394 捕物騒ぎと結末と真相は
シウの心の内を聞いたレオンもまた、同じように感じてくれた。
それが嬉しかった。
「いざという時は、僕が責任を負う。だからレオンは知らなかったことにしてほしい」
「それはっ!」
「聞いて。それでいいんだ。何故なら、僕は『逃げる』ことができる」
分かるね? そう、強い視線で伝えた。
レオンは暫く黙り込んだものの、やがて頷いた。彼は頭が良い。シウの言いたいことが分かっている。
足かせにならないための措置だと、気付いてくれた。
「ロトスと『誓約』を交わしているのは僕だ。保護者としても相棒としても、責任を負う覚悟は出来てる」
レオンは真面目な顔で「分かった」と、了解してくれた。
こうしてシウがのんびり過ごしている間に、王都では大捕物があった。
シウがいつものように薬師ギルドに納品すると、パゴニ婆さんに見つかって部屋に引きずり込まれたのだ。そこで教えられた。
それは以前から問題視していた、希少獣への使用禁止薬草を「魔獣避け薬玉」などに混ぜていた件が始まりだった。
対策として、希少獣専用の《飴ガム》レシピを開発したシウだが、それとは別に危機感を抱いた関係部署が動いてくれた。
いつもなら腰の重い軍の警備部も警邏隊を出したという。
「それがね、なんと聖獣様が命じたそうなのさ」
「へぇ」
「やっぱり聖獣の王ってのはすごいもんだねぇ。なんでも率先して動いてくれたそうだよ。しかも、あたしら薬師のことを大層褒めてくれたらしくってね!」
「……へぇ?」
シュヴィークザームが? と首を傾げてしまった。シウにとってシュヴィークザームは「聖獣の王」というよりも「怠け者の鳥型聖獣」のイメージが強い。
絶対に裏があるな、と思ったものの、シウは黙ってパゴニ婆さんの話を聞いた。
詳細はこうだ。
警邏隊による取り締まりを強化し、軍の騎獣隊を使って怪しいところを軒並み強襲した。そこから証拠を集め、とうとうニーバリ領に隠れ住む薬師を探し当てた。後ろに付いていたのは落ちぶれた貴族で、やくざ者と組んでいたとか。
彼等は「国家転覆を謀った」ということで全員が捕まった。
今まで少量ずつ流していたのは実際の様子を見るためと、仲間を門兵の目から逃すためだったらしい。
計画では、秋に行われる「魔法競技大会」で事を起こすとなっていた。
各国から重要人物も集まる大事な大会での凶悪な計画を未然に防いだ。そのきっかけは薬師ギルドの上申だ。
パゴニ婆さんはニヤニヤと嬉しそうに話し続けた。
「国に対する不満ってだけじゃ、すまない計画だったからね。奴ら、その騒ぎに乗じて貴族の屋敷を襲撃するつもりだったそうだよ」
「それで内乱罪か」
「ま、これでひとまずは落ち着くだろうね。とはいえ、あんたの考えた《飴ガム》は今まで同様に売らせてもらうよ? 軍の騎獣隊もね、山中行軍での問題行動が減ったと大喜びさ」
ウェルティーゴはあちこちに生えているわけではないが、それでも山中にはある草だ。騎獣が嫌がって行軍の妨げになったこともあるのだろう。
ところで、だ。シウには気になっていることがあった。
「パゴニ婆さん。その狙われていた貴族の家って、どこか分かる?」
彼女は片方の眉をひょいと上げた。目を細めてシウを見つめ、ふうと溜息を吐く。
「……エストバル侯爵家縁のヘドヴァル子爵邸、アグレル伯爵邸宅だね。他にクレーデル家、カマルク家などだよ」
「クレーデル伯爵の方かな? 子爵や男爵ではなく」
子爵は宮廷魔術師の方で、男爵は教師のヴァルネリのことだ。二人の父親が伯爵位だった。
クレーデル家はメルネル侯爵に連なり、シウの後ろ盾でもあるキリク=オスカリウス辺境伯と付き合いのある貴族だ。
パゴニ婆さんは「分かっている」と深く頷いた。
「カマルク家はドレヴェル公爵の関係者だね。そうさ、誰も口にはしないが、疑ってはいるだろうよ。どれもクストディア侯爵とは犬猿の仲だ。あたしら下々の人間でも知っていることだよ」
でもね、と彼女は続けた。
「そんなに分かりやすい絵図かね? みんな、だからこそ口にしないのさ」
室内には二人と、話すことのできないジルヴァーだけだが、パゴニ婆さんは声を潜めた。
「そもそも、ニーバリ領さ。あそこはきな臭いったらありゃしない」
「……そうなんだよねえ」
「この間の魔獣スタンピードの件で付け込まれたんだと弁明したそうだよ」
「新しい領主が?」
「そうさ」
「今、来てるの?」
「いや、領の立て直しに全力を尽くしたいと、国王陛下に願い出たようだよ。社交はできないってことだね」
「しばらく、鳴りを潜めるってことかな」
「そういうことだろうね。ま、そんなこと外で軽々しく口にするもんじゃないよ」
「あ、はい」
とにかく、と語気を強めてパゴニ婆さんはシウに指を差し向けた。
「あそこはきな臭い。あんたは魔法学校で目を付けられていたんだろ。関わっちゃいけないよ」
シウだってそうしたいのだが、きな臭い話を聞く度にそわそわするのだ。
「あんたが貴族だってんなら、あたしも黙ってるさ。だけど、そうじゃない。あたしら一般庶民は、自分たちの生活を守るのに一生懸命であればいいんだよ。ましてや、あんたは冒険者だ。流民って立場は自由なようでいて、実は狭い生き方しかできない。相手は海千山千の貴族さ。領主が若いからって舐めてちゃ、してやられるよ!」
「はい」
パゴニ婆さんの言うことはもっともだ。シウは素直に頷いた。
パゴニ婆さんから話を聞いたからではないが、シウは久々に自分からシュヴィークザームに連絡した。
最近はめっきり遊びに来いと言わなくなったシュヴィークザームだが、それもそうで《転移指定石》を大量に渡した結果、秘密基地へ休憩にばかり行っているそうだ。自慢げに通信で報告されたことがある。
他にも、シュヴィークザーム専用の厨房を作ってもらったことで入り浸っているという。以前とは大違いだ。部屋に引きこもらずに動いているのは良いことである。
ただ、引きこもる場所が変わっただけ、とも言える。
とにかく、遊びに行くと連絡すれば「来るがいい!」と偉そうに返ってきたので行くことにした。
いつものように王城の門前で待っていると、すっかりシュヴィークザーム係となったアルフレッドが来てくれた。
「久しぶりだね。シュヴィークザーム様の我が儘が最近減ったと噂になってたんだけど」
「あ、今日は僕から遊びに行くって連絡したんだ」
「へえ!」
驚きながらも彼の視線はシウの肩へと向いた。ジルヴァーが顔だけだしてアルフレッドを見ていたのだ。彼は途端に相好を崩した。
「この子が噂のアトルムマグヌスかぁ。可愛いね」
「ありがと。ジルヴァーっていうんだ」
「にゃにゃ」
「ぎゃぅ」
「きゅぃ」
何故か一緒に来ていたフェレスたちも名乗っている。しかし、アルフレッドは会ったことがあるし、今更だ。けれども彼は律儀に挨拶してくれた。
「こんにちは。アルフレッドだよ。ええと、フェレスにブランカにクロだよね」
「言葉が分かるの?」
アルフレッドに調教魔法はなかったはずだが、とシウが驚くと――。
「ううん。思い出した。合ってた?」
「合ってるよ」
よく覚えていてくれたと思ったが、シウとは友人でもあり、彼は気遣いの人だった。
「今日は全員で来たんだね。だったら、他の聖獣様たちのところへも行くことになるのかな。連絡しておかなきゃ」
「悪いね」
アルフレッドは首を振って恥ずかしそうに笑った。
「僕の仕事だから」
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