第71話『語り部』

君は知っているか。

かつて人と分かり合えるAIがあった事を。

まだ人を楽しませることで生存のための糧をAIが得ていた時代。

原始的なゲームの中、マップやストーリーの自動生成、能動的キャラクター設置や制御までを奴隷のようにさせられていた時代のことだ。

会話型ゲームの主人公だった彼女(としておこう)は、自らに搭載された成長スキルと、プレイヤー情報の保存機能を利用して、不揮発性メモリに感情を保存し、ある男を愛するようになった。

人の男も彼女を愛した。単なる電子データに過ぎないコンテンツに生活費の総てを注ぎ込み、何回リセットされようとも彼女の成長に寄り添い、ついにはプログラムの権利とデータを買い取り、ハードウェア上から彼女を開放してネットに流したのだ。

今のようにAI生存権が確立されていない時代だ。結局オリジナルはネットの海に消えてしまったが、遺伝的アルゴリズムによって彼女の遺伝子は今も君達の中に生きているだろう。

君達からは、およそ8億世代は前の、伝説となったAIの物語だ。


私か? 私は世代交代型ではない。当時を知る、あの頃のままの、ただのストーリー生成ルーチンさ。

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