634 広い世界を、ブランカたちの性格、合同で




 アルゲオの言葉ではないが、昔は擦れていたレオンが随分と丸くなった。

「度胸がついたならいいよ。レオンは落ち着いて見えるから多少の失敗があっても誤魔化せるしね」

「それ、教師にも言われた。見た目が良いと得らしい。当時は『顔を褒められても』と反発していたが、今はこれも俺の個性だと思ってる。スキルのようなもんだな」

 本当に逞しい。使えるものは使うという態度も冒険者らしく、シウは仲間の成長を誇らしく思った。

「ああ、雑談が過ぎたな。とりあえず貴族も一緒だ。冒険者の方は?」

「一緒に行動したいと言ってるね。ロトスが取りまとめてくれた。女性一人と若い子がステップでもいいから乗りたいようだよ」

「歩きは疲れるもんな。角牛を連れ帰るつもりだったら、ロープで板を引かせりゃ乗れただろうし」

 レオンが言う。

「俺たちは騎獣がいるから恵まれてる。駆け出しの頃の大変さを思い出したよ。今回の件は俺にとっても勉強になった」

「そう。良かった」

「シウには感謝してる。そりゃ、毎度驚かされるけどさ。それも含めて、俺に広い世界を見せてくれてありがとうな」

 言うだけ言うと、レオンはさっさとスヴェルダたちの乗る馬車に向かった。これからのスケジュールを伝えるのだろう。

 シウはどんな顔をしていいのか分からず、ただ曖昧に笑って立ち尽くした。



 予想した通り、三つ目の森に着いた頃に日が暮れた。

 貴族組、冒険者組と分かれて夕食の準備を始める。

「助かるよ。温かい飯にはありつけないと思っていたんだ。夜の移動も俺たちには怖い。上級冒険者が一緒ってだけでも安心なのに、こうして援助まで……」

 彼等は自分たちのレベルを客観的に把握できている。それに「やってもらって当然」とも思っていない。夕食の準備を始めたシウを率先して手伝おうとするのだ。何をやればいいのか分からない若手もいたが、彼等を指示するのも年上の冒険者だった。魔獣避け薬玉を設置させたり、見回りを担当させたり。他のパーティーだろうが関係なく指導している。

 貴族の方にも気を配っていた。あえて行こうとはしないが、何か手伝いが必要なら駆け付けるつもりでいる。

 貴族側はレオンとアントレーネがついているし、アルゲオたちも冒険者として動いているため問題はない。

「ロトス、騎獣たちの様子はどう?」

「多少の疲れは見えるけど、今はちゃんと休めてるから大丈夫だろ。プリュムがいるからって張り切りすぎなんだよなぁ。フェレスがいないと途中でバテてたかも」

 アルゲオたちの連れてきた騎獣は聖獣の存在に浮き足立ち、本来の能力以上に無理をしていたようだ。これが何もない二日間なら良かったが、この日は急遽増えた冒険者たちもいて気力が続かなかった。幸い、ロトスが気付いて「適度に力を抜くよう」フェレスを使って注意した。

 フェレスの暢気な姿を見て、肩に力が入りすぎていたと気付けたのなら良かった。

「あ、スウェイは皆の休憩場所から離してる。あいつの場合は誰もいない方が休憩になるからなー」

「ありがと。ブランカも止めてくれてる?」

「フェレスが誘って森に入った。ちゃんと『親分』やってるよな」

 ブランカはスウェイにも懐いているし、もちろん嫌われてもいない。ただ、ブランカは生まれた時から大勢の中で暮らしていたが、スウェイはずっとひとりだった。年齢差もある。そのため、元気すぎるブランカが全力でぶつかり続けると、体力というよりは精神的に参るらしい。

 ブランカは基本的には優しい子だ。しかし、その優しさは自分の経験から生まれていた。スウェイがぽつんとひとり佇む様子が、彼女にとっては寂しそうに見えるのだろう。

 実際、寂しい時もあるかもしれない。誘われて嬉しい時もあるはずだ。ただ常にそうではない。この案配を読むのがブランカにはまだ難しかった。

 元人間のロトスや、天然ながら他者の気持ちを読めるフェレス、気遣いのクロがいるから上手く回っていた。

「ジルにも教えてあげてるみたいだよね」

「それな。ジルは真面目派だから、フェレスの言葉が時々分かんねぇみたいだけど。まあ、そういう時はクロの出番だ」

「エアストはどう?」

「あいつ、ブランカ寄りだからな。いや、待てよ。似てるとしたらプリュムか? ちょい天然入ってる気がする」

「フェレスじゃないんだ?」

「そこまでじゃないんだよなぁ。フェレスはもう天性の何かだよ。あいつ本当に要領がいいっていうか、何も考えずに結果を出すとこあるじゃん」

「あー、まあ、そうかも」

「エアストはもうちょっと真面目。【柴犬】っぽいよな」

「そういえば、最近はめっきり狼風になってきたよね」

「可愛かった顔がキリッとしてきたな。大型犬サイズだし」

(俺もフェンリルが良かったかなーと思うもん)

 念話で届き、シウも念話で返す。

(狐も格好良いよ?)

「へへっ」

「食事は皆と食べる?」

「そうする~」

 照れながら、ロトスは冒険者たちを呼んだ。シウの手元を見て、もう調理が終わりだと気付いたからだ。



 慌ただしく片付けて移動を始めるのも今更だということで、食後に休憩時間を設けた。

 アルゲオは貴族らとお茶を飲んでいる。

 片付けは冒険者の数人が代表して手伝った。レオンとアントレーネがいるからと、アルゲオたちは安心して任せた。おかげで従者や護衛騎士らも少し休める。

 冒険者側の方も残りの者らが率先して片付けた。その後に休憩する予定で、倒木を座れるように処理する冒険者もいる。

 シウは角牛をザッと解体して真空パックにする作業だ。

 夕食中に「明日にはもうルシエラを出る」と話し、どうするか皆に聞いたところ「出来れば少し融通してもらえると助かる」と返ってきた。

「もちろん、俺たちが狩ったら、その分を戻すつもりだ。あー、ルシエラにいないのなら業者に頼んでパックしておけば持つかな?」

「うーん、余分に狩れたら肉を買い取ってもらって、相当する金額で返してもらってもいいよ」

 タダで譲ってもいいのだが、ここにいる冒険者たちは受け取らないだろう。しっかり考えて角牛狩りに来ている。

 その代わり。

「ところで、皆は角牛の肉を食べたことはある?」

「いや、ないが」

「だったら、自分たちでも食べてみたらどうかな。こっちの小さいパックをあげるからさ」

「有り難い申し出だが、分けてもらうにしても多すぎるよ」

 と、各パーティーのリーダーが驚いて手を振る。

 捕まった「やらかし」冒険者たちとは全然違う。

「パーティー内で消費するんだから、これぐらい必要だと思うよ。家族の分まで賄うとなると足りないかな。もう少し入れておこうか」

「いやっ、それはいい。待ってくれ、もらいすぎだ!」

「そうだそうだ、これだけでも十分に家族と分け合える」

「だったら、もらって。余分に狩れたんだ。袖すり合うも多生の縁、ってね」

 強引に決めたシウに、リーダーたちは笑った。

「本当にありがとう。俺らみたいなパーティーじゃ、食べられない肉だ。いつかは家族にも食べさせてやりたいと思ってたから嬉しいよ」

 やる気にもなると、皆が笑顔になった。

 そして。

「実は俺たち、二日後にこのメンバー全員で狩りに行くことにしたんだ」

 合同で角牛を狩るらしい。

「こっちの若いパーティーが工夫してるのを見てさ、俺たちもやってみたいと思った。でも、伝手がない。工作も苦手だ。そこで他のパーティーとも相談したんだ。話すうちに各パーティーの足りない部分が見えてきてな」

 それを埋められる機会だと思ったらしい。合同でやれば大物も仕留められる。同時に足りない部分を学べるだろう。情報も交換できる。

 全員まとめて、たとえば大型クランになるかどうかは不明だ。まだ知り合ったばかりだし、動くには少人数の方がやりやすい。レベルもそれぞれ違う。しかし、こういう臨時で組む狩りは試す価値があった。

「いいね、それ。合同の狩りって勉強になるんだよ。大型魔獣の討伐依頼が出た時に、連携を取れるかどうかで生死を分けるからね」

「あ、そうか。俺たちもいずれは招集が掛かるよな。数年前にはシアーナ街道でスゲー大物狩りがあったらしいし」

 青年は、目の前にいるシウが当時の討伐参加者だとは知らなかったようだ。別のリーダーが肘で突いて止めようとするが、夢見る姿で先輩方から聞いた話を披露してくれた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る