刺激的な現実へ

@kobashi

第1話

ジャパリパークの深い森の中にひっそりとたたずむ木造の建造物。


そこは「ろっじ」


いつどのようにして造られたのか、それを知るフレンズはいないだろうが、そのろっじを利用するフレンズは全員そんなことなど気にしないだろう。


かく言うこの私『タイリクオオカミ』もその一人だ。このろっじがどんな経緯で、どんな目的で、誰の手によって造られたかなど、どうでもいい。


天井のある屋内だから雨風を防げるのはもちろん、それぞれのフレンズに合った寝床もあればジャパリまんも豊富にある。定期的にたくさんのフレンズ達が利用しに来る場所でもあるから交流や出会いの場としても最適だ。


しかし、私にとってこのろっじ一番の魅力は「漫画」を描ける環境が整っていることだ。道具は自分の物を使うとして、大きな机や椅子、天井には綺麗な灯り、基本的に静かだから落ち着いて漫画に集中できる。


そして何より



「先生ー!!新作は順調ですかー!?どうなんですかー!?」



毎日私の作品を読みに来てくれる「読者」がいることが一番大きい。


今日も今日とで私の漫画の進歩状況を覗きに来たのは『アミメキリン』だ。私の描いた「ホラー探偵ギロギロ」を見て以来私の大ファンらしい。それはもちろん嬉しいことなのだが………………………一つ大きな問題がある。



「いきなり大声をあげて入って来るなと言ってるだろう?せっかく新作の構想がもうそこまで来ていたのに、君の大声で全部吹き飛んでしまったよ」



「え?えぇぇ!?ご、ごめんなさい先生ーー!!」



彼女の私に対するぶっ飛んだ熱意が、私のこの静かな環境をもの見事に破壊してしまうのだ。別に彼女に悪気が無いことくらいは分かっている。私の作品を見て、できもしない探偵の真似事をするくらいだ。真っ直ぐすぎる程の純粋なファンなのは分かる。


だがしかし、もう少し静かにすることは出来ないだろうか?



「あ、あの先生!この前の新作スゴかったです!まさか犯人が証拠品を全て食べてしまっていたなんて!でも!そこから犯人の食欲がいつもより無いことに気付いた主人公が怒涛の勢いで犯人を追い詰めていくシーンはもう!最高でした!!」



「あ、あぁ。それは良かった」

(あぁダメだ。怒りにくい)



毎度毎度彼女が来る度に静かにしてくれと頼もうとするのだが、その都度彼女が純粋無垢な表情で私の作品の感想を言ってくるものだから、怒るに怒れないの繰り返しだ。



「あ、あのーそれで先生。今度の新作はどういった感じのモノになるんでしょうか?」



「ん?あぁそれなんだが、カバンとサーバル達が海を出て以来どうもアイデアが詰まるようになってしまってね。最近困っているんだよ」



カバンとサーバル。あの二人の何物にも代えがたい友情を見てからというもの、どうも漫画のアイデアが行き詰まるようになってしまった。大きな『何か』が私の感性を刺激したのは間違いないのだが…………………。



「カバンとサーバルですか~…………………確かにあの子達、最初見たときは何だか危なげなかったけど、あの巨大セルリアンの事件があって以来ちょっとだけ二人の関係が羨ましく見えちゃいましたよ」



「……………………」



「なんて言うんでしょうか、先生の作品で例えるなら探偵と相棒の刑事!みたいな!二人で歩んできた数々の事件の経験を培って手に入れた勝利!みたいな!」



「…………………!!」



アミメキリンの今の言葉に、思わず私は耳を大きく傾けてしまった。二人で歩んできた数々の経験。そう、カバンとサーバルはさばんなちほーで出会ってからというもの、ジャパリパークの様々なちほーを共に旅して行ったという。その旅で培った多くの経験、出会いがあの巨大セルリアンをも退けたのだ。



「そうか…………………それだ!」



アミメキリンと同じように、私もあの二人が羨ましかったのかもしれない。まるで漫画のような冒険、漫画のような友情と絆、漫画のような奇跡。漫画の中でしか出来ないようなことをあの二人は現実でやって見せた。



「ど、どうしたんですか?先生!?」



「ろっじで静かに考えながら物語を作るのも悪くないが、やはり現実で集めるネタの方が刺激的なモノは多いに違いない!しばらくこのろっじとはお別れだ」



「え?えぇぇぇ!?行っちゃうんですか先生ー!?」



「あぁ。多くのフレンズが惹かれたカバンとサーバル。あの二人が歩んだ道を辿って最高の冒険談を漫画にするのさ。しかしただの冒険談じゃない。ジャパリパークとは何なのか?ヒトとは何なのか?サンドスターとは?セルリアンとは?二人の旅の途中で次々と現れる世界の謎、そして段々と明かされていく真実!推理と冒険が合わさった今までにない最高傑作だ!」



私は沸き上がる高揚感を抑えきれずに、机の上にあった道具をまとめ、ろっじを出る準備を始める。そんな私の突拍子のない行動にアミメキリンは動揺を隠せないようで。



「せ、先生………………………!」



「それじゃあ、アリツカゲラに別れの挨拶をしてくるよ」



「うぅ……………………………」



「一緒に来るかい?」



「……………………え!?」



「作家にはアシスタントと感想を言ってくれる読者がいないと困るからね。それに、友情と絆の冒険談なんだ、私一人じゃ意味がないだろ?」



「も、もも…………………もちろん!もちろんお供します!先生!!」



アミメキリンは目に涙を浮かべ、何の迷いもなく私の誘いに乗ってくれた。こうして私とアミメキリンのカバン達の軌跡を辿る旅が始まったのだ。






「ところで先生。この作品のタイトルはどうしますか!?」



「ん?あぁタイトルか。この作品のタイトルは………………………………」










「けものフレンズだよ」

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