007 チートなスキルと魔力量




 土の日はお互いの人生について、語り合って過ごした。

 が、風の日からは、スパルタ教育である。

 とにかくこの世界の常識を覚えてもらう必要があるし、彼には聖獣としての能力も知ってもらわねばならない。

 何よりも、自分が持っているスキルをきちんと使えなければ、生きていくのが大変だ。

 せっかく神様からもらったスキルなのだしと、本人もやる気満々だった。

 そう、蓮もスキルを幾つか持っていた。

(俺、一番強くて格好良い獣で、人化もできるのがいいって頼んだんだけどさー)

 ドラゴンは無理があると言われたそうだ。

 魂の器が合わないということらしかった。彼の軽い調子の話を聞いていると、そうかもと、内心で思った。ドラゴン、古代竜はもう少し精神の落ち着いた者でないと無理だろう。

 それにしても蓮は、シウの時と違って馴染むのが早いというのか、けろっとして今の状況に慣れ親しんでいる。

 魔法だ、わーいと喜んでいるあたりは、無邪気なものだ。もしや夜中に泣いてやしないかと心配したものだが、ブランカよりも寝相の悪い格好でぐーすか寝ていた。

 神様が彼を選んだ理由が分かったような気がしたシウである。

(その次に偉い獣も、事情があって無理って言われて、じゃあ九尾の狐はーって聞いたら、それならいいよって言われたんだよね)

「普通の狐型希少獣なら、ウルペースっていう騎獣で珍しいけれど位は低かったからね。九尾の狐は、狐の王と言われるとても珍しい聖獣だよ」

(おおっ、格好良い!!)

 きゃっほぅと喜びまわっているその横を、ブランカも同じように走ろうとしてクロに止められ、フェレスが首根っこ捕まえて連れ出してくれた。クロも一緒にだ。子供の扱いが上手くなったフェレスである。

(おっと、それでさ。強い獣なら、やっぱり強いスキルが必要じゃん! で、雷でババーンッてのが欲しくて)

 雷撃魔法のスキルを貰ったそうだ。

 他に分身魔法があるが、これは本来この種族についているものらしい。

 そして、鑑定魔法も絶対欲しいと言って付けてもらったそうだ。鑑定魔法は、聖獣が最初から持っているというのは珍しいスキルだった。

 希少獣たちは後からでもスキルが増えるし、魔力量も同様なのだが、彼は生まれた時点で魔力も相当に高い。

 人族と違って、魔力過多症にかからないのが良かった。

 その量は三五〇という破格の物だ。

 人間では有り得ない数値に、そうしたことも含めて説明した。

 本人はその凄さを理解しきれていないようだが、そのうち分かってくるだろう。

 なにしろ、

(数値が高いってことはチートだろ! やった、チートだ、ハーレムだー!)

 などと喜んでいたから。


 座学ばかりでは飽きるし面白くないだろうと、午後は魔法を使って見せたり、彼のスキルについて説明した。

 さすがにこのあたりで、彼もシウのことが気になったようだ。

(なあ、もしかしてあんたもチート? いくら十四歳だっつっても、なんでも知ってるってすごくない?)

「知識は、僕の趣味が読書だからだよ。今も、世界一の大図書館にある本が読みたいって理由で、魔法学校に通っているぐらいだし」

(……魔法学校!!)

 目を輝かせて飛び跳ねるので、シウは苦笑した。

「君は通えないと思うけどね」

 そう言うと、見るからにショックを受けて落ち込んでしまった。

「だって、聖獣ってどの種族よりも立場が上なのに。通えないと思うよ? 見付かったが最後、王族に取り込まれるから」

(絶対嫌だ! そんなの自由がないじゃないか。俺はチートハーレムができると思って異世界転生したんだ)

「その、チートハーレム? ってやつ、女性にもてるってことだよね。聖獣だともてると思うよ。たぶんだけど」

 色んな人間にはもてるだろう。ただし、番の相手としては無理のような気がする。聖獣が番う場合は、同種族がほとんどだと聞くのだ。

 そのへんはおいおい話していこうと決め、また授業に戻った。


 ところで彼には、シウ自身のことをある程度は話した。前世のことや、今のシウのスキルなどである。

 ただし、全部は話さなかった。というのも、彼が少々軽い性格をしていることが、心配だったのだ。

 ポロッと零されては困るようなものも、割とある。

 当然、空間魔法についても話さなかった。魔力庫についてもだ。

 ただし、鑑定魔法がレベル五あるなどは説明した。

「だから君のステータスは覗けるし、僕の方は完全にブロックできるんだよ」

(それで全然見えないのかー)

「あとは君の知識レベルが低いと、そのへんのものを鑑定しても結果に出てこないよ」

(げっ、まじか。やべえ)

 俺、バカなんだけど! ときゃっこら騒いでいる。

 軽い性格だけれど、基本明るいのでこうして新しい世界でも慣れて過ごせるのだ。

 フェレスたちともすぐに仲良くなった。

 今では自分が獣であることを完全に受け入れているようで、互いに毛繕いしあって楽しそうだ。

 最初の頃は、げっ、なんで舐めるの、と言っていたのに。

 それから、フェレスとは意思の疎通ができるらしいが、完璧に子供だと笑っていた。やはりクロの方が精神的には大人なのだそうだ。そしてブランカは言わずもがなである。赤ん坊より、たちが悪いとぼやいていた。



 さて、蓮にはこの世界での名前がない。

 蓮と呼んでいたものの、本人も据わりが悪いと言うので、とりあえず名前を付けることにした。コンとかフォックスとか、あれこれ告げてみたがどれにも首を振られる。そもそもシウに名付けのセンスがないことはよく分かっている。悩んだ挙句に、ふと思い出して、脳内の古書一覧を検索してきて提案してみた。

「……君の名前の【蓮】ってハスって意味なんだけど、古代語でロータスだとかロートスって言うんだよ。それを言いやすくして、ロトスっていうのはどうかな?」

(あ、言いやすそうだし、いいね。でも古代語かー。なんか英語とかドイツ語っぽい)

 言語を習得しているので、首を傾げている彼に、教えた。

「大昔は言語もたくさんあったんだ。たぶんだけど、過去には日本以外の国の人も転生していたようだよ。だからか、各国由来の言葉が存在しているんだ」

(えっ、そうなの?)

「うん。ただし、誰もそうしたことを証明として残さなかったみたいだから、僕が勝手に古代の書物を見て判断してるだけなんだけどね。あ、そういうことだから、今後、少なくとも僕の事は他の人に転生者だって言わないでね」

(あ、うん。それはもちろん。頭おかしいやつって言われるの怖いし。俺も言わない。ラノベ設定ではそうだし)

 彼は納得して何度も頷いていた。

「とにかく、一応ロトスって呼ぶけど、飼い主、あー、君が仕えても良いって思える人に出会ったら、また名付けてもらうと良いよ」

(うーん、別にいいんだけどなー。面倒くさいし。第一、聖獣が王族に仕えないとダメってのが、そもそも嫌だ)

 自由にあちこちを旅してみたいと、シウよりずっと冒険者らしきことを口にしている。神様もシウがあまりに引きこもっているので、彼を転生させたのだろうか。

「そのへんもさ。自由でいたいなら、相応の力は必要だよ。良いように使われないためにも、勉強しておかないとね」

(……ちぇー。でも、そうなんだよなあ)

 猫のような伸びをして、それから前足を揃えて姿勢よく座り直した。


(考えたらさ、シウには何の得もない話なのに、俺の事では迷惑かけてるよな。その、ありがとう)

 尻尾が床を掃くような形で揺れている。

 シウはそれを見て、笑った。

「同郷の誼だから。転生して大変なのはよく理解できるしね」

 それに、とフェレスたちを見て微笑む。

「希少獣に主がいないのは、野良って言われるんだけど、ある野良希少獣が言ってたんだよ。人に拾われなかった希少獣は憐れだって。同族の獣からは一線を引かれて、どこにも仲間がいない状態で生きていくしかない。同じレベルで物を考える獣もいない。……それは途轍もない孤独だったと思うよ。蓮、ううん、ロトスもそうなっていたのかもしれない。孤独っていうのはさ、気付いた時が辛いからね」

「きゃん……」

 相槌のような、小さな声で鳴いたロトスは、言葉にならない感謝を伝えてきた。

「そのうち、なんとかして知り合いの聖獣に会わせてあげるから。とにかく、王族にバレないようにしないといけないからねー」

(わりぃ)

「いいよ。ただ、相手が箱入りだからか常識知らずなところあるんだよね。手っ取り早く、ロトスに常識を覚えてもらった方がよほどましなレベルだから。頑張って」

(……そいつ、大丈夫なのか?)

 じとっと横目で見られたので、シウは誤魔化しつつ頷いた。

「一応、一番偉い聖獣だから。そのせいで箱入りなだけだよ、たぶん」

(たぶん、なのかよ……)

 不審な目で見られたものの、他の聖獣に会えるというのは嬉しいようだった。

 張り切って、勉強を再開していた。


 ロトスは魔法の使い方は早々に覚えた。

 このあたりはさすが聖獣だなと思う。

 また、前世でゲームやラノベといったものに触れていたことも大きい。シウよりもずっとイメージ力はあるようだ。

 ただそれを発動させるのにはきっかけとなるもの、つまり詠唱句が必要だった。

 シウ自身、他人に魔法を覚えてもらうならば、その方が良いと思っているので強く勧めた。

 というのも暴発が怖いからだ。

 そのあたりの説明をすると、ロトス自身も理解を示してくれた。彼は自分の性格もよく分かっているらしく、無意識にとんでもない魔法を発動させてしまったら怖いので、詠唱して発動する方法を取ると決めたようだ。

 まあ、本人いわくは、

(だってやっぱ格好良いじゃん。落ちろ雷撃ぃぃ、とかさ~)

 ということらしかったが。

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