SFショートショート

柚月伶菜

第1話 不老不死

 彼と結婚して5年。

 彼は、仕事でも家事でも優秀だ。会社では今年課長に昇進し、『期待のエース』と呼ばれているほど順調らしい。共働き家庭ではあるが、家事はすべて彼がやってくれる。料理なんてプロ並みに上手で、洗濯、掃除もこまめで几帳面な性格である。

 「順風満帆でいいわねー。」なんてご近所さんから言われるが、私たちにだって悩みはある。それは、子どもができないこと。

 数年前から子どもができることを望んでいたが、思うようにはいかなかった。検査を受けても、問題ないと言われ、気長に待ってみたのだが、子どもはできなかった。私がせっかちすぎるんだと思い、思い切って離職し、妊活に入り、それから5年待ってみた。


 彼と結婚して10年。

 子どもはできなかった。しかし、彼の方は順調だった。部長に昇進し、将来の社長候補だなんて言われていると喜んでいた。

 彼は、私が元気がないということで、旅行に誘ってくれた。


 旅行先の宿で、私は同級生にばったり会った。しばらく会っていなかったが、学生時代の面影が残っており、お互いすぐにわかった。その夫婦はとても仲良さそうで、小学生の子2人と家族旅行とのことだ。

「旦那さん、お若いんじゃない?」

なんて訊かれたもんだから、

「同い年だよー。」

と答える。実際同い年だからだ。


 私は、彼の顔を見ていた。

 私は、自分の顔を見てみた。やはり、私、老けている。いや、違う。私だけじゃなく、みんな老けている。しかし、彼は老けていない。

 これまで撮ってきた写真を見つめた。彼の顔が、変わっていなかった。



 彼と結婚して50年。

 私たちには、子も孫もできなかった。しかし、生活は人並みに過ごせていた。彼は、いくつになっても優しく温かかった。80歳を過ぎても、彼の顔は老けることはなく、体力も変わらなかった。


 彼と結婚して60年。

 私は死んだ。ただひとり、彼に看取られて死んでいった。



 彼は、また新しい人生を歩みだした。

 彼の年齢は28歳。これまでも、これからもずっと28歳。


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