391 訓練内容の報告会




 地形を元に戻してから、シウたちはロワイエ大陸にあるイグの住処へと《転移》で戻った。

 時差もあるので早めに戻って休むことにしたのだ。


 留守番をしていたバルバルスは気配を感じたのだろう、慌てて小屋から出てきた。

 それを見てロトスが半眼になる。

「なあ、もしかしてずっと小屋の中にいたのか?」

「い、いや、そんなことは」

 慌てる素振りのバルバルスは、本当に違うのだと必死になって言い訳していた。

 シウにとっては別にどちらでも構わない。彼が小屋の中でも勉強をしていたのなら。

 そうしたつもりでバルバルスを見ると、

「……魔獣の気配を感じて怖くなって、戻っただけだ。ちゃんと中でも魔法の勉強はしていた」

 ロトスではなく、シウに向かって告白した。

 ロトスは片方の眉を上げて、肩を竦めた。

「怒ってるわけじゃねえのにさー。ま、勉強するってのはいいことだ。なっ、シウ」

「そうだね」

 ニヤニヤ笑うロトスに、バルバルスが怪訝そうな顔を向けた。

 これは彼にも説明が必要だ。

 どのみち、イグにも訓練の成果について話したかった。

 シウは小屋の前に屋根付きテントを張って、皆を集めた。


 何もしないで話すだけというのも時間が無駄だ。ロトスにも言われているが、シウは何かしていないと落ち着かないところがある。

 ということで、昼ご飯を食べてからさほど時間は経っていないものの晩ご飯を作り始めた。

 自然とバルバルスも立ち上がり手伝ってくれる。ロトスはジルヴァーをあやしながら、だらけたように椅子に座っていた。

「僕たちも魔法の訓練をしてきたんだ。僕は魔力の通り道を自在に操る訓練だね」

「魔力の通り道……」

 オウム返しになったバルバルスの手が止まった。

「大型魔法を使うにあたって、それがネックになってたんだ。前に昏倒したことがあってね」

「そう、なのか」

「普段は節約して使っているから魔力の通り道が細かったんだよ。それなのに時々『転移』や『空間魔法』で大きな魔法を使ってた。きっと無理があったんだね。探知している最中にガクッときちゃって」

「……あんたみたいなやつでも、そんなことがあるのか」

 みたいな、と言われると、まるで化物か何かのように思われている気分だ。シウは困った顔でバルバルスに返した。

「失敗は多いよ。でもそこから学べばいいかな、と」

 バルバルスは黙って頷いた。それからまた、野菜を切り始める。

 シウも話を再開した。

「大型魔法を使って魔力の通り道を太くし、次には節約した魔法を細く長く使う。また大型魔法を発動させるんだけど、その時は一気に放出してみるんだ。ゆっくりと溜めて使う練習もね。とにかく、ありとあらゆるパターンで試してみた。せっかくだから古代の大型魔法も試してみたんだよ。ね、ロトス」

「あー、な。あれな。バル、お前、シウを怒らすなよ」

「え……?」

「こいつ、アホみたいな古代魔法バカスカ使って地形変えてんだもん」

 バルバルスがまた手を止めた。ロトスの言葉を噛み砕いたあとに、そっとシウに視線を向ける。また変な目付きになっていた。シウはちょっぴりムッとした顔でロトスを睨んだ。

「そういうロトスも変な魔法を使ってなかった?」

「へっへー」

 シウが話を振ると嬉しげに笑う。彼は自分のやったことは問題にしないらしい。しかし、ロトスはロトスで大きな魔法を使っていたのだ。


 ロトスはジルヴァーと指相撲をしながら、バルバルスに対して自慢げに訓練のことを話し始めた。

「雷撃魔法にな、火を添わせてみたんだよ。んで無属性魔法で強化したの。そしたら、まあ、すごいのが岩を直撃してさ~。俺ってば才能ある~!」

「ぴゅ!」

「お、ジルもそう思う?」

「ぴゅぴゅ」

「あ、待って。痛い。意外と強い。親指痛いから……!」

 幼獣に負けてしまったロトスは目を見開いてジルヴァーを見下ろすと、そっと抱っこしてブランカに乗せてしまった。ジルヴァーは残念そうな表情だ。

 大人げないなーと思いながら、シウは(選手交代)とロトスに伝えた。


 ロトスが料理を作り始めると、今度はバルバルスの勉強内容になった。

「結界魔法を続けてたから、二人みたいな分かりやすいレベル上げになったかどうか分からないけど……。でも、近くにいたパーウォーを捕まえて封印魔法に閉じ込めてみたんだ。それで威圧してみた」

 そうすると、最初は平気そうなパーウォーだったが、バルバルスが場所を変えて行うと途端に固まってしまったという。

「……穴があったんだ。いや、穴っていうか、弱い部分? 掛け損ねたっていうのかな」

「うん、分かるよ」

 シウが相槌を打つと、バルバルスはホッとしたように息を吐いた。

「その後、結界魔法でやってみた。そうしたら固まることはなかった」

「レベルが上ってるんだね」

 バルバルスはこくんと頷いて、それからロトスの手元を見た。次の料理は何か考えているのかもしれないし、あるいは彼の言葉を待っているのかもしれなかった。

 けれど、ロトスが何か言う前にバルバルスは口を開いた。

「だからこそ思った。やっぱり俺の封印魔法はまだまだだって。たかだか強圧魔法レベル3に負ける封印なんだ。結界魔法の方が使えるなんて――」

「そりゃー、お前、訓練時間の差だよ」

 ロトスは鍋をかき混ぜながら気楽な様子で口を挟んだ。

 彼はバルバルスを見ることなく、鍋の中身を気にしながら続けた。

「結界魔法のレベルを上げる、ってのが当初の目的だったじゃん。そればっかやってたんだから、穴だってできようがない。お前がそんだけ頑張ったってことだ。だろ?」

「あ、ああ」

「封印魔法も掛け続けりゃ穴なんてなくなるさ」

「そうかな……」

「そうだよ。ふっふー」

 ロトスが嬉しそうに笑う。バルバルスだけでなく、シウも気になってロトスを見た。机の上で暇そうに皆の話を聞いていたイグも「なんだなんだ」と顔を向ける。

 ロトスはもったいぶった様子でニヤニヤと笑い、溜めを大きく取ってから告げた。

「俺、分身魔法のレベルが上がったんだ~」

 イェーイ、という念話があちこちへ飛んだ。


 いつもならイグに気を遣って念話はシウだけに届くよう、それも短くしているのに。

 今回は全方向へ飛んでいた。

 もっともイグは気にしていなかったが。

 それよりも、興味津々といった様子だ。

([ほほう。とうとうレベルが上がったか])

 彼にはない魔法であり、ユニークと言ってもいい珍しい魔法だ。ウルペースレクスだからこそ持っているとも言える。

 その分身魔法が、いよいよ使えるとなれば――。


 しかし、残念ながらまだ発動はしていないらしい。

 ガクッときたのはシウだけではなく、イグも同じだった。ロトスに教えられたのか、本当にガクッと前足を倒してみせる芸当で。シウはびっくりしたり笑ったり、忙しなかった。


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