やさしいジャガー

じょうんず

第1話

 木陰で少し眠ったら、河を渡って向こう岸で昨日隠したジャパリまんを食べよう。そんな事を考えながらウトウトしていると……

 バシャバシャバシャ! いきなり激しく水を叩く音が聞こえた。

「うわっ! なんだ?」

 飛び起きて、水辺へ走る。見ると顔なじみのベンガルトラが、河に流されていた。

「うわっぷ! ちょっ! ジャガー助けてぇ!」

「待ってて今行くから!」

 私は河に飛び込み、流れに沿う形でベンガルトラめがけて泳ぎ出す。力強く一気に水をかき分けて、ベンガルトラにすぐ追いついた。

「ちょっと暴れないで! もう大丈夫だから」

「うそ~! しぬ~! 水飲んだぁ」

 うるさいベンガルトラを抱えながら、とにかく岸へと急いだ。


「う~死ぬかと思ったぁ」

「一体どうしのさ? あんたも泳げるんでしょ?」

「げほっ……まぁね。向こう岸でやってるインドゾウのダンスレッスンへ行く所だったの。でもこのぽかぽか陽気でしょ? 急に眠くなって……」

「はぁ? 泳ぎながら寝たの!」

「ち……違うわよっ! ちょっと目を閉じていびきかいてただけだからねっ!」

「いやそれ、寝てるって言うんじゃ……」

「じゃあ今日はもう、わたしは帰って寝るわ。助けてくれって言った訳じゃ無いけど、まぁ……その……ありがと」

「思いっきり助けてって言ってたよね?」

 私の言葉が聞こえたのか、顔を真っ赤にしたベンガルトラは密林へ走って行った。


 私はまた川辺に横たわりながら、ぼんやりと考え事をした。

「泳ぎが苦手な子もいるんだよねぇ。泳げても、溺れる子もいるけど……やっぱ河を渡れないと困るよねぇ」

 そんな事を考えていると、今度は大きな笑い声が聞こえてきた。

「きゃはははは! たーのしーい!」

 声の方をみると、小さなコツメカワウソが、平たい木の上を滑っていた。

 そう言えば、あの平たい木は何だろう? 見れば川辺の土の上にも、大きいのがささっている。

「おーい、カワウソ。その平たい木はなんだい?」

「しらなーい。昔からここにあったよ?」

 木は普通丸い棒が上に伸びてて、その先には葉っぱがある。なのにカワウソが滑っていた木は平らだ。「私にはわかんないけど、博士達に聞いてみたら?」


「それは橋と言うものなのです」

 アフリカオオコノハズクの博士は、簡単に言った。隣にはワシミミズクの助手も居る。

「正確には橋がバラバラになった姿なのです」

「じゃあさ、橋ってのが木なの?」

「お前が持って来たジャパリまんでは、ここまでの情報しか渡せないのです。さぁ、もっとジャパリまんを差し出すのです」

「えー、もう持って無いよ」

「ではお前は違う方法で我々を満足させられるのですか?」

「わかった……わかったって。でもさ、もう一つだけ聞いていい? 出来るだけ沢山の子を連れて、河を渡る方法無いかな?」

「そんな事聞いてどうするのです?」

「いや、泳ぐのが苦手な子達を、どうやって向こう岸へ渡してあげようかなって……」

 博士と助手は顔を見合わせ、不思議そうな顔をした。

「それでお前に何の得があるのです? お礼にジャパリまんでも貰うのですか?」

「お礼なんて取らないよ。だってほら、困ってる子は助けたくなるでしょ?」

「聞きましたか助手。こいつは奉仕をする様です」

「ええ博士、奉仕です」

「え? ほうし? 何?」

 ハカセ達が言ってる事が判らずキョトンとしている私。でも博士は私を見ながら、こう言った。

「気に入りました。ヒントを教えましょう。橋が木で出来ているなら水に浮きます。あとは自分で考えるのです」


「あ、ジャガーおかえり~! 何かわかった?」

「いやまぁ……その平たい木が橋だったって言うのはわかったよ。んでさ、木は水に浮くんだって」

「ふーん、何それ? へんなの~。でもさ、ジャガーの横にある大きなのなら、上に沢山乗りそうだよね」

「平たい木の上に? そうか!」

 カワウソの言葉で気がついた。そうだ、木は水に浮く。この平たいのを浮かべて、その上に乗せれば……

 私は土に刺さっている大きな平たい木の根元を、何度も前足で叩いた。前足のパンチ力に負けて平たい木が倒れ、河の水面に落ちる。

「うわ! すごーい! 面白そう! ねぇ乗っていい?」

 返事も聞かず、カワウソが平たい木の上に飛び乗った。カワウソが乗った位では、木はほとんど沈まない。河の流れに乗って、平たい木がゆっくりと動き出した。

「うわぁい! 動いたぞ!」

 木の上で小躍りするカワウソ。私は木から飛び出した棒に前足をかけ、平たい木を引く様に泳ぐ。これならいける! 沢山の子達を、この上に乗せて泳げる!


 それから私は、日に何回かこの木に泳げない子を乗せて、河を渡る様になった。今日乗ってるのは、ベンガルトラだ。

「あー楽だわぁ。ちょっとぉ、しっかり泳いで、わたしを向こう岸へ連れていってよね」

「いや、だからあんた泳げるじゃん……」

「まぁまぁそう言わないで、やさしいジャガーちゃん」

「トラはこう言うときだけ調子いいよね?」

 まぁこれで誰かの役にたってるならいいか……今度はブラックジャガー姉さんにも乗ってもらいたいな。

 夕暮れに赤く染まる河を泳ぎながら、明日はまた、どんな子に会えるだろうと思うと、私は少し楽しくなった。

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やさしいジャガー じょうんず @hideki04

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