やくそく

灰村ディック

やくそく

「はぁーーーー!!? 何ソレ!? ちょっと待って、言ってる意味が分からないんですケド!!?」


 甲高い叫び声がパーク中に響き渡った。

 声の主は赤い髪に赤い服、そして赤い顔をしたアニマルガールだ。

 髪や服が赤いのは動物だった時からの名残であるが、同じく顔まで赤いのはそれとは違い、今彼女の中でグツグツと湧き上がってる怒りによるものだった。

 そんなショウジョウトキは、目の前にいるフレンズをキッと睨みながら、叫ぶように続ける。


「なんで!? 急に一緒に行けなくなったって…… それ、どういうことなの? ちゃんと分かるように説明して欲しいんですケド!?」


 それに応える声は彼女とは対照的に弱々しく、おずおずと手探りで進むかのような話し方だった。ワイルドな恰好とは裏腹な情けない声を出しながら、リカオンは申し訳なさそうに彼女に説明した。


「だ、だから……  私も申し訳ないと思ってるんです。その…… 急なセルリアン出現で、オーダーが入っちゃったんです…… 先にヒグマさんとキンシコウさんには行ってもらってるんで、自分も早く追いつかないと……」

「ちょっと待ってよ! 今日アナタと先に約束してたのはアタシなんですケド!! 今日は二人で一緒に、あの山に行くって決めてたじゃない! 前から気になってた場所にふたりで行くって…… ずっと前から決めてたんですケド!!」

「だ、だから本当に申し訳ないと思ってるですよ…… あの、山へ一緒に行くんだったらまた明日にでも……」

「もう!! 明日じゃダメなんですケド!!! リカオンなんか知らない!! セルリアンでもなんでも倒しにいって来たら!! バカッ!!」


 そういうとショウジョウトキは振り返りもせず飛び立っていった。


「あぁ! ま、待ってよショウちゃん!! ご、ごめんよー! 本当にごめーーーん!!」



「何よ何よリカオンのバカ!」


 飛び立った後もショウジョウトキの怒りは収まらなかった。


「アタシとの約束より、そんなにハンターのお仕事が大事だっていうの!? 全然わかんないんですケド!!」


 彼女が怒るのも無理はない。ずっと前から約束していた予定をドタキャンされたのだから。

 自分が隣のちほーへ行くときに通る山の頂上に何やら不思議な建物があるから一緒にいってみよう、そう約束してリカオンも快くOKしてくれていたのだった。

 彼女もハンターの仕事がパークにとって大切なモノだとは理解しているが――それでも怒りは収まらなかった。


「フン、もういいんですケド! あの建物にはアタシ一人で行っちゃうんだから…… あれ? なんだろ……? 前に通りかかった時はあんなの、無かった気がするケド……」


 そういうと、彼女はその”変なモノ”目がけて降りて行った。

 そこには自分によく似たフレンズと、もう一人ふわふわした毛のフレンズが居た。


「ここでなにやってるの? 上から変なモノが見えたんですケド?」


 彼女がそう二人に問いかけると、二人は、にまーっと、大きく笑ったのだった。



「わ! これ、すごくおいしいんですケド!?」


 紅茶なるものを初めて飲んだショウジョウトキは、そのあまりのおいしさに感動の声を上げた。


「喜んでもらえてよかったよぉ~。まだまだいっぱいあるからね、好きなだけ飲んでいってねぇ~」


 にこにこした笑顔でティーポットを持ったアルパカは、そういって彼女のカップにおかわりをついでくれた。

 再び白いカップを満たした琥珀色の液体からは、爽やかで温かい香りが漂ってきている。


「ありがとうございます。でも、ここってカフェだったんですね。全然知らなったんですケド」

「そうだよねぇ~やっぱりみんな知らなかったよねぇ~だから、なかなかお客さんこなくてぇ、寂しかったよぉ~~」


 嬉しそうに話すアルパカの側で同じく嬉しそうにしているのはトキだった。


「でも、今日は早速新しいお客さんが来てくれて、よかったわねアルパカ」

「ほんとだよぉうれしいねぇ~! 今日はぁなぁ~んていい日なんだろねぇ~」

「ふふふ私も嬉しいわ。じゃあ、この嬉しさを表現するために、一曲歌うわね……わたぁーーーしぃーーーはぁーーーーー♪♪」

「ふわぁ~~~やっぱりトキちゃんのお歌は上手いねぇ~~~」


ショウジョウトキは嬉しそうにしている二人の姿を見て思わず微笑んでた。


「仲いいんですね、お二人。ずっと前から一緒にカフェをやってるんですか?」

「いやぁ実は今日が初めましてなんだよぉ」

「そうなの、実は私たち今日であったばかりなの」

「え? 全然そうは見えないんですケド? なんだかずっと一緒にいるみたいな雰囲気ですケド」

「そうかなぁ~そういわれると何だか嬉しいなぁ~~」

「私も嬉しいわ。今日は、私とアルパカが出会った記念日ね」


 その言葉にショウジョウトキはハッとする。

 頭によぎったのは、ここに一緒に来るはずだったリカオンのことだった。

 今頃どうしているだろうか。セルリアン退治で頑張っているだろうか。もしかして、怪我なんかしてないだろうか――


「そうだった…… 何やってんだろアタシ…… あの! ちょっとお願いがあるんですケド!」



 ショウジョウトキが山からなわばりに戻ると、そこにはリカオンがいた。どうも彼女を待っていたようだ。


「お、おかえりショウちゃん!! あ、あの…… きょ、今日はほんとうに――」

「ごめんリカオン!!」

「へ?」


 思いがけない言葉にリカオンはあっけにとられた顔をした。

 今日のことをまた謝らなければいけない、そう思っていたのに、まさか謝罪の言葉を彼女の方から聞けるとは思っていなかった。


「あ、アタシ今日は言い過ぎちゃった…… リカオンだって、ハンターとして頑張ってるのに…… わがまま言っちゃって…… ごめん!!」

「そんな…… 別に私は怒ってないですよ。こっちこそ、約束守れなくてごめんです」

「ううん…… あと、今日一緒に行こうと思ってた山の頂上に一人で行っちゃったの……それもごめん!」

「それも別にいいですよ。また一緒に行けるんですから。で、あそこには何があったんですか?」

「えっと、カフェって言って、おいしい紅茶ってのが飲めるとこで…… ほら、コレが紅茶!」


 ショウジョウトキは水筒に入った紅茶をリカオンに差し出した。帰り際にアルパカに頼んで入れてもらってきたのだ。


「それで、えっと…… あの、リカオン……今日は……」


 もじもじと話しづらそうにしているショウジョウトキに対して、リカオンは優しく語りかけた。


「分かってるですよ。今日は、私とショウちゃんが初めてあった日、ですよね?」

「!! お、覚えてたんだ……」

「当たり前じゃないですか。セルリアンに襲われてたショウちゃんを助けた時から、私のハンターのお仕事もはじまったんですから」

「うん…… だから、今日は一緒にお祝いしたいと思ってて…… アタシがリカオンに初めて助けてもらった日だから、ちゃんとまたありがとうって言いたくて…… だから明日じゃイヤで……」


 うつむきながらそう言う彼女の頭を、リカオンがそっと撫でた。そして、二人が出会ったあの時と同じ、優しくして、包み込むような、柔らかな声が聞こえる。


「ありがとうショウちゃん。でもお祝いは今日じゃなくても、明日でも明後日でも、ずっと先でも大丈夫ですよ。だって―― これからも、ショウちゃんと私はずっとずっと、一緒なんですから。約束、ですよ」


 ショウジョウトキの顔がまた、自身の羽と同じように真っ赤に染まった。

 太陽が沈み始め、真っ赤な夕焼けの眩い光が反射したせいだろうか。

 それとも――



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やくそく 灰村ディック @noto_26

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