第二十五話【私、申し込みます】
虎さんたちがやって来て、町を受け渡せと脅迫してきたなう。
……。
私はため息交じりに返答した。
「お断り申し上げたら、どのようになるのでしょう?」
「そんなものは力ずくで奪うまでだ」
不敵に笑う虎獣人たち。たった六人で敵地のど真ん中で凄い態度だと思うわ。
それだけ実力には自信があるのね。
だったらそれを逆手に取るまでよ。
「そうですね……それでは一つ提案があります」
「提案だと?」
「はい。決闘を申し込みます」
虎獣人だけでなくプルームさんやプラッツ君まで絶句してしまった。
ブルーだけが、うっすらと笑みを浮かべた。
固まっていたティグレさんだったが、面白く無さそうに頬杖をついたわ。
「それは望む所だが……どうせそっちの青い奇妙な服の姉ちゃんが代わりなんて言い出すんだろ? それじゃあダメだ。やるなら代表同士……俺とお前だ」
「貴様っ! 不遜にもほどがある!」
「落ち着きなさいブルー。……すみません。しかしティグレさんは少々誤解をしているようですね?」
「なんだと?」
「私は初めから代表同士の決闘。つまり私とあなたの決闘を望んでいます」
「ミレーヌ様!?」
「女神様!?」
「ミレーヌ! 何言ってんだよ!?」
ブルーだけで無く、プルームさんとプラッツ君まで血相を変えたわ。
「ほう……? 大した度胸じゃねぇか。個人的には強そうなヤツとやりたいところだが、村の掟でな。決闘でカタをつけるときは代表同士、またはその親族って決まってんだ」
「だったら俺が!」
「ガキは引っ込んでろっ!」
「ぅひっ!?」
「プラッツ君。気持ちは嬉しいけど、大丈夫。考えがあるの」
「……ぅあ……そ、そうなのか?」
「ティグレさん。決闘の条件は私が決めます。よろしいですか?」
「内容によるな。甘味の早食い競争なんて言われたらたまらん」
彼の横で屈強な虎獣人たちがくぐもった笑いを零す。
それほどティグレさんに絶大な信頼があるのだろう。
まぁブルーなら負けたりしないんだけど、それじゃあ納得しないでしょうしね。
「条件は、武器防具は自由。ただし勝負の開始位置を少し離してもらいます。勝敗は相手がまいったと言うか、その意志を示したらにしましょう」
「ふん。殺しちまった場合はどうするんだ?」
「それは見たままの勝者で良いでしょう」
「へぇ……気に入った! この俺様を相手に良い度胸だ! どんな奥の手があるか知らんが乗ってやる! 投石機でもなんでも持って来い!」
「決まりですね」
「ミレーヌ様! およし下さい! そんな事をしなくても私一人で……」
「ダメよ。それよりも今から言う物を用意して頂戴」
「しかし……」
「私はあまり命令したくないわ?」
「……か、かしこまりました」
私が耳打ちした道具に、ブルーは目を丸くしてから、いつもの落ち着いた表情へと戻っていった。
「すぐに用意いたします」
「はい。お願いね」
「ふんっ。葬儀屋の準備か?」
「すぐにわかりますよ」
私がやんわりと微笑むと、虎獣人たちがぐわりと牙を剥いた。
……怖いわ!
やっぱりブルーにやってもらえば良かったかしら?
◆
町の外れに作られた調練広場。
身体を使う訓練は大抵ここで行っている。
「へえ。こりゃいいぜ。あの木で作った獣の型が的になってんのか」
「こいつは奪いがいがありますね」
「ふん。すぐに俺たちのもんよ」
邪魔な練習用の的などを片付けている間にお互いの準備を進める。彼らは興味深げに広間を見て回っていたわ。
余裕ね。
「ミレーヌ様、準備が終わりました」
「ありがとう」
こちらの様子に気付いたティグレがすっ飛んできた。
「おい……」
「なんでしょう?」
「そりゃどういうつもりだ?」
「見ての通りですが?」
「そうか……つまり……コケにしてるわけだな?」
震えた声でティグレが指さした物は……パラソルの付いたテーブルと椅子であった。
木細工の美しいテーブルの上にはお茶道具一式が。それとお菓子に食事などが籠にぎっしりと詰まっておかれていた。
そりゃあ怒るかも知れない。
「そう取るのはご自由に。あ、開始位置は広場の反対側ですよ?」
「くっ……わかった。生かしておいてやるつもりだったが、すぐに八つ裂きにしてやるからな!」
「ご随意に」
ティグレさんは背中から怒りのオーラを漂わせつつ、開始位置まで下がっていった。
こちらを見る目は完全に獲物を捕らえる目だったわ。
怖い!
……やっぱりブルーに変わってもらえば良かったかしら?
ダメね。
あの手合いは、
明日の平和のために、私、頑張ります!
ブルーの「開始!」という合図と共にティグレさんは弾丸の様に突っ込んできた。
大人げないと思います!
こうして決闘は始まった。
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