383 村へ遊びに行ってまずはお話を
以前出会った魔人族の村の、ギリギリ彼等が恐慌状態に陥らないだろう距離で、一度地面に降りた。
「イグはトカゲ姿に戻ってくれる? ここからはフェレスとブランカに分乗して行こう」
「あー、前、逃げられたんだっけ」
「うん。また脅かすのは悪いし」
([敵意など向けておらぬのだがな。何もしておらぬのに怯えおって])
そう言いつつもポンとトカゲ姿に転変する。彼はたたっと走ってシウの肩に飛び乗った。反対側の肩にジルヴァーがしがみついているので、シウは今すごいことになっている。
「イグ様の存在感半端ねえもん。仕方ないじゃん。威圧もなくてアレって、ほんとヤバい」
([ヤバい?])
「そうそう、ヤバい。だから、怒んないでよ。イグ様が怒ったら、チビるどころの話じゃない。存在の消失!」
([……む])
「ふたりとも、冗談は置いといて。行くよ」
「へーい」
([へーい])
ロトス語を覚えたら面白いだろうと思ったが、どうにも似合わなくてシウは半眼になってふたりを見てしまった。でも注意はしなかった。これはこれで、ふたりのコミュニケーションなのだ。
ところで、ロトスは聖獣姿にならず、ブランカへ乗っていくという。ならばと、イグもそちらに乗ってもらった。
シウはジルヴァーとクロとでフェレスに乗った。
村まではまだ距離があるため、途中で少しずつ《転移》を繰り返す。結界などは張らずに進んだため、村まで二十キロメートルといったところで相手に気付かれた。
前回と同じく飛竜に乗った戦士が飛んでくる。
シウはすぐさま彼等との念話チャンネルを繋いだ。
〔おーい! シウですー! 遊びに来ましたー!〕
隣でロトスがズッコケている。
「そういうお笑いの作法、僕はあんまり分からないんだけど」
「慣れてくれよ! てか、なんだ今の声かけは」
全方向の念話なのでロトスにも普通に届いたようだ。
誓約相手でもあるので内容は理解できるらしい。
「何が?」
「のほほんとして!」
「え、でも、別にピリピリする必要はないよね」
「ちがーう。なんかこう、もっと真面目にやるのかと思ってたんだよ」
よく分からなくて首を傾げていたら、近くまで飛竜がやってきた。
シウが手を振ると、相手のリーダーも真似してくれる。どこかぎこちないのは、緊張しているからだろうか。
とにかく、互いに敵意はない。
目の前まで同じ調子で飛んでもらった。
前回と同じ隊長と思しき魔人族のところへ行く。今度はフェレスごと、普通に飛びながら近付いた。
〔こんにちは。遊びに来ました〕
〔あ、ああ……〕
〔僕の仲間も一緒なんだけど、いいかな?〕
緑色の蛇っぽい肌を見慣れないため、表情からは何を考えているのかが読めない。それでも念話が通じることで感情が流れ込んでくる。
彼は怯えつつも前回とは違って落ち着いていた。
〔心構えはできている。が、その、例のお方は……?〕
シウは一瞬首を傾げ、それから「ああ」と気付いて頷いた。
〔いるよ。あそこ。みんなが怖がるといけないからトカゲ姿になって――〕
〔はっ!?〕
〔トカゲ姿になってるんだ。で、結界も張ってもらった。分からないでしょ〕
隊長は口を開けて、ブランカの上に乗るロトスたちを見た。ちなみにイグはロトスの頭上に堂々と立っている。
威厳のようなものを普通は感じるのかもしれないが、どうしても滑稽だ。
シウは吹き出しそうになるのを堪えながら隊長に続けた。
〔これだと怖くないかと思って転変してもらったんだけど、どうかな?〕
〔……問題ないと思う〕
〔じゃあ、遊びに行っても?〕
隊長は数秒無言になったが、仕方ないというように頷いた。
シウたちは彼の後を追う形でついてくことになった。
村はざわめいていたけれど、恐慌状態というほどではなかった。
ただやはり、人族が来た、ということで恐れのようなものが感じられる。
隊長は皆に対して、
〔決して余計なことはするんじゃない。いいか、敵対するなどもっての外だ。彼等は友好を深めるために来られたんだ〕
そう言った。言ってからチラッとこちらを見た。シウは頷いて続けた。
〔こんにちは。親睦を図ろうと思って参りました。よろしくお願いします〕
手を振ったが誰も返してはくれなかった。むしろ、隠れるなど、怯えた様子だ。
手を振る動作は以前伝わったはずなので、単純に人族のシウに対して警戒しているだけだろう。
諦めて、隊長が案内する場所へと向かった。
案内してもらったのは族長の家にだ。隣には集会場なのか、大きな東屋のような形をした建物がある。壁はなく屋根と柱のみの八角形をしていた。小さな階段を上がれば四方の入り口以外の縁取りに沿って、長椅子が作り付けられている。
座るよう勧められたので各自が思い思いに座った。もっとも、フェレスとブランカは周辺をふんふん嗅ぎながら自由にしているし、クロは天井のあたりをふらふらとゆったり飛んでいる。
ジルヴァーは椅子と柱に興味津々で、イグに誘われるまま一緒に柱へしがみついた。
ロトスは椅子に座ったものの真ん中へ向くのではなく、外側の村の様子を「ほえー」と変な声を上げて見ている。
シウだけがきちんと座って、隊長たちと面と向かった。
〔俺はルアゴコという。この、端の村で防衛隊の隊長をしている〕
ルアゴコは緊張した様子で名乗った。シウも返す。
〔僕はシウです。ロワイエ大陸から来ました〕
〔やはり、あちらの大陸から……〕
彼の部下らしき男たちがざわめく。顔を見合わせて、中には鱗を逆立てる者もいた。
シウは慌てて説明を続けた。
〔イグと一緒に観光目的で来ただけで、戦だとか、そういった意味合いではないから〕
また顔を見合わせている。素直に信じるには、裏付けがない。慎重なのは当たり前のことだから、シウは気にせず続けた。
〔昔、クレアーレ大陸からロワイエ大陸に魔人族の方々がやって来たことがあります。人間を支配するために。それはご存知ですか?〕
〔……ああ〕
〔もしかして、復讐のために来たと思ってます?〕
〔違う、のか?〕
〔大昔のことで、しかも一部の魔人族のしたことを、現代の僕が復讐する理由はないです。このあたりは理解できますか?〕
考え方の相違もある。やられたらやり返す、という考え方も存在するからだ。
そのあたりを知っておきたかった。知識の擦り合わせは大事だ。
すると、ルアゴコがシウの思惑に気付いたようだった。
思案しつつも彼や彼等の考え方を教えてくれた。
いわく、復讐という考え方は今でも存在する。ただし、正義やルールという名の下のおいて、だそうだ。
また、ロワイエ大陸への侵略については、現代でも賛否両論らしい。
実際に戻ってこなかった者が大半だった。戻れても「惨敗した」という事実をもたらしただけだ。
一般には簡単に侵略すべき相手ではないという認識らしい。
また、現在、他種族や他大陸を侵略しようという考えはないようだ。
あくまでも彼等が所属する国の考えでは、という注釈付きだったが。
〔そこまでの力は我々にはもうないのだ〕
〔というと?〕
ルアゴコはほんの少し躊躇したものの、話し始めた。
〔……どのみち、隠していても分かるだろう。あなたにはアルタートゥムドラッヘのご加護があるのだから〕
そう言って。
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