おきらく女魔導士の開拓記 〜メイドと始めるまったり楽々スローライフ〜
佐々木さざめき
第一章
第一話【私、目覚める】
(*2017/04/24大幅改編)
私は楽しいことが好き。
芸術が好き。彫刻とか絵画とか音楽とか、とにかく楽しいことがだーいすき!
だけど、長年続いた戦争で、私の好きな物はどんどん無くなっていったの!
だからもうこんな世界とはバイバイすることに決めたわ!
幸い私は生体ゴーレム造りだけは得意で、直接戦争に関わることは無かったわ。
人里離れた陸の孤島で、生体ゴーレムをひたすら作っていたの。
だけど、私の可愛い
あ。
メイド人形っていうのは私の作った生体ゴーレムの名称よ。
ゴーレムとか響きが悪いじゃ無い。
魔術の腕は中の上だけど、研究は嫌いじゃ無かったから、古代の時間凍結魔術を復活させたわ。
……。
正直成功するかは未知数だけど。
でも良いの!
楽しみがないこんな世界で生きるくらいなら、私は賭けるわ!
戦争の無くなった世界に旅立つことを!
みんなさようなら!
一人逃げる私を許してね!
……。
まぁ、逃げた先で苦労するつもりはないんだけどね。
だって私にはメイド人形があるんですもの!
「ブルー!」
私が呼ぶと、特別製のメイド人形であるブルーが部屋にやって来た。
青い長髪、青い瞳のメイド人形である。
そこっ!
名前が安直とか言わない!
覚えやすいでしょ!
ちなみいブルーはおっぱいが大きくて腰は細い。
いわゆるボンキュボーンだ。
……私のコンプレックスじゃ無いわよ?
私だってそこそこ良いプロポーションしてるんだからね?
「準備は出来てる?」
「はい。ミレーヌ様。完璧です。ですが本当にやるんですか?」
「ええ! 私の決意は変わらないわ! 平和な世界で芸術を愛でながら、楽しく暮らすの!」
「……わかりました。どこまでもお供しお守りします」
「うんうん。ちゃんと守ってね」
「はい!」
本当は万能型であるハウスメイド型だけでは無く、農業型や戦闘型も一緒に時間凍結したいのだけれど、とっくに戦争に徴収されてしまった。
戦争許すまじ!
「せめて魔核があればねぇ」
「そうですね。しかし戦争で枯渇していますから」
「本当に戦争はろくでもないわね」
「はい」
魔核は魔物や魔力の濃い地脈近くで取れる、魔力の結晶の事だ。
これがあれば、私のオリジナル魔術でメイド人形を色々と作り出すことができる。
「まああなたさえいれば、なんとかなるわよね?」
「もちろんです。たとえどんな事になってもミレーヌ様をお守りします!」
彼女の決意は本物だ。まぁそう作ってるんだけどね。
それでも長年一緒にいるから、かなり個性が出ている。ちょっと過保護で心配性過ぎるのが玉に瑕なくらいだ。
「じゃあ行きましょうか! 戦争の無い世界へ!」
「はい!」
そうして私たちは、強固に作り上げた、石造りの地下室へと降りていく。
綺麗に磨かれた石畳に描かれた複雑怪奇な魔方陣が、淡い緑色に発光していた。
「じゃあ服を脱いでね。魔方陣内の情報量は少しでも少ない方が良いの」
「わかりました」
私もずばっと服を脱ぎ捨てて、ブルーと一緒に並んで横になる。
「それじゃあ発動するわよ! ……時間よ! 止まれ!」
……発動ワードなんて何でも良いのよ。
時間があれば美しい詩にしたんだけどね。
そうして。
——私の意識は暗闇に閉ざされた。
◆
——。
私の意識がゆっくりと覚醒していくのがわかる。
えーっと、私は誰でここはどこだっけ?
なんてね。私は……ミレーヌ・ソルシエ。
ぴっちぴちの19歳!
……嘘です22歳です。
可愛くて、ボンキュッボンのお姫様よ!
ごめんなさい。
お姫様じゃなくて、お姫様みたいに楽に生きたいだけでした。
うん。記憶は大丈夫そうだ。
とりあえず、私は時刻魔法を唱えると、現在の年月日を知った。
一応200年を設定したんだけど……。
私は三度、年月日を確認した。
2000年が過ぎていた。
……間違って0を多く設定しちゃったとかじゃないわよね?
◆
「……おはようございますミレーヌ様」
私が少々凹んでいると、ブルーも身体を起こした。
「うん。おはよう。えっとね、あれから2000年経っちゃったみたい」
「理解しました」
「したんだ」
物わかりが良すぎるでしょ。
まぁ説得する手間が無くて良いけど。
折りたたんで置いておいた、ホコリだらけの服を手にしたら……崩れ去った。
うん、それはそうよね……。
「とりあえず、外に出て、服を探しましょう。裸は落ち着かないわ」
「わかりました」
靴すら無いので、ブルーが私をお姫様だっこして運んでくれた。
私たちは石の階段を昇って地上へと出る。
もともと戦争対策で作った待避所なので非常に深い。
地上に出たら、美しい芸術品を愛でたり、ドール・メイドを愛でたり(見て楽しむのよ?)、音楽を聴いたり、美味しい物を食べて暮らしましょう!
魔核さえ手に入ればきっとなんとかなるわ!
今度こそ怠惰の日々を漫喫するわよ~!
長い階段を昇ると、出入り口の辺りは思いっきり崩れていたが、ブルーが頑張ってどかしてくれた。
優秀なのだよ。ふふふ。
眩しい太陽光が差し込んでくる。
目を細めて外に出ると……。
そこはジャングルだった。
「……家は?」
「見当たりません。ですが土台になっていたと思わしき石組みが残っています」
ブルーに言われて、その辺りを見回すと、確かに草に紛れて石の土台らしき物が見え隠れしていた。
「え? なに? 野盗にでも襲われて火でもかけられたのかしら?」
充分あり得る話だ。
「元々人が立ち入れるような立地とはかけ離れた、陸の孤島でしたから可能性は少ないかと。2000年の間に風化したものと推測します」
「そういえば、人の住まない家はすぐに悪くなるって言うわよね」
まあ無い物はしょうがない。それよりも。
「ねえ、服がどこかに無いかしら?」
「探してみます」
ブルーは私を近くの倒木に座らせると、辺りをくまなく探したが、人工物は何一つ見つけられなかった。
「ねえブルー」
「はい」
「これってすごく大変なんじゃ無いかしら?」
「同意します」
うん。
これ、大変な事になっちゃったわ。
こうして私たちのサバイバルは始まった。
全裸で。
夢の自堕落生活はちょっと先になりそうだった。
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