さわわんーその2ー

さわわん(勘兵衛):「……こんなん着て何しろって言うんだよ……。」

左近:「まだ顔を隠すことが出来るだけマシだろうに……。」

「わしなんかお前の代弁者として、顔晒して人前に出なければならないのだぞ……。」

「それにわし……家老だぞ。」

「これまでは宴席の場の最初。殿のどうでもいい長話を聞かされたあと。

徐に盃を掲げ。乾杯の音頭を取りさえすれば。

あとは注ぎに来る家臣に対し、心にもないことを言っていれば良い……。

そんな立場であったわしが。」

「……何故司会なんぞを担わなければならないのだ……。」

さわわん(勘兵衛):「……殿の考えがわからぬ……。」


と納得がいかぬ2人。

それでも殿の顔を潰さぬよう

紹介を受けた人物のもとは尋ねなければ。

あわよくば殿に今回の案件取り消しの依頼も兼ね。

と律儀に足を運ぶ左近にさわわん(勘兵衛)。

この両者が目にしたのが

出雲阿国。


彼女が繰り出す洗練されたかぶき踊りと

立錐の余地もなく埋め尽くされた観客が魅了される姿に圧倒される両者。

とは言え

(……俺たちにこんなこと出来るわけないだろうに……。)

……と改めて殿に思い直させる取り成しを依頼するべく楽屋を訪れた両名に対し。


阿国:「三成様は戦乱が終わり。平和となったあとのことを考えられていると思われます。」

左近:「……と申されますと。」

阿国:「これまではいつ誰が自分の財産を狙ってくるかわからない。」

「それも武装を整え。集団でもって。」

「自衛のために武器を手に取り、戦うにしても限度がある。」

「その不安を解消してくれる君主を求め。」

「自らの身の安全を保障しさえしてくれればそれで良かった。のでありましたが。」

「平和な世となり。」

「安全が当たり前の世の中になりますと……。」

左近:「年貢を納める理由が無くなってしまう……。」

さわわん(勘兵衛):「それでも。と税を徴収しようとすると……。」

阿国:「逆に略奪者のレッテルを貼られることになってしまいます。」

左近:「守っていることに変わり無いのではあるが……。」

阿国:「実際、政治と分離することになりましたかたがたの中には。」

左近:「生き残りを模索すべく。」

阿国:「名物や催し物などの開発を目指すこととなるのであります。」

左近:「我らが統治していることに変わりは無いのであるが。」

さわわん(勘兵衛):「見えにくくなってしまっているため。」

阿国:「今後。領民が殿に対し求める事項が増えてくることになります。」

左近:「その対策の1つとして。」

さわわん(勘兵衛):「殿は私に対し、着ぐるみをお渡しになられた。と……。」

阿国:「武士の皆様がたは、いくさが無ければ必要のない仕事でありますし。」

左近:「直接。自らが価値を産み出すわけでもない。」

阿国:「安全を保つことにより、価値創造の手助けをしていることは事実なのではありますが。」

さわわん(勘兵衛):「作物のようにハッキリとした数字で現れる仕事ではない。」

阿国:「同じことは私のような芸事をしているものにも言えることでありまして。」

左近:「あれほど観客を魅了しているにもかかららず。」

阿国:「税の基準が見えない。と言う理由だけで。」

さわわん(勘兵衛):「身分外の扱いを被ることになってしまっている。」

阿国:「田畑があれば耕すのでありますけれどね……。」

左近:「……仕方なく……。の面もありますからな……。」

さわわん(勘兵衛):「とは言え私が阿国殿のような洗練された舞をするだけの自信は……。」

「……正直。御座いませぬが……。」

阿国:「三成様が今日。左近様や勘兵衛様に見せたかったのは

私の踊りを学ぶように。

と言うことでは無いと思われます。」

左近:「……と申されますと……。」

阿国:「三成様はたぶん。

芸事などサービスの仕事が民に対し、

どのような効用をもたらすことになるのか?

を見て欲しかったのではないかと思われます。」

「勘兵衛様が仰られましたように。

勘兵衛様が私の舞が出来ないように。

私には出来ない勘兵衛様の魅せかた。

と言うものもあると思われます。」

「そのために三成様は、勘兵衛様に対し着ぐるみを渡されたことと思われます。」


(……領民のためになるのであれば。)

と挙(三成)の要請を受け入れることを決めた2人は

人形劇団などで特訓しつつ

阿国に言われた

自分にしか出来ないものは何か?

を模索。

その結果

(……これしかないよな……。)

と結論に達したのが


いくさでの動き。


真剣を手に両者が織り成す演武は

一応段取りは組まれているが。

本当の意味でのアドリブがふんだんに盛り込まれていたため

さわわん(勘兵衛)が内出血を起こすなど

生傷が絶えず。

そこで取り出しましたる軟膏のようなものを塗りつけるも追いつかないことしばし。

最終的には司会役の家老・左近が

本気での土下座を余儀なくされる形で終息を迎える姿に

良く治められているとは言え。

贅沢になった領民の溜飲を下げさせるには持って来いの効果をもたらすなど

一躍ブレイク。

東山道や北国街道の宿場やそこを行き交う荷車や駕籠には

さわわんと

さわわんの前で土下座する家老のイラストで埋め尽くされるのでありました。


そんな彼らに対し。

世間の反応は?

と言いますと……。

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