ボスにおまかせ
秋本 寛
ボスにおまかせ
PPPやマーゲイに見送られてみずべちほーを後にし、港へと向かう途中のこと。
ジャパリバスのスピードが急に遅くなり、ついには道の真ん中で止まってしまった。
「どうしたの、ボス?」
ラッキービーストが何度かモーターを再駆動させようとするが、苦しげな音を立てるばかりで動こうとしない。
「ジャパリバス診断モードニ移行。原因ヲ確認中、確認中……」
しばらくすると明るい電子音が鳴り、俯いていたラッキービーストが体を起こす。
「ドウヤラ電気系統ノパーツニ異常がアルミタイダネ」
「でんきけいとう……。あの、どうすれば直るんですか?」
「マカセテ。ジャパリバスハ、メンテナンス性ガ高インダ。不意ノ故障デモ安心サ」
ジャパリパーク内にはジャパリバスの補修パーツやオプション装備を保管しておくデポが点在している。
ラッキービーストは早速最寄りのデポを検索し、その場所へと2人を案内する。
「コノ先ニアル湖ノソバニ、デポガアルヨ。交換スルパーツヲ選ブカラ、皆デ協力シテ……」
しかし辿り着いた先には抉れたような地面があるだけでデポらしきものは存在していない。
「ラッキーさん、これって……?」
「コ、ココ、ココニ……ココニ、ア、ァワ、アワワワワ……」
ラッキービーストが目を白くして震え始める。
「どういうことなのボス!?」
ここにデポがあった事は間違いないのだが、何らかのトラブル――おそらくはセルリアンとの戦いに巻き込まれて、デポが飛ばされてしまったのだろう。
「地面の抉れている方向からすると、湖に沈んでいるのかも……」
「チョット待ッテテ、探シテクルカラ」
いつの間にか立ち直っていたラッキービーストが飛び跳ねるようにして湖の方へ近付いていく。
「え……大丈夫なんですか、ラッキーさん?」
「マカセテ。ボクノ防水ハ完璧サ」
ラッキービーストはそう言って、自信満々に水中へと潜っていく。
――3分後――
「ラッキーさーん!」
水を吸って丸々と膨れ上がったラッキービーストが水面に浮かび上がり、かばんとサーバルに回収される結果となった。
「しょうがないなあ。じゃあ私が見てくるよ!」
サーバルはそう言って湖に潜り……しかしすぐに戻ってくる。
「どうだったのサーバルちゃん。デポは見付かった?」
「ねえボス……デポって何?」
探しものがどんなものか分からない事に気付いて戻ってきただけだった。
改めてかばんがラッキービーストにデポの形状を聞き直し、再チャレンジする。
しばらくすると、サーバルが目を輝かせて浮かび上がってきた。
「あったよ! かなり深い場所だけど、ボスが言ってた通りのものが沈んでた!」
「でも、そんな深い所に沈んでいるものをどうやって引き上げれば……」
「ちょっと待っててね。もう一度行って、すぐに引っ張ってくるから!」
サーバルがそう言って潜り直すが、今度は慌てた様子で浮かび上がってくる。
「だめえ! 水の中だと早く動けないよお!」
サーバルの力なら沈んでいるデポを水中で持ち上げる事までは出来るのだけど、そのまま岸や湖面まで運ぶには息が続かないのだ。
「デポを開けて、必要なパーツだけを持ってくるわけにはいかないんですか?」
「修理ニ必要ナパーツハ水ニ弱インダ。デポノ中ニアレバ大丈夫ダケド、開ケレバ水ニ浸カッテシマウネ」
「じゃあどうすればいいの!?」
「う~ん……ロープを使ってデポに丸太をくくり付けられれば、水面に浮かばせて岸まで運べるかも」
かばんが湖の近くに生えている木を見ながら口にする。
「なにそれなにそれ? どういうこと?」
かばんが自分の考えを説明するとサーバルが元気を取り戻す。
「分かった、まずは木を切ればいいんだね!」
サーバルが早速その爪を使って木を切り倒し、湖まで運ぶが、新たな問題が持ち上がる。
「だめえ! 潜れないよお!」
丸太の浮力が大きすぎて、それを抱えたままでは水中に潜れないのだ。
「ごめんね、かばんちゃん。水に潜るのが得意なフレンズがいればいいんだけれど……」
落ち込むサーバルにかばんが微笑む。
「大丈夫。問題が大きければ、小さく分ければいいんだよ」
かばんの考えは、少し時間はかかるけど確実だった。
まずは長いロープの途中に幾つもの輪を作り、それを沈んでいるデポにくくり付けておく。
次に丸太を小さく切り分けたものを持って潜り、その輪の中に通していく。
大きい丸太を沈めるのは無理でも、小さくすれば潜れるのだ。
後はこれを何度も繰り返せば、大きな丸太をくくり付けるのと同じことになる。
「かばんちゃんはやっぱりすっごいなあ!」
「サーバルちゃんも泳ぎがこんなに上手だなんて知らなかったよ」
「ふっふーん♪ ジャガーちゃんにだって負けないんだから」
褒められて嬉しそうなサーバルに、今度はかばんが遠慮がちに声かける。
「あの……ボクも潜るの、やってみてもいいかな?」
「もっちろん! 私が教えてあげるね!」
最初はおっかなびっくりだったかばんもサーバルに教えてもらい、徐々に水中へ潜るのが上手くなっていく。
そうやって2人で何度も潜ってはデポに木片を付けていき、そして――
「わーい、浮かんだあ!」
「サーバルちゃんのおかげだよ」
湖面に浮かび上がったデポにつかまり、バタ足で湖面に向かって泳ぐかばんとサーバル。
楽しそうに笑いあう2人を、ラッキービーストは湖岸で静かに見守っていた。
ハンドルの中央に耳のついた「の」の字が浮かび上がり、ジャパリバスが機嫌良さそうな音をたてて動き始める。
「わーい! 元気になったんだね!」
パーツを交換し終え、改めてジャパリバスで港へ向かう一行。
「次ハ雪山ヲ越エルヨ」
ラッキービーストが後ろにいる二人に伝える。
「ゆきやま? どんなところなんだろう」
「よく分からないけれど、山を越えるのって大変じゃないんですか?」
かばんの問いかけにラッキービーストはルートを再検索しながら考える。
確かに山を越えるのは大変だし迂回路も存在する。
でもそちらのルートは雪が少ないし、温泉のある場所から外れてしまう。
かばんやサーバルにとって沢山の雪や温泉は、きっと初めての経験に違いない。
だとすれば、ジャパリパークのガイド役として楽しいイベントの多いルートを選ぶのは当然だ。
もちろん多少の危険や困難が伴うかもしれない。
でも、かばんとサーバルならきっと乗り越えられるだろう。
そして何より、自分がついているのだ。何の問題もない。
――ラッキービーストはそう判断した。
「大丈夫なの、ボス~?」
「お願いしますね、ラッキーさん」
サーバルとかばんの呼びかけにラッキービーストは自信満々に答えるのだった。
「マカセテ」
ボスにおまかせ 秋本 寛 @h_akimoto
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
けものフレンズ恋愛短編集/気分屋
★111 二次創作:けものフレンズ 連載中 13話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます