第2話

放課後になり、帰り支度を始めた。


彼との待ち合わせは駅。そこから近くの医院へ向かう。


総合病院ではないが、規模的には小さくない医院で、科が色々ある。


私はナミに 「じゃあ、 病院行くから」


そう告げて手を振った。


「期待。 するなよ? あんまり嬉しさ出して後で泣くかもだし」


「う……。 分かってます。 あくまで責任感じただけね」


そう言って学校を後にした。

カバンからスマホを取り出し、メールを送る。 『今から向かいます。 高瀬』


送信ボタンを押し、暫く待った。


『了解です』

返信はすぐにきた。 てことはまってる?


はやる気持ちを抑えた。


でもやはり高鳴る胸は抑えられない。

駅へ近づくにつれ、顔かニヤニヤしてしまう。


「あ! 高瀬さん」


駅の改札付近で彼が待っていて、私を見るなり声をかけた。


「すいません。 待たせてしまって」


急ぎたいが足が痛む。


なのでゆっくりしか歩けない。


「大丈夫だよ。 それより足痛む?」


「平気です」


「じゃあ行こうか」


そう言うと、ゆっくり歩き出した。


足は痛むが、恥ずかしい気持ちが炸裂して、

俯いてしまう。


「具合悪い? 何か元気ないけど」


「え? いや。 大丈夫です。 はい……」


まともに顔見れない……。


整った顔。 スラリとした身体。柔らかそうな髪の毛……。優しい口調。


完全にのまれる。


自分の心臓もつかなぁ。


「高瀬さんてさ。 いつも見かける時は凄く明るくて、 楽しそうに話してるよね。 友達と仲良くしてて。 オレ達結構見てるよ?」


「やだ……。 恥ずかしいです。 うるさいだけなのに」


「えー? 明るくていいじゃん」


「……ありがとうございます……」


もう無理。恥ずかし過ぎるよ。




など思っていたら、目的地に着いた。


中へ入り受け付けを済ませる。


「初診ですね? 暫くお待ち下さい」


受け付けのお姉さんに言われて、待合室の椅子に座った。

彼も座る。


「あの……。 もう大丈夫ですので帰って頂いても……」


「え? 何で? 一緒に待つよ。 それに結果とか聞かなきゃ」


「いや。 でもお忙しいでしょ」


顔を見れないのでやはり下を向いてしまう。


「部活ないし、 全然時間あるから気にしないで」


「すいません……」


「何か謝ってばっかだね。 悪いのはこっちなのに」


「いえ……。 あんな所に立っている方が悪いし。 それにすぐ医務室に運んでもらったし……」


「ビックリしたよ。 意識なくした時は。 すっごく慌てた」


ああ。 やっぱりカッコいいなぁ。


見惚れそうになり名前を呼ばれた。



「失礼します……」


診察室に入り、丸椅子に腰掛けた。


「頭打ったの? まだ痛い?」


キレイな女医さんに尋ねられ、転んで頭を打った事を伝えた。


予めアンケート用紙に状態を記入しているので、話は早い。


「一応検査しようか。 足は……。 形成外科かな。 取り敢えず検査室行ってね」


白衣の色気か。無駄に色っぽい。

長い足を組んで、淡々と説明した。



その後、私はCTを撮り、形成外科へ行った。

水元君は検査室の前まで来てくれたり、形成外科では一緒に中へ入ってくれた。


「足はどっちが痛い?」


「左です」


「ちょっと診せてね」


こちらは無駄にカッコいい医師が、診察してくれた。


医者って美人とかカッコいい人が多いのかなぁ。


ついまじまじ見てしまった。


台の上に足を乗せ、色々動かす。


「いたっ」


つい声が……。


「うん。 軽い捻挫だね。 シップ出すから。

暫く安静にしてね」


爽やかに笑った。


「しかし……。 彼氏も中へ来るなんて。 余程心配? 大丈夫だよ。 軽い捻挫だから。 あ、 それとも僕が心配だった? 医者とはいえ男だからね」


そう言ってニヤついた。


何にも言えません。恥ずかし過ぎます。

先生、余計な事言わないで下さい……。


靴下と靴を履きながらそう思った。



「先生カッコいいから、 心配で。 つい入ってしまいましたよ」


「お? 言うねぇ。 安心しなよ。 可愛い彼女、 誘惑しないから」



な、 何だ? 二人してなに言ってるの?


困惑しながら診察室を出た。



椅子に座り、CTの結果を待つ。


「高瀬さん? 気、 悪くした?」


覗き込むように聞いてきた。


ブンブンと頭を振ったが、何て言って良いか分からない。


「ここの医院の医師、 粒ぞろいなんだ。 だからちょっと心配」


何ですと⁈

心配って、何が?


「高瀬さん可愛いからさ。 お医者さんに声かけられないかなって。 医者だって人間だよ? まあ、 勤務中だし看護師さんいるから大丈夫だと思うけどね」


にっこりした。


イヤイヤあり得ないし。私可愛くないし。


「そんな事ないよ。 うん。 子供相手にしないでしょ」


「そうかな。 可愛いければいっちゃうんじゃない?」


「冗談言ってる……」


艶っぽい声で言わないでよ。


ドキドキが止まらない。



一応の診察を終え、医院を出た。


結果的に捻挫のみで、頭に異常なし。シップを処方されたので薬局へ行こうとしたら、彼が貰って来てくれた。


やっぱり夕暮れ時で、昨日みたいに二人で夕焼け空の下にいる。


それが凄く嬉しくて、幸せで。


駅までの帰り道、並んで歩くのが不思議だ。


こんなに幸せ過ぎていいのかな。


ふと見る彼の横顔は、確かに先ほどの先生に比べれば幼さはあるが、充分カッコいい。



「家まで送るね」


「いえ! 本当に平気です。 今日はありがとうございました。 逆に迷惑かけてしまい、 すいません!」


駅のホームで彼の申し出を断った。


電車は一緒に乗るが、降りる駅は彼が先。

迷惑かけてしまいたくないし、これ以上は心臓に悪い。


「本当に平気? じゃあ帰ったらメールして?」


「分かりました!」


電車に揺られ、約束した。


駅に着き、彼が電車を降りる。

私は振り返り手を振った。


電車が動くまで手を振ってくれた。


本当に優しいな。


そう、彼は優しい人。電車でもお年寄りなどに席を譲るし、何気ない動作が凄く自然で思いやりを感じる。


だからなのだろう。

私に付き添ったのは。


優しいから。それだけだ……。


さっきのだって、冗談で場を和ませただけ。

本気にしちゃうじゃないか。可愛いとか。


本当に好きだから、一つ一つに反応してしまう。

遠い人が急に近くになったから、戸惑う。


片想い。

やっぱりつらいなぁ。


夕焼けの車内はオレンジ色。


もうすぐ日が沈む。


ぼんやり彼を思った。

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