衝撃! 驚異のダンジョン社会!!

蒼北 裕

第1話 春の洗礼

 ダンジョン。

 それはロマンである。古代の遺跡、樹海の奥に存在する洞穴、地獄への門、魔物の住処。人々は進む。奥深くへと。そこで彼らは何を見つけるのか。名声、富、真実、知識、力、出会い。

 様々な思いが交差しては捻じれ合うその地下迷宮で、今日もまた己の夢を叶えようと邁進する者たちがいた。

 冒険者と呼ばれる彼らは己の力を磨き、やがてダンジョンの最奥にある“何か”を手に入れようと挑み続ける。

 


 ***



 多くの人々が行き交う市場には商人や町人だけでなく、衛兵や旅人、さらには冒険者たちといった様々な人種が歩いていた。眩いまでに光を放つ太陽の元、暖かな陽気に当てられてからか。まだ身に着けて間も無いのだろうピカピカと輝く新調したての鎧を身に着けた青年は言う。


「今日は絶好の探索日和だ!まだ俺たちは訓練生を卒業したばかりだが、いつかきっと最奥にたどり着く。それまでコツコツとやっていこうぜ!!」


 青年は爽やかな笑みを浮かべると右手を高く上げた。連れていた仲間たちも探索への熱意にいくらかの差はあれど、皆一様にこれから起こる色々なことに期待してか、その目は太陽のように光輝いていた。すると、メンバーの1人である少女は驚いたように道行く先を指差した。


「あ・・・あれって!もしかして、ブルーパイソンじゃないですか!?」


 少女が指差した先には、青を基調とした鎧や装束に身を包んだ数名の男女が歩いていた。各々の肩やマント、背中には蛇のマークが書かれており、彼らの姿を見た多くの人が自然と道を譲っていた。そんな歴戦の戦士の風格を漂わせる先人たちの姿を見て、青年たちの探索への期待は高まっていった。自分たちもいつかあのように、人から憧れられるような冒険者になりたい、そう考えていた。

 やがて、彼らは人混みの多い市場を抜け街と外を隔てる高い門の前に到着した。そこでは、他の冒険者たちが門の左右端にある小屋で衛兵と何やら話をしている。そしてその小屋の前には長い列が出来ていた。冒険者たちは街から外に出る前に、場所と目的を申請しなくてはならない。これは冒険している最中にギルドからの支援を受けるために必ず必要なことであった。申請をしておかなければ最悪、死んだ場合でも助け出すことが出来なくなる場合があり、別途手数料がかかってしまう。青年たちは左側の受付の列へと並んだ。左側の受付には「マクダの村からドッコー山まで」と書かれており、一方の右側には「サザミ街から王都まで」と書かれていた。これらはこの街、ヤクラ街から比較的近いところは左側、右側は遠いところまでといったように分けているのだ。

 しばらくして、青年たちの番が回ってきた。椅子に座っていた少し眠たげな中年の衛兵が一枚の羊皮紙と羽根ペンを青年の前に置いた。


「行先と、目的をここに書いて」

「はい」青年はメンバー全員の名前を、他の冒険者同様紙に書いていく。すると、青年の鎧を見てか、中年衛兵は少しにやりとして言った。


「この季節は坊主見てぇのがわんさといる。大方、絵本とか、そこの異名付きの連中に憧れてんだろう」中年衛兵は向かいにある小屋の前に居る青い鎧の集団、ブルーパイソンを指した。

 

「あぁ、それが何か問題でも?」

「いやいや、別に坊主どもをけなしてなんかないさ。ただなぁ、一人前ってのは冒険に出てから帰ってこれて初めて一端の冒険者なんだ。だからよ、またここに戻ってきて顔を見せてくれりゃ、俺もうまい酒が飲めるってもんさ」

「おしゃべりなおじさんだな。アンタ」青年を前に、中年衛兵は「ヘッヘッヘ」と笑った。するとどこか遠くを見るように門へと目を向けた。


「俺に出来るのはこんくらいさぁ、門の外でわざわざ危険な目に会いに行く。わからねぇなぁ、でもよ。坊主どもは止まらないんだろう?だからよぉ、無事を祈るってことくらいしか酔いどれには出来ねぇんだ」

「だったら、待っててくれよ。美味い酒でも用意して」青年はそういうっとニッと笑い門をくぐった。


 中年衛兵はその青年の後ろ姿を目で追っていた。そうして深いため息をつくと誰かに言うのでもなく、ただ。



「アイツはいつかきっとデカくなる。そんな気がするぜ」と、こぼした。

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