がんばれ新米ハンターリカオン

のこのこのこ

面接本番当日

 セルリアンと勇敢に戦い、フレンズを守り、パークに平和をもたらす、我々の最大の憧れ『ハンター』。

 私、リカオンもそれに憧憬の念を抱いています。

 そして今日、私はついにそのハンターの一員になる! ……かもです。


「緊張してきた……」


 これからハンターになるための面接を受けるのです。

 面接会場は図書館、その入り口に一歩一歩近づくたびに、心がドキドキして、お腹がシクシク痛みます。

 でも大丈夫、今朝は私の縄張りであるさばんなちほーでカバさんに面接練習をして頂いたのです。それをよーく思い出して……





「準備はよろしくて?」

「は、はい!」

「お名前は?」

「リカオンです」

「あなた泳げまして?」

「あまり得意では……」

「足は速いんですの?」

「体力なら自信あるんですけど、速い訳では……」

「じゃあ力が強いとか?」

「力はそんなに……」

「あなた何にもできないのねぇ」





 ……あまり思い出さない方が良かったかもしれません。

 しかし、最後には「もっと自分に自信を持って、頑張るのですのよ」と激励を頂きました。

 応援してくれる方々がいる以上、全力で……!


「おーい、なに入口でウロウロしているんだ。早く入ってこい」

「え? は、はい!」


 色々なことを考えている間に、いつの間にか図書館に到着していたみたいです。

 いきなり悪印象を与えてしまったかも……でも、落ち込んでいる暇はありません。言われた通り、図書館の中に入ります。


「ほ、本日はよよよろしくお願いします!」

「ああ、よろしく」

「よろしくお願いしますね」


 緊張して、最初の挨拶でいきなりカミカミのしどろもどろです。

 なんせ目の前には、我々フレンズの憧れの的、サイキョーの力で蹂躙するヒグマさん、テクニカルな棒捌きで翻弄するキンシコウさんがいるのです。どぎまぎするに決まってます。


「それじゃ早速面接を始めるが、名前は何ていうんだ?」

「リカオンです!」

「力には自信はあるのか?」

「力はその、余りないんですけど……あ、でも! 持久戦とかは得意でして!」

「パークを守る気持ちは強く持っていますか?」

「も、勿論! その、ぐぐ具体的には、そのぉ……」


 あああ、思わぬ質問で頭が真っ白に……このままでは、落とされる!

 な、なにか考えないと、考えないと、うう。

 頭の中がぐるぐるしている間に、お二人が私の方を向き、口を開きます。


「よし、合格だ!」

「おめでとうございます!」

「……え?」

「なんだよその反応、合格なんだからもっと喜べよ」

「えぇ~~~!?」


 自分で言うのもおかしいかもですが、何で合格!?

 だって、二つしか質問に答えてないし、その答え方もまずかったし、えぇ~?


「ようやくまともなフレンズが来てくれましたね」

「ほんとだよな」

「ま、まとも、とは?」

「なんというか、難のあるフレンズが多くて」

「お前より前に数人面接したが、どれも酷いもんだよ。例えば……」






「何か得意なこととかはあるのか?」

「歌ね。それじゃ一曲、歌わせて頂くわね」

「……は?」

「わた~~しは~~トォ~キ~~~」

「な、なんだこの歌声ぇ! さっさと帰れー!」





「名前は何というのですか?」

「……まんぞく」

「はい?」

「一度、面接というものを受けてみたくて。満足したのでボクは帰ります」

「いや、あのちょっと……」





「それじゃ面接を……」

「待って、ここが何の面接会場なのか私が推理してあげるわ! ズバリ、PPPのメンバー面接会場ね!」

「ここはハンターの面接会場ですが」

「な! 私の推理が外れるはずがないわ、白状なさい!」

「……あの、申し訳ありませんがお帰り願います」






「……といった具合でですね」

「確かにひどいですねぇ……」

「そうだろー? お前が来てくれて、本当に良かったよ」


 お二人の話を聞いて、なんとなく私が合格できた理由が分かる気がします。

 こんなんでも合格は合格! そう思うと、少しずつ嬉しさがこみ上げてきます!


 ……しかし実技試験みたいものはないのでしょうか。

 そう思っていると、奥から博士と助手がバタバタと騒がしく出てきました。


「大変なのです」

「へいげんちほーでセルリアンがフレンズを襲っているようなのです」

「それは大変です! 早く助けに行きましょう!」

「よし、二人ともいくぞ!」

「い、いきなりですか!」


 何ということでしょう、早くも初仕事が舞い込んできました。

 ドクン、ドクンと心が鳴ります。緊張のせいでもありますが、ついにこれからハンターとしての活動が始まるんだ、という気持ちの高鳴りでもあります。

 今日のために鍛錬を積んできました。群れでの狩りもしてきました。

 頑張るしか……ない!







「う、うわあぁぁ……」

「これは、大きいですね……」


 へいげんちほーに駆け付けると、私の想像の何倍、いや何十倍もの大きさのセルリアンが暴れていました。

 初めてみる大きさのセルリアンに、私の身体はすくみます。


「よし、全力でいくぞ」

「た、戦うんですか、こんなのと……せめて、増援を待った方がいいかもですよ!」

「ダメです。待っている間に他のフレンズが襲われる可能性がありますから」

「覚悟を決めろ!」


 そういうと、二人はセルリアンに果敢に飛びつきます。

 一方私は何もしていません。いや、何もできないのです。身体が強張って動かないのです。


「何しているんだリカオン!」

「棒立ちだと危ないです、せめて動き回って!」

「そ、そうしたいんですけど!」


 そのときです。セルリアンの触手が左右両方向から私を襲ってきます!

 私は機動力に自信があり、攻撃回避は得意です。でも今日は、自分の身体が、自分の身体ではないようなのです。

 このままでは、直撃……!

 もうダメだ――私は思わず目をつぶります。


「どりゃあ!」

「はっ!」


 次に目を開けたとき、左からの攻撃をヒグマさんが、右からをキンシコウさんが、それぞれ防いでくれていました。助かった……そして流れるように、二人は次の攻撃へと転じます。


「あ……そ、その、ありがとうございます!」

「お礼なんていらん! 私たちはもう仲間だ、助けるのが当たり前だ!」

「その通りですよ! さあ、一緒に戦いましょう!」


 二人の言葉を聞いて、身体が軽くなるのを感じました。

 動ける……今なら、頑張れる!


「う、ううう、うおおおお!!」


 セルリアンは怖いです。殺されるかもしれない、という恐怖と常に隣り合わせです。

 しかし、どんなピンチであろうとも、今の私には助けてくれる仲間がいます。


「石が見えてきましたよ!」

「リカオン、最後の一撃を食らわせてやれ!」

「はい! はぁあああ!!」


 剥き出しになった石に向って全力の一撃をぶつけます。

 その瞬間、セルリアンは砕け散りました。

 私の、いえ我々の勝利です!


「や、やった!」

「やりましたね、リカオン」

「ああ、大仕事だ!」


 褒められ慣れていない私は、思わず俯いてしまいます。

 そうしていると、私たちが助けたフレンズの方々が近づいてきて、「ありがとうでござる」「ありがとうですぅ」と言葉をかけてくれました。

 それを聞いて思わず涙が出そうになりますが、ぐっと堪えます。もう私はハンターの一員、弱い姿を見せては……いや、でも……



「あーあ、何泣いてるんだか」

「しょうがないですね、ふふっ」





「なんてこともあったなぁ……」

「リカオン、仕事ですよ」

「ま、またですか~!」

「文句言うな! いくぞ!」

「うぅ、オーダー了解しましたよぉ!」


 こうして私は忙しい日々を送っていますが、あのときのことを思い出せばこれからも頑張れそうです。

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