第16話

佳子 「あら、そう?」


僕はその返事が少し冷たかったことと、

かなり意外だったこともあって、少しあわてて言い返した。


僕 「だって、同じ日に、同じ電車で、同じ箱根の、同じホテルに行くなんて、

   おかしいじゃないですか。ありえないって、普通思いますよ」

佳子「そうかな」


佳子さんは、なおも冷たかった。


佳子「よく考えてみたら?

   だって、石井くん、峠の上に行くのって、珍しいの?」

僕 「いえ、月に1度くらい行ってます」

佳子「土日にも行っているの?」

僕 「いえ、きょうみたいな、平日の、朝だけです。込んでるから」

佳子「私もだいたい同じね。月に1度くらい、平日に行っているんだよ。

   土日は教室が休めないから」

僕 「そうなんですか」

佳子「きょうが何回目くらいの、峠の上?」

僕 「そんな、数えたことないです」

佳子「私も。数え切れないくらい同士なんだから、そのうち一致するのも

   おかしくないんじゃない?」

僕 「うーん、そうなんですか」

佳子「そうそう、ロマンスカーでロマンス!かもね(笑)」


ロマンスカーでロマンス!

なんて昭和なことを言ってくれるんだ。


ちなみに、ロマンスカーという名前は

昭和24年に、映画館に設けられた恋人同士のための2人がけの座席

「ロマンスシート」に似た座席を採用した、ということで付けられたものだ。

そんな古い話を、鉄道好きな僕は、知っている。


いや、ひょっとしたら僕と同じ鉄道好きの佳子さんもこの話を知っているから

こんなことを言ったんじゃないか?

僕はそう思ったが、ロマンスという言葉を口にするのが恥ずかしくて、

聞けなかった。


そんな、あの佳子さんとロマンスだなんて。

僕は少し舞い上がりつつも、混乱する頭も抱えた。

こんなロマンスカー、初めてだ。


何度も乗ったロマンスカーが、

今、まったく知らない世界に連れて行ってくれる乗り物のように、

昔と今を不思議につなぐ乗り物のように、僕は感じていた。






気づくと、ロマンスカーは小田原の駅に着いていた。


小田原は、JR在来線や伊豆箱根鉄道、新幹線も含めて、

14番線までホームがある巨大な駅で、

ロマンスカーは、単線の箱根登山線に乗り入れる前のわずかな休息に入った。


佳子 「石井くんって、どんなときが切り換えになるの?」


佳子さんは、不意に変な質問をしてきた。

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