第88話

佳子「天気もよさそうだから、楽しみね」


ああ、お日柄って天気のことか。

僕はそれくらいの受け止めだった。

でも天気のことだったら、予報士の僕に言わせてください、とも思った。


何はともあれ、また佳子さんに会える。僕はその日を、楽しみに待った。













その日の待ち合わせは、新宿駅にした。

ここ最近で、3回目の箱根の往路。

3回のうち、一番気が楽で、楽しみな往路だ。

佳子さんは定刻に、藤色のワンピースで現われた。


僕 「あの、きれいですね」

佳子「うふ、ありがと」


僕たちは、白いロマンスカーに乗り込んだ。

1回目の往路と違い、今度は最初から2人並んで座る、

いわばロマンスシートだ。

ロマンスカーでロマンスが実現して、うれしい。

僕は顔が自然にほころんだ。


佳子「あら、ワンコちゃん、何がうれしいの?」

僕 「あの、ロマンスカーでロマンスだから、です!」

佳子「あ、1回目に言ったこと、覚えていたんだ!」

僕 「はい。すごく昭和な感じで」

佳子「そうそう、昭和20年代にあった映画のロマンスシートが

   ロマンスカーのモチーフなんだよね」


やっぱり佳子さんは、ロマンスカーの名前の由来を知っていた。

さすが鉄道好きだ。

知っているかもと思っていたことが当たると、やはりうれしい。

佳子さんと僕だけの世界が、展開されているようだった。


ロマンスカーは、ミュージックホーンを鳴らして、

軽快に新宿を出発した。


佳子「今回は、ほんとにおつかれさま」


佳子さんは、さっそくねぎらいの言葉をかけてくれた。

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