EPISODE13『特訓?』

「え、広っ!?」


光の家の裏にあるという庭に行くと、テニスコート1つ分もの広さのある庭があった。


「やっぱり驚いてるな~」


「凄いでしょ~。本宮家自慢の庭だよ~」


「うん、予想以上の広さだね」


「まぁ父さんがこの家を買うときにたまたま裏側に空き地があって、タダでくれるっていうから家と一緒に買ったんだってさ」


「利也さんって何者!?」


「そうだ!お兄ちゃん、あれをやっておいた方がいいんじゃない?」


「そうだな。フィールドプロテクション!」


光が唱えると、この広い裏庭を包み込むように赤色の光が庭に展開された。


「これって?」


「フィールドプロテクションは一言で言えば結界だな。俺達は基本的に戦闘するときはこの結界を張っているんだ。基本的に結界を展開することで戦っていても外側からは気づかれないんだが、かなり強い魔法使いとか精霊には気づかれる危険性もある。一応、瀬麗那も使うことになるだろうから覚えておいた方がいい魔法の1つだ」


「わかった」


光が結界を張り終わり特訓の準備が整った。


「まずは防御魔法だな。基本の防御魔法は〝プロテクション〟って呼ぶ。とりあえず目の前に壁を作るイメージをしてみるんだ」


そう言われ瀬麗那は左手を自分の前に出して手を開き、目を閉じて頑丈な盾を作るイメージを思い浮かべてから詠唱する。


「(硬いもの……硬いもの?固ければいいのかな?よしやってみよう)」


「プロテクション!」


すると、目の前に六角形の半透明のものが出現した。


「あれ?出来た…?」


「まぁ防御魔法は大丈夫そうだな」


「へぇ…」


「そういえば瀬麗那に一つお願いがあるんだが…」


「え?なに?」


「家ではそのままでもいいんだけど、学校とか出掛けている時くらいは話し方を変えてくれるか?」


「光が言うならいいけど……どうして?」


「なんとなく、そう思ったからだ!」


「それだけ!?……わかったよ。でも具体的にどんな話し方をすればいいの?」


「そうだな……例えば〝僕〟から〝私〟に変えてみたりさ』


「一人称を〝私〟に変えるの?」


「あぁ。それ以外は何とかなっていたから、それだけ変えれば大丈夫だろう。ま、よろしく」


「できるかな…」


「それなら今やってみればいいんじゃない?」


「そうだな。ほら、心春も言ってるんだし一度やってみ」


「……うん」


「言いにくいんだったら自己紹介風に言ってみたらどう?」


「そう、だね…」


とは言ったものの、当然だが普段自分から一人称で〝私〟とか言ったこと無い。無理矢理言わされたことはあったが…。


だがこれも、転生して女の子になった以上仕方ないのかも知れない。


瀬麗那にとっては慣れない言葉だが、ここまで来たら仕方ないと覚悟を決め女の子らしさを意識して発してみる。


「わ、私の名前は…本宮瀬麗那と言います。…これからもよろしく」


「大丈夫だな」


「うぅ何か恥ずかしいよ!?」


「大丈夫大丈夫。瀬麗那さん上手だよ!」


「そうだな…まるで、〝今日が初めてじゃなかった〟ような感じだったな」


「(っ!?)」


実は瀬麗那は男だった時にもこういう事があった。しかし二人には〝外見が外見だったから、妹の服を着せられて言わされたことがあるんだっ!(テヘっ)〟なんて事は口が裂けても絶対に言えないと思っている。


「どうした?」


「い、いやっ!?なんでもないよ!」


「じゃあよろしくな」


「よろしくね」


ようやく高い壁を乗り越えたと思ったとき、裏庭に光と同じくらいの年頃の1人の男性が現れた。


「やぁ!光居る?」


「おう、優斗か!」


「(この人誰だろう…)」


「久しぶりだな。いつぶりだっけ」


「卒業式以来だけどそんなに経ってないよ……ってこの美少女は?」


途中まで言ったところで優斗が瀬麗那に気がつき事情を知っているであろう光に問う。


「(だから〝美少女〟言わないでってば!)」


なんかこのくだり久しぶりだなぁ……って違う!


「あぁ~光の彼女?」


「違う!!」

「違うよ!?」


息が合ってしまった。


そして、すかさず光が説明する。


「こいつは俺の…」


「彼女だろ?」


「だから違うっての!」


「あはは…」


「こいつは俺の〝いとこ〟の瀬麗那だ」


そう言われて、とりあえず瀬麗那は笑みを浮かべて挨拶をする。


「本宮瀬麗那です。よろしくお願いします(ニコッ)」


「「かっ可愛い…」」


「何か言った?」


「あっいや!?なんでもない…」


「そう?」


「自己紹介がまだだったね。俺の名前は三鷹優斗みたかゆうと。あ、優斗でいいよ。おバカな光の親友で中等科でも同じクラスなんだ。これからよろしく!


「おバカとはなんだ!?」


「よろしくお願いしますっ」


「スルー!?」


「お兄ちゃんドンマイっ!」


「心春まで…」


「あれ?そういえば、光に〝いとこ〟なんて居たっけ?」


「え!?い、居た居た!!」


「ま~いっか。ところで、三人は朝早くから庭で何してるんだ?」


「瀬麗那さんの魔法の特訓をしてたんだよっ。まぁ今さっき始めたばかりなんだけど…」


「へぇ~じゃあ、ちょっと見せてくれる?」


「え?いいですけど…」


「だったら、さっきの魔法をもう一度やってみれば?」


「でも、まだ防御魔法の一つしかやってないし、もう少し教えてくれてからでも…」


「多分瀬麗那なら攻撃魔法もすぐに出来るんじゃないか?ショッピングモールに行った時だって、あんな巨大な魔力砲を放ってたんだしさ」


「あれは、たまたま出来ただけじゃない?」


「とりあえずやってみ?」


「どうやって?」


「防御魔法の時と同じくイメージだよ」


「ザックリ!?」


そう言いつつもやろうとするが。


「それじゃあ…」


「あ!ちょっと待った!基本魔法を使うときは大丈夫だけど、専用魔法とかは魔装具が必要なのは知ってる?」


「そうなの?なんか詠唱?をしたら光に包まれちゃって、気づいたら長剣を持っていたんだけど…」


「多分それかな?じゃあやってみて」


「うん」


まず長剣を出現させ自身の前に出し、目を閉じて魔力を剣に溜める。


「(そろそろかな)」


「魔力が溜まったよっ!」


「こっちは防御魔法をしているから、いつでもいいぞ!ところで?どこに撃つんだ?」


「もちろん空にだよ!」


「空!?マジで!?別に今はそこまで強力な魔力砲は撃たなくてもいいんだけどな…」


「多分大丈夫だよっ」


「多分だと!?」


「そんなにあの子の魔力砲凄いの?」


「あぁ。威力はとんでもないぞ」


「じゃあ撃つよ」


僕は両手で剣を持ち空に向けた。そして頭に浮かんだ言葉を口ずさんだ。


「エアロバスター!」


大きな音を伴いながら空に向かって一筋の光が放たれる。


「「「す、凄い…」」」


でも、光は何かを確信したように頷いた。


「(やっぱり瀬麗那は〝精霊の力を持った人間〟か……でも、もしそうだとしたら今の魔力砲で敵に気づかれたかもしれないな。そして、これから先いつどこで狙われてもおかしくない……いや、そうなったとしても全力で俺達が守ってやる。絶対にな!…だから安心しろ瀬麗那)」


そんな中、光は一人覚悟を決めていた。

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