EPISODE4『転生、そして新たな生活』
とある町の、とある部屋で目覚ましの音が鳴り響いていた。
〝ピピッ、ピピッ、ピピッ、ピピッ〟
「んん……」
何か鳴っているなとは思ったが、なんとも言えない気持ちいい布団に包まれていて、もう少し寝ていたい瀬麗那は無視することにした。
〝ピピピピッ!ピピピピッ!ピピピピッ!〟
「(………)」
しかし、瀬麗那のそんな思いをよそに目覚ましの音は徐々に大きくなっていき間隔を縮めていく。
〝ピピピピピピピピピッ!!〟
「(なんか、前にもこんなことがあったような気がするんだけど…)」
いつまで経っても目覚ましが鳴りつづいていてうるさかったので仕方なく止めようと手を伸ばした。しかし、伸ばした手は目覚ましのボタンに届くことは無かった。いつもは届いていたのに何故か今回ばかりは何度試しても届かない。
「(仕方ない……)」
そう思いながら、僕は今度こそ確実に目覚ましを止める為に身体を起こして目覚ましを止める。
「(…あれ?…この部屋って…)」
周りを見てみると、いま自分がいる部屋に見覚えがあった。部屋の構造から家具の配置までそっくりそのままだからだ。
「(もしかして……僕の部屋!?)」
再び瀬麗那が目を覚ました場所は、なんと自分の部屋にそっくりな場所だった。
「(いや、でも僕は女神の力で転生したはず…)」
そう、瀬麗那は心春と父と買い物に行った帰り道に交差点でトラックに轢かれ、気づいたら白い世界というと空間で女神に出会い、そして女神の力で魔法がある異世界〝アース〟に転生したはずだった。しかし現在は自分の部屋に居る。
「(ということは、もう僕はアースに転生したのかな……あまり実感がわかないけど)」
あまりにも自分の部屋と変わらない為まだ実感が湧かないが、何か変わった事はあるのだろうか。
とりあえずベッドから降りようとして、瀬麗那は自分の左側に誰かが寝ているのに気がつく。
「(この人誰だろう。いや、それよりもなんで僕の部屋で寝ているのかな…。僕は一人で寝たはずなんだけど…)」
そう言いつつも、とりあえず隣にいる少年に視線を向けてみる。瀬麗那とは対照的に短く切られている赤色の髪だがどこか瀬麗那に似ていた。
「(って、よく見たら少し僕に似てる…)」
いままで他人目線で自分を見たことが無かったのでこれはこれで新鮮だなと思っていた。
「(でも、なんで僕に似ている人がもう一人いるの?)」
今現在、瀬麗那が非常に気になっているのが何故自分はここにいるのにもう一人自分に似た人物がいるのかだ。
「なんかうるさいな…」
瀬麗那が必死に状況把握をしていると漸く少年が起きたようで何かに気がつき瀬麗那の方に視線を向けた。すると少年も驚いた表情で見てくる。
「君……だれ!?」
「ぼ、僕は本宮瀬麗那もとみやせれなだけど……君は?」
見た目は所々瀬麗那に似ているが男らしい人物だ。一体この少年は誰なのだろうか?
「偶然だな、俺は本宮光もとみやひかる……じゃなくて!なんで俺のベッドで寝てるんだ!?だいたいどうやって家の中に入ってきた!?」
「えっ?だってここは僕の部屋だよね?」
さすがに自分と同じ名前ではないことに安堵するが、まだ自分の部屋だと思い言い返す。
「何言ってるんだ?ここは俺の部屋なんだけどな?」
「えっどういうこと!?」
「「どういうこと?」って、それはこっちが聞きたいくらいだぞ?大体、俺の部屋に〝女の子〟なんか入れたこと無いのにさ……」
少年が言い放った〝女の子〟という言葉に瀬麗那は真っ先に反応した。
「女の子って…誰が?」
「君が」
「えっ?」
その言葉の意味を理解していくと徐々に不安になってきたので目の前にいる光に確かめてもらうことにした。
「僕、男だよね…?」
確かに、いままでも髪型や女顔のせいか女の子と間違えられていたが瀬麗那本人は周りから女の子よりも女の子らしいという思われていたことは気にしていなかったし、知らずに歩くだけで周囲の男女を魅了していることにも自覚がない。それ故に自分はれっきとした男だと主張するのだが目の前にいる光によると瀬麗那はどこからどう見ても女の子だと言っている。
「何言ってるんだよ。君はどこからどう考えても女の子じゃんか。可愛くて美少女だし、それに声だって甲高い。どんなに間違っても男には見えないぞ?」
光に指摘されるまで気づかなかったが、言われてみれば自分の声が今までよりも高いことに気づく。
「またまた~何の御冗談を」
しかし瀬麗那は男としてのプライドが少なからず残っているためまだ現実を否定している。
「いやいや、冗談なんかじゃないって。そんなに疑うならそこの鏡で見てみろよ」
「う、うん…」
瀬麗那は恐る恐る近くにあった鏡の前に立ってみた絶句した。
「うそ……だよね?」
「そんな可愛い声で言われてもな……」
そこに映っていたものを説明すると、白い肌に加えて腰辺りまでかかった綺麗なプラチナブロンドの髪に赤いくりっとした瞳。殆ど目立っていなかったとはいえ男にしかない喉仏は跡形もなく無くなり、折れてしまうのではないかと思うほどの細い首。
それに体格も頼りのないものになって165センチはあった身長も見た感じだと155センチくらいまで縮んでいる。また身体全体は丸みを帯びており目線を胸元に向けるとそこには、大きくはないが小さくもなく丁度良いと思える大きさの女の子にしか無いはずの二つの膨らみがある。
つまり先程から発している自分のこの高い声は風邪などではなく〝女の子の身体〟になった証拠だった。
「えっ……えぇぇぇぇぇ!?」
どう考えても女の子になってしまった瀬麗那はあまりに変わってしまった自分を見て叫ばずにはいられなかった。
「っ!?急に大きな声出すなよ!」
「だ、だって、いきなり、お、おお女の子になって!!ど、どうしよう!?」
昨日まで男子中学生だったのに転生していきなり女の子になってしまって混乱している瀬麗那に対して目の前にいる光は落ち着いた態度で落ち着かせようとする。
「なんか状況がよく分かんないけど……とりあえず落ち着けって!」
その時、2階でバタバタしている音に気づいて1階から段々こちらに向かってくる足音が聞こえてきた。
「どうしたの~お兄ちゃん?」
「もしかして、この声って…」
「知っているのか?」
「あ、いや……なんでもないっ」
「居るなら返事してよ~」
この声は心春だ……毎日のように聞いてきた妹の声を聞き間違えるわけない。
「ヤバイな、心春だ…」
「どうするの!?この状況かなりまずいと思うんだけど!?」
「いや、お前よりも俺の方がまずいだろ!?性別的に考えてさ!」
「あ、ほんとだ…。確かに10代の男女が同じ部屋で二人きりっていう状況は色々と誤解を招く可能性が…」
「だろ!?今の状況を心春に見られたら、あいつのことだから完全に誤解される!」
「うん…それはかなり危険だね…」
心春がどんな性格の人物なのか熟知している瀬麗那だから理解できることだった。
そんな事を言ってるあいだにも徐々に心春が近づいてくる。
「あ、そうだ!話を作っちゃうのはどう?」
そこで瀬麗那は1つ思いついた事を光に提案する。
「その話、誰が作るんだよ…」
「君が作るしか…。他人同然の女の子と実の兄ならどっちの言い訳の方が説得力があるかなんてことは明白だし…」
「くッ!確かに…」
光は困り顔だがこれしか方法がなかった。
「でもこんな短時間で考えられるわけが…」
「じゃあ悪いけど、もう来ちゃうみたいだからよろしくねっ」
「って、全部俺に丸投げかよ…」
「お兄ちゃん、入るよ~?」
「ま、待て!」
ガチャガチャ
「あ~れ~?鍵を締めているって事は、もしかして変なことでもしてるんじゃないの~?」
「だから待てって言ってるだろ!!」
制止するよう促すが、ドア越しの心春が次にとった行動は今まで体験したことがない瀬麗那にとって想像の斜め上をいくものだった。
「詠唱……我、本宮心春の名の下に無の力を!」
呪文のようなフレーズを口にし始める。
「詠唱!?いや、ここで魔法は本気でヤバイから待て!」
「(魔法!?)」
しかし光の言葉は届かなかった。一方、光の隣で立っていた瀬麗那は転生後初めて聞く〝魔法〟という単語にさらに転生したんだと実感が湧いてくる。
「クリアランサー!!」
ドーンッ!
「え?」
一瞬の出来事で理解が追い付けていないが、心春の魔法らしきもので扉が破壊されてしまった。そして心春が入ってきた直後、三人の目線が合うとその場で三人とも固ってしまった。
「あ…」
「「……」」
暫しの沈黙のあと、最初に口を開いたのは心春だった。
「一体これはどういうことなの、お・に・い・ちゃん?」
心春のニコニコと笑顔で問い詰めているようだが睨み付けるようにも見えた。
「いや、違うんだ心春!これには、深~いわけがあってだな!?決して心春が思っているようなことじゃないんだっ!」
光はなんとか心春の誤解を解こうとするが勘違いしやすい心春は聞くはずもなく、なってはほしくない状況になりつつあった。
「お父さ~ん!お兄ちゃんが自分の部屋に女の子を連れ込んでる~~!」
「だから違うって言ってるだろぉぉぉぉぉッ!!」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
所変わって本宮家のリビング。
「光さん、これは一体どういう事なのですか?」
今の状況は、心春は驚きつつも何故かこの状況を楽しんでいて、光と心春の父である利也は瀬麗那の隣にいる〝光〟に状況説明を求めており、光に対する取り調べが始まっていた。
「いや…これは…その」
「どうせお兄ちゃんのことだから隣にいる可愛い美少女さんを自分の部屋に連れ込んでイケナイ事をしようとしてたんでしょ?」
「んなわけあるかっ!」
「そうなんですか光さん?」
「いや、父さんも信じるなって。だいたい俺が女の子にそんなことするわけないだろ…」
「どうだかねぇ~」
「心春、お前まだ疑ってるのか」
光は何度も誤解を解こうとするが心春は光への疑いの目を止めなかった。
「じゃあ何をしようとしてたの?」
「なにもしようとしてなんかいない!」
光はそのまま話を続ける。
「散歩していたら、たまたま道に迷っていたコイツを見かけて、それで話を聞いたら名前以外はほとんど覚えていないみたいだから仕方なく俺の部屋で保護しただけだ」
「ふ~ん?」
「まだ不満か?」
「別に~?」
「(へぇ~。光はさっき短時間で考えられるわけ無いって言ってたけど、ここまで考えられるなんてちょっと凄いかも)」
それでもまだ、心春が少し不満そうにしていた事については置いておく。
そんな光と心春の言い合いをよそに、利也は瀬麗那に名前を訊ねてきた。
「ところで、お嬢さんのお名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「あ、はいっ、本宮瀬麗那と言います」
「本宮?」
「はい」
「苗字が私達と同じだねっ!じゃあ私も聞いちゃおっかな~♪」
「(なんかやけに楽しそうな心春)」
「えっとね~誕生日はいつ??」
「なぜ今それを聞いた!?」
心春の外れた質問に光がつっこむ。心春はただ楽しんでいるだけなのだろうか。
「今年の3月に15歳になりました。それで4月から高校生になります」
「っていうことは…お兄ちゃんと同い年だね♪お兄ちゃんも3月3日に15歳になったばかりだから♪」
「偶然だね、僕も誕生日が3月3日なんだ」
「おぉなんと!」
「偶然だろ?」
「そうかな~偶然じゃないかもよ~?だって名字同じだし、同い年だし、息合っているし、もしかしたらお兄ちゃんと瀬麗那さんは運命の赤い糸で結ばれていたりして♪」
「いやっそれはない!」
「いやっそれはないよ!?」
「二人とも声揃ってる…」
「「…っ!?」」
「でもいいな~女子高生かぁ~私も早く高校生になりたいな~」
「いや、まだ俺達も高校の入学式迎えていないんだけどな?」
「でもお兄ちゃん達はあと数日で入学式なんだよ?それに比べて私はまだだもん」
「心春だってあと1、2年経てば高校生になるんだからさ」
「それはそうだけど~。あ~待ち遠しいなぁ~」
「(あっそうか女の子と言うことは、女子高生…つまり僕は女子用の制服を着ることになる。ちょっと恥ずかしいけど女の子になっちゃった以上仕方ないのかな…)」
「でも瀬麗那さんなら学園内に居るだけで話題になっちゃうねっ!」
「そうなの?」
「だって瀬麗那さんは可愛いし美少女だし学園内の男子は放っておかないんじゃないかな~」
心春は嬉しそうにしているが瀬麗那としては普通に過ごすつもりでいる。
「それよりこいつの今後を話し合わないとだろ。色々話し合わなくちゃいけないだろうしコイツの立場とかさ」
そうだった。今は瀬麗那の今後の事を話し合わないといけないのだがどうするのだろうか。
「それなら、私とお兄ちゃんの〝いとこ〟っていうことで良いんじゃない?」
「え?」
「それだっ!たまには良いこと言うじゃんか!」
「たまにってひどいよお兄ちゃん…いつも言ってるのに…」
「いや、いつもは言ってないな」
「えぇ~!?」
「そうですね。光さんの提案どおり身寄りが無いのでしたら〝いとこ〟ということで私達と一緒に住むと良いのではないでしょうか?」
「いいんですか?」
「もちろんですよ。それに、こんなに可愛らしい女の子を外に放っておくわけにはいきませんしね」
「やった~!!」
「ありがとうございます!」
「ありがとう父さん」
「いえいえ、礼を言われるほどのことはしていませんよ」
まずは外で暮らすという最悪の展開は免れた。
「改めまして、光と心春の父の利也と申します」
「私は妹の心春だよ♪よろしくね!」
「俺のことは知っていると思うけど、心春の兄の光だ。これからよろしくな」
「よろしく!」
そう言って瀬麗那は三人に微笑んで応える。
「(心春、父さん、僕は新しい世界に転生して色々な事があるかもしれないけど頑張って生きることに決めたよ。だから……だから二人も頑張って!)」
こうして異世界〝アース〟に転生した瀬麗那の新たな人生が始まった。
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