短めに第2集
冬野 周一
第1話 スピーチは短めに
今日は幼馴染みの友達の結婚披露宴に呼ばれてホテルに到着した。
受付で席順表をもらってロビーの長椅子に腰掛け、胸ポケットから白い紙を取り出して目を通し始めた。もう何度読み返しては書き直したことだろう。やっと昨晩「これでいいだろう」と自分自身を納得させたのである。
いよいよ披露宴の開式となって席に着いた。すでにその円卓には小・中・高校時代の学友達が座っていた。
「久しぶり!」とお互いに掛け合いながら緊張と緩和の空気がその場に入り交じった。
新郎・新婦の入場、そして型通りの挨拶が続き、「乾杯!」の音頭で会場は少し落ち着きだした。
学友達と昔話しに花を咲かせていると、進行係らしき男性が近づいてきて
「服部様ですね、今日スピーチを頂くようお伺いいたしておりますが」
「はいそうですね」と言って身体に緊張が走った。
「服部様は新郎新婦様の二回目のお色直しのあと直ぐです、よろしくお願いいたします」
「あっそれと、あとのスケジュールが詰まっておりますので、誠に勝手を申し上げますがスピーチは短めにお願いいたします。時間にすると3分以内でお願いいたします」と案内された。
トントンと式の進行は順調に進んでいるように見えた。
一回目、そして二回目の新婦のお色直しが整い、入場してきたカップルに拍手とどよめきがこだました。
「それではここで新郎のご友人である『服部平蔵』様からお祝いのスピーチを頂きます。服部様どうぞこちらへ」
「えー、本日ハ晴天ナリ、本日ハ晴天ナリ」「スミマセンこれは槇原敬之でした」軽いフックで笑いを取ろうとした作戦であったが、その場は重い空気が流れてしまった。
しまった!「いえ、本日は晴天の霹靂で誠に驚いております」と直ぐさま切り換えすと場内はさらに静まりかえってしまった。「やばい」
「えー、私は源蔵くんとは幼馴染みの親友でありまして、『服部平蔵』「はっとり へいぞう」と申します。源蔵くんは、小さい頃から私のことを「へいちゃんと」呼んでくれました。私が軽やかに塀(へい)のブロックを乗り越えて行くので『塀の平ちゃんは忍者みたいだね』と誉めてくれました」
「・・・」うーん、これも今ひとつか。
「さてその昔江戸時代に徳川の隠密として活躍した『服部半蔵』は私の先祖でございます」
「へーー!!」微妙な声が漏れた。
「と言うのは嘘です」
「・・・」また白けた空気が漂ってしまった。
「ただし私の父は『伊賀上野の忍者博物館』で忍者ショーの舞台劇団員として活躍いたしております。父の役名は『忍者はっとりくん』です」
少しだけクスッと笑い声が漏れた。「よし、よし」
「忍者と言えば『伊賀』対『甲賀』。よく耳にされる『猿飛佐助』はもとを辿れば「甲賀流」でありますが、『真田十勇士』として有名であります。そしてもとを辿れば伊賀流の弟子であった『霧隠才蔵』とは同士でありながら宿命のライバルでもあったわけです」
「そして皆様方が一番馴染み深い『水戸黄門』で陰のお供役として有名な『柘植の飛猿(つげのとびざる)』は伊賀一族という舞台設定で登場しております」
「このように忍者の存在は時代として持て囃され、伝説の人物が書物や時代劇に数多く登場してまいるのです」
「さて本日の主役である新郎の『甲賀源蔵』くん、そして陰の主役はこの私『服部平蔵』です」
新郎が2回目のお色直しで登場した衣装は、忍者スタイルの黒装束に覆面、そして友人の『服部平蔵』が礼服を脱ぎ捨てるとこちらも『黒装束』の忍者スタイルに、さらにゆっくりと平蔵は黒い布で顔を覆った。
「さぁて、『甲賀』対『伊賀』いざ勝負なり!!」
新郎の『甲賀源蔵くん』と『服部平蔵くん』は幼い時からの仲の良いライバルであった。
そして二人は今、長野県にある『戸隠流からくり忍者屋敷』で舞台役者として戦っているのである。
スピーチは一転して舞台場となり『ライバル対決・源平忍者ショー』が演じ始められたのである。
参列者の皆々は大喜びで盛り上がっている。しかし、ただ一人青白い顔をしながら時計の針を覗き込んでいる男性がいた。
「もう忍者は懲り懲りだ」と、その昔『忍たま乱太郎』で声優をしていた司会進行役が嘆いたのである。
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