第33話

おじさんは、いつの間にか追加されていたコップ酒を、また、がぶりとあおった。


じじ「道具としてソーシャルは便利じゃが、

   それでなんでもかんでも済むものではない。

   本当に大事な話をひざ詰めでする努力が足りない人間が、

   今の時代、多すぎるんじゃないか?

   この峠の上の宿っていう小さな共同体ですらも、

   そういうことを感じるのじゃぞ。

   若者がわんさかいる本社にいると、わしは頭がおかしくなってしまうくらい、

   人と人のつながりに実体がなくて、悲しいんじゃ。

   わしが本社にあんまり寄り付きくないのもそのせいでのう。

   ここにいた方がまだましなんじゃ」


おじさんの吐露した思いは、僕も普段からなんとなく感じているものだった。

僕が深くうなずくと、おじさんはニカッと笑った。


じじ「石井君。君はなかなか見込みがあるかもしれんな」

僕 「いえ、そんな」

じじ「こんな年寄りの戯言を、うまく引き出す奴に久しぶりに会ったわ。

   佳っちゃん、さすがいい若者を見つけてきたのう」

佳子「えへ、そんな」



見ると、佳子さんは、いつの間にかとろろ飯を3杯も平らげていた。

あの、佳子さん、見かけによらず、結構食べるんですね。

あれ、佳子さん、口元にご飯粒が一つついている。



僕 「あの、口元にご飯粒が」

佳子「え、やだあ」

じじ「おう、石井君、やさしいのう。やっぱり二人は、お似合いじゃあ」

  「だから、早く跡継ぎを、な」

佳子「もう、だから、おじさまったら、やめてよ!」

じじ「はは。今夜はとても楽しい夜じゃあ。アハハハハハ」



おじさんと佳子さんの会話に、僕はひそかに心を赤らめていた。

顔を赤くしたら、恥ずかしいから。

なんとか顔に出ませんように。僕が願っていると、おじさんがつぶやいた。



じじ「そうじゃ。あれ行こうかの」

佳子「え、もう、やるの?」

じじ「そうじゃあ。盛り上がってきたから一気にいくぞ。ホイ!」

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