わーい、たくさん降ってるぞー!」

「流れ星の下でビーバー殿と一緒に入る温泉、最高でありますなー!」


 今、フレンズ達が流れ星を見て、様々なことを思い描いている。

 流れ星はまるで宇宙が泣いているようであった。

 ジャパリパークに心を寄せた、星の外からやって来た人々の想いは今、ジャパリパークの一部として、ここにある。


 ……


 そして、さばくちほーでも、一匹のフレンズが空を見ていた。


「きれー……」


 地に着く前に消える、流星群。

 瞳に映る、光の雨。


「まぁ、でも、さわぐほどのことでもないか」


 そうなのかもしれない。

 明日は誰が遊びに来るだろう?

 明日もきっと、楽しいことがフレンズの皆を待っている。


 おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スペース・フレンズ・ナンバー1 秋田川緑 @Midoriakitagawa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ