復活の悪役令嬢
花嫁令嬢とはなんなのか。その謎が今、明らかになる。
「令嬢であるからには、望まぬ婚約、婚約破棄、断罪やざまぁからの令嬢ファイト。これらはお約束ですわ。正義令嬢であろうが、悪役令嬢であろうが、それが物語であろうが存在し、令嬢の生き様にかかわるもの」
令嬢の歴史は古い。婚約破棄・ざまぁ・断罪や追放を避けるために行動するもの、人格が変わるものから別世界からの召喚者など多種多様である。
数多の令嬢が誕生し、沢山の男性に囲まれながら楽しく暮らすものや、乙女ゲームのなかで運命に抗ったり、クリアを目指したり、特殊能力に目覚めたりするのだ。
「そしてなにかあれば令嬢ファイトで決着をつける。それが令嬢の掟であり証ですわ」
「ええ、それは私も存じております。それが令嬢であり、令嬢ものの最もメジャーな展開ですわ」
「しかし、ごくまれに大恋愛の末、意中の殿方と恋愛結婚をし、妨害もされずに結婚式を迎える令嬢も存在いたします」
その幸せに満ちた世界で、花嫁衣裳を身に纏うことができた令嬢は、愛という名の無限の力を手に入れることができる。
その力は正義・悪役関係なく、全てを超えた伝説の存在であるという。
「セバスチャンに聞いたことがありますわ。おとぎ話だとばかり……」
「ワタシも実在しているのを見たのは二度目ですわ。封印される前のこと、究極の力を求めたワタシは、実際に花嫁になるために、当時最高峰の王子様を手に入れようとした。しかし! 選びに選び抜いた最高の王子は! もう貴女の先祖が手に入れていた!」
そして結婚式の最中、王子から送られたドレスが輝きを放ち、マリアベルの祖先は花嫁令嬢として覚醒した。
「最高の王子を奪われたことで、ワタシの計画は潰れた。それからは独自に花嫁令嬢か、それと同等の力を求め続けた。ですがとうとうその力を得ることができなかった。どれだけの勝利を積み重ねても、どれほどレッスンに打ち込もうとも、お稽古事を増やそうとも、礼儀作法から容姿を磨くことにいたるまで、完璧だったのに。誰よりも強くなったのに!!」
スピカの時代では、誰も彼女に勝てなかった。令嬢ファイトはもちろんのこと。礼儀作法も料理も茶道もダンスも、あらゆる才に恵まれていた。
だが、花嫁令嬢になることができず、それが彼女を狂わせた。
「花嫁令嬢になどなれなくとも、最強になることはできると証明するため、強者を求め、片っ端から宇宙を渡り歩き、星を滅ぼし、銀河をこの手にすることで花嫁令嬢を超えたかった」
「そして悪行の数々が知れ渡り、令嬢達の手で最果ての銀河へ封印された……」
「ええ、花嫁令嬢とて一人では封印などできなかった! 最高の王子を手に入れておきながら、幸せに溺れ、衰えた花嫁令嬢を見た時は悲しかった。何故ワタシは有り余る才能を持ちながら、あの王子を手に入れられなかったのか!」
怒りをあらわにするスピカからは、令嬢の優雅さは消えていた。
彼女の胸にあるのはただ憎しみのみ。
「花嫁令嬢になるため、その王子様でなければならない理由がありまして?」
「最強のワタシに相応しいのは最高の王子のみ! 有象無象など眼中に無しですわ!」
マリアベルは、何故スピカが花嫁令嬢になれなかったのか、おぼろげに理解した。
「貴女が何故その姿になれているのか、やはり王子か、それともあの女の血がそうさせるのか」
「私がどうしてこの姿になれているのかはわかりません。それでも、貴女がなれなかった理由はわかります」
「なんですって?」
「悪逆令嬢スピカ。あなたは力を求めるあまり愛を育み、他者を思いやる事ができなかったのですわ。ドレスに負けない清らかな心。令嬢魂が濁っていては、花嫁衣装の引き立て役になってしまう」
自分以外を認めず、力だけを求めた結果であった。
愛を知らず、ただ強さを求めるスピカは、花嫁令嬢とは別の方向へ成長したのである。
「愛? 愛があろうがワタシに勝てる令嬢などいなかった! 愛は令嬢を堕落させる! 故に強者に愛など不要! 貴女こそ、婚約すらしていない。愛などわからぬくせに!」
「確かに私もまだ愛も恋も知らぬ身。でも、それでも大切な人達がいる。この胸に友情と正義がある限り、この世界を壊させはしない!」
「諦めなさいな、マリアベル。当時の令嬢ですら封印するしかなかったワタシを……半人前の貴女がどうこうできるはずがなくってよ」
スピカの縦ロールが細く長いものへと変わる。
十本のロールは音速を超えてマリアベルの体に巻きつき、自由を奪う。
「うっ……くぅ……ほどけない……私の令嬢パワーを遥かに上回っている……ご先祖様が封印するしかなかったというのも納得ですわ。これは……少々厳しいですわね……」
一度に令嬢パワーを使いすぎたためか、ウェディングドレスから普通のドレスに戻ってしまう。
必死の抵抗もむなしく、絡みつく縦ロールはほどけない。
「ドレスに傷をつけたその力を認め、ひと思いに首を絞めて殺すといたしましょう」
絶体絶命のマリアベル。その命が散ろうとしているその瞬間であった。
突然リングに真っ赤なバラの花が舞う。その花びらは意思を持っているかのように縦ロールを切断していく。
「これは……なんですの? ワタシのリングを令嬢の血以外で染めるなど、認めませんわよ!!」
「スピカの力ではない? いったい……誰が……?」
正体不明のバラに、その場の全員が困惑していた。
舞い散る花びらは、入場口からリングまで、まるで真紅の絨毯のように文字通り花道を作り出す。
「やれやれ……なんてザマですのマリアベル。わたくしに勝ったくせに、簡単に負けるなど許しませんわよ」
「どちら様ですの? 正義令嬢の処刑を邪魔するなど、ただではおきませんわよ?」
優雅に、淑やかに、見るものを魅了する、誰もが息を呑むその姿は令嬢の鑑。
艶やかな黒髪をなびかせ、黒のドレスの胸に一輪の赤いバラ。
「マリアベルを倒すのはわたくし、悪役令嬢ローズマリーただ一人ですわ!!」
マリアベル宿命のライバル。悪役令嬢ローズマリーの姿がそこにあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます