532 シウの実力と今後、リグたちと合流




 アシュリーはすぐにシウの存在に慣れ、ジルヴァーを遊び相手に認定したようだ。クロは「鳥」だから遊べないと思っているらしい。眺めるだけで声は掛けない。

 クロは見守りが必要ないと思ってか、シウの膝に乗って寛ぎ始めた。たまに現れる「甘え」の時間だ。

 昼食後、エミナが柔らかい視線でシウや子供たちを眺めながら口を開いた。

「随分と賑やかになったわよねぇ」

「そうだね」

「パーティーメンバーも増えたんでしょ? ロトス君もだし、あとレオン君と――」

「レオンの相棒のエアストだね。そうだ、ククールスにもスウェイって名前の騎獣がいるよ」

「すごいわよね。それぞれに騎獣がいる冒険者パーティーなんて、それだけで上級者に思われるんじゃない? やっかまれそうだけど大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。それに、僕ら自体が上級者だから」

「えぇー、そうなの?」

「ククールスは三級だし、僕も四級だから。レーネもそろそろ四級に上がれるんじゃないかな」

「ええー!!」

 声を上げるエミナに驚き、テーブル横のサークル内にいたアシュリーが顔を上げる。ジルヴァーも一緒にテーブルの面々を見上げた。

「ママ~?」

「あ、ごめんごめん。ジルちゃんもビックリしたよね~」

「ぷ」

 スタン爺さんとドミトルは「いつものことだ」と呆れ顔でいる。

「えへへ」

「エミナは変わらないなあ」

「もう、シウまでそんなこと言うんだから。あ、そうだ。それより、四級でもう上級者ってことになるのね」

「ギルドではそういう扱いをされるね。ククールスもあと幾つか大きな依頼を受けたら二級に上がれる試験を受けられるだろうし、僕も似たような感じだから」

「うわぁ、すごい~。あたし、本当に冒険者に憧れてたのよ。だからすごく羨ましい!」

「知ってる。エミナに何度も聞かされたもん。冒険者の物語も読めって渡されたしね」

 そこで、ドミトルが「あ」と声を上げた。

「シウ、エミナがアシュリーに冒険物語を読み聞かせるんだ。まだ早いって止めているのに聞かないんだよ」

「えっ」

「魔獣が出てくるシーンで脅かすものだから、アシュリーが泣いてね」

「エミナや……」

「あ、お爺ちゃん、違うの。えっと、それはその」

 どうやらエミナは臨場感たっぷりに読み聞かせをして、魔獣が吠える真似までやってみせたようだ。さっきの大声でもビックリしていたのに、普段はしない声を聞かせたとなると怖かったろう。シウも半眼になった。

「エミナ?」

「だってぇ、わたしは小さい頃すごく楽しかったんだもん! お爺ちゃんだって読んでくれたよね?」

「お前さんがせがむでな。まあ、そうでも四歳か五歳の頃よ。ところが、エミナの父親や母親にとってはそれでも早いと言われてなぁ。あとで、そりゃぁ怒られたもんじゃ」

 衝撃の事実にエミナは肩を落とし「ごめんね、お爺ちゃん」としょんぼり顔で謝った。



 その日は離れ家に泊まり、夜までずっとスタン爺さんたちと過ごした。

 通信や手紙でも連絡を取り、たまにフラッとスタン爺さんには会っていたが、半日とはいえゆっくり過ごせたのはシウにとって良い時間となった。本物の「里帰り」気分に浸れる。

 しかも、翌朝に「また今度」と挨拶していたシウがもう帰るのだと知って、アシュリーが「やー、シーウ」と別れを惜しんでくれる。

 それだけ彼女の心にシウの存在が刻まれたということで、家族としては嬉しい。

 もっと頻繁に転移で戻ってきたい気もするが、まだ子供のアシュリーに「遊びに来てたことは黙っててね」とお願いしても分からないだろう。もう少しの我慢だ。

 少なくともシウが学校を卒業するまでは控える。

 学校を出てしまえば、そこまで厳重に警戒する必要もない。

 エミナにも話した通り、シウたちはすでに上級冒険者で各国を渡り歩けるだけの実力があった。

 上級冒険者の移動手段は様々だ。それについて誰かに問われることもない。冒険者だから自由に動き回れる。

 もし仮に空間魔法が使えると知られても、もうシウの立場は上級冒険者だ。成人もしていて、かつ後ろ盾にオスカリウス辺境伯がいる。常識のある者ならばシウにちょっかいを出そうとは思わないだろう。

 今はまだ在学中であることから勧誘される可能性が高い。そのため必要な単位を取るまでは隠しておいた方が「楽」というだけのこと。

 その単位もそろそろ取れそうだと分かっている。

 エミナには話していないが、スタン爺さんには「今年で卒業できそう」と伝えてある。ぬか喜びになるといけないのでエミナにはまだ内緒だ。卒業が決まったら真っ先に連絡するつもりでいる。

 シウは驚くエミナを想像しながら、朝早くに家を出た。




 まず、ジュエルランドにロトスとレオンを迎えに行った。そこで二人とフェレスにブランカ、エアストを連れて王都門の近くにある森へと《転移》する。

 他に誰もいないのを確認してのことだったが、待ち合わせていたリグドールにはすぐに気付かれてしまった。

「生き物の気配が急に現れるからビックリした」

 と言う。もちろんリグドールはシウが転移できると知っているから「急に現れた」と考えた。他の者ならばどうだろう。「隠れていた誰か」が突然現れた、という風に感じるのではないか。隠れている、つまり何らかの悪事に関わっていると勘違いされてもおかしくない。

 シウはこれまでも、転移の前に感覚転移で周辺に誰もいないのを確認し、更に転移先にある異物と干渉しないような魔法を組み込んで発動させている。自動化しているため違和感なく使用していたが、今後は更に「気配察知のできる上級者対策」を取り入れる必要があるようだ。

 今回はたまたま近くにリグドールがいると分かった上での転移だったが、今後も頻繁に使うのなら対策しなければならない。

 たとえば「気配だけを先に周辺にバラ撒く」といった対処だ。それなら森の奥から移動してきたように錯覚してもらえる。または王都内の路地裏に転移するのなら幻惑魔法を使ってもいい。周辺に同じ空間を転移してカモフラージュするのもどうだろうか。

 つい考え込んでいると、ロトスに背中を叩かれる。

「あっち、もう準備が終わるぞ。何、ボーッとしてんだよ」

「あ、ごめん」

「俺らの方も騎乗帯の準備は終わってるからな。つっても、シウが作ったのは十秒で付けられるから早いんだけど」

「十秒は言い過ぎだよ」

「いや、合ってるって。昨日、レーネたちと『騎乗帯、誰が一番早く装着できるか選手権』やったもん。あ、勝ったの俺ね。やっぱ、本家本元の意見が大事よ」

 よく分からない話を早口で告げると、ロトスはニヤリと笑った。レオンはこちらを見ているのに何も言わない。呆れているのだろうか。もしくは諦めているのかもしれない。

「で、その俺が言うんだけどさ。一秒の奴を作ってくれよ」

「一秒? どうやって……。あ、そうか、装備変更だ?」

「そうそう」

 ニヤニヤ笑うロトスに、シウはやられたと頭を押さえた。

「魔道具にしてしまえばいいんだ、あ~!」

「人間用で指輪型しかないのが、いかにも発想凝り固まってるなって思ってさ」

 言われてみると確かに、と膝を打つ。

「すごい、ロトス」

「ふっふーん」

「じゃあ、魔力を通すのも人間側でやっていいね。騎獣には『軽く魔力を流す』が苦手な子もいるから」

「おっ、売りますか」

「うん。特許も取るよ」

「それは後でいいだろ。リグたちが待ってる」

 たまりかねたレオンに止められ、シウとロトスは騒ぐのを止めた。

 クロが、そわそわとした様子で見ている。皆が待っているのにいいのかなと心配だったようだ。

 そんな中、フェレスとブランカは自由に飛び回っている。さすがマイペースな子たちだ。

 リグドールたちはといえばブーバルスに乗ったまま待ってくれていた。

 シウとロトスは急いで各自の騎獣に乗り込んだ。






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まほひきは230万字ありますし、まほゆかはどうだったっけ、たぶんすごいある…

さすがに一気読みはおすすめできません

あとWeb版は修正かけてないので読みづら(こら



それはともかく、家つくりが完結してホッとしてる現在ですが、来週から恒例のお盆進行に突入します

書きためはあるんだけど一切見直ししてないのです

せめて一回はやっときたいし、本当なら最低三回は見直さないとアウトなぐらいなのに!

というわけで出せるかどうか微妙なところです

もし投稿されてなくても「あー、いつものか」と思っていただけると幸いです

熱中症に気を付けて頑張りたいと思います

皆様もどうぞお体に気を付けて夏を乗り切ってください!



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