宇立挙39歳『佐和山蟄居中の石田三成に転生す』

俣彦

出向

2017年3月。


(……私の出世もここまでなのか……)


会社に貼り出された一枚の紙切れを前に

宇立挙39歳は呟くのでありました。


『宇立挙

営業部営業3課課長の任を解き

関連倉庫会社事業部長への出向を命ず。』


(……大学を出て入社してから17年。

私が会社のために尽くして来た

これまでの人生はいったい何だったのか……。)

(……確かに私は失敗をした。)

(子供に人気があるから。と言う理由だけで。)

(……悪戯にジャガイモの皮を剥いた。)

(油で揚げずに。塩もまぶさずに……。)

(……会議では猛反発を喰らった。)

(……戦時食だの。飢饉のアイルランドなどと言った……。)

(……至極真っ当な意見に対し。)

(……私の弁才で持って引っ繰り返した。までは良かったのであったが……。)

(……ジャガイモ丸ごとの塊を……。)

(……素材本来の味を知って頂きたいから。と……)

(……ロクに味も付けず。袋の中に詰め込んだだけでは……。)

(……量販店のバイヤーに、この商品の良さを理解して頂くことも出来ず。)

(中には……長年の付き合いだからと。)

(……日切れ商品との交換を条件に場所を提供して頂けた。までは良かったのではあったが……。)

(……モノはジャガイモの塊。)

(……店の棚に収納するだけでも一苦労。)

(……更には。)

(……収納したが最期。)

(取り出すためには、上の棚を取り外さなければ手に取って頂くこともママならない……。)

(しかもこのジャガイモ。)

(熱などで殺菌加熱しているわけでは無く、単に袋に詰めているだけであったため。)

(3日もしない内に不思議な薫りが周り一面に漂うことになるか。)

(……たぶん次なる命が芽吹いているのであろう。)

(……中の袋が変形し、上下の棚を押し上げる始末。)

(……折角置いて頂いた店のバイヤー様からも信用を失い。)

(……売れることを見込んで購入したジャガイモ14トンは未だ倉庫に眠ったまま。)

(……その倉庫に私は……。)

(……今度出向することに相成った……。)

(……肩書きは『部長』なのではあるが……。)

(……果たしてこれは。)

(……栄転なのか……。)

(……それとも……。)

(……左遷なのか……。)


その後、人事部長に呼ばれた挙。

その席上で今回の異動についての説明を受け、

その中で。

社長が挙に対し課しているミッションが何であるのかを知ることになるのでありました。


『ジャガイモ14トンを処理せよ。』


(……畑の肥やしにすれば良いのでは?)

もしくは

(……4等分して植え直すことによって更なる収穫を目指すべき。)

と言う意見を述べるも


『土地は自分で確保するように。

その資金を会社から出すことはない。』

とのつれない返事。


そんな対応でありますので当然の如く。

『仕入れ値とこれまでの保管賃よりも安い値段で闇市場に流すことも駄目。

廃棄するなどもってのほか。

倉庫に保管されているジャガイモ14トンを使って

きちんとした利益を出すように。

その後のことは、その時考えることにする。』


(……私のこれまでの人生はいったい何だったのであろうか……。)


その夜。

異動となった件を家族に打ち明けることも出来ず。

独り台所でカップ麺を啜る挙。


(……このままでは私は。ジャガイモと共に会社から葬り去られることになる……。)

(……それよりもなによりもまずやるべきことは。)

(……14トンものジャガイモをどう処理するか……。)

(……大手量販店との伝手はあるとは言え。)

(……あるのは一般食品の分野であって……。)

(……生鮮食料品にその伝手は無し……。)

(……仮にあったとしても……。)

(……ヒネのジャガイモ。)

(……二束三文で買い叩かれるならまだしも。)

(……それどころか。)

(……置いてもらうために。)

(……こちらが払わなければならなくなるのが関の山。)

(……素材の良さとか謳わずに。)

(……素直にスライスして油で揚げるべきだったか……。)

(……塩で味付けすることによって、満腹感を麻痺させるべきであったか……。)

(……今となっては……。)

(……あとの祭りなのではあるが……。)


この夜。挙は生まれて初めて

酒の力を借りて眠りに就くのでありました。

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