第123話 波は緩やかに

 随行する馬車に合わせてオレたちの馬車(竜馬)は、単独の時よりもいくらかスピードを落として進んでいた。竜馬のポテンシャルが高すぎて普通の馬車ではおいてけぼりを喰らうからね。

と、言うのも今オレたちは合流したメガネボーイ達と共に移動しているからだ。

 隣の馬車、引いてるのはゴーレムの馬なのは良いんだけどさ…。


(後ろのホロ、完全にジープだよな??)


 と、チラチラと後ろを見ていたからかナナイから、


「トラン君、もしかして兄さんの事が心配?」


「まっさかぁ~。出発前にきちんと寝させたから大丈夫でしょ」


「…ボディブローからの気絶は寝たのとは違う気がする」


「ウジウジ考えるのは仕方ないけどさ、寝なきゃ話しにならないべ。

ボディブローだろうが薬だろうが寝れりゃナンでも良いのさ」



 と、ナナイに勘違いさせたのは悪いなぁと思いつつ (ナバル?ぐっすり寝てたよ)

 オレたちは今、当初の目的地である

 アルセイム王国の北部、フォクロス領とアルセイム王国の王都と魔の森の3ヶ所の良い感じの間にある村、『インフェ村』へと向かっていた。


「トランー、次の村はどんなとこだニャ?」


「ノベルさん、オレ辺境ってことしか知らねぇんだが、なんか知ってる?」




 ホルンに聞かれてなんも知らないことを思い出してのノベルさんへキラーパスするオレ。テリオ?ムダむだ (笑) アイツに拾えるわけねぇよ。


「クマ公にバカにされた気がするんだが」


 鋭いなこの野郎。


「まあまあ2人とも、今日はあの辺りで1泊しましょう。

 目的の場所でしたね。辺境に違いはないのですが魔王都ギルドラン龍王境ローゼンハイトの流通の中間地点でもあるため程々に栄えていますよ。

 だからこそ魔獣に滅ぼされるわけにはいきませんが」



(人為的に狙うとしたら動機があるわけか)


 魔獣による災害なんて普通なら天災と思うんだが、以前オレたちは人災と思われる証拠を見つけたんだよね。嫌な予感バシバシくるわ。

 夜営の準備も落ち着いて今は食事の真っ最中、時間がたつのは早いね。ナバルのヤツは無事なんかな。



……


 一方、ナバル一行は聖都アクアへと着々と進んでいた。


「ナバル殿、あなたのポーションを飲んでから馬のスピードが尋常ではないのだが…」


「ああ、疲労回復とスタミナ増加の特注だからな。魔王のメイド知り合いに頼まれて作ったヤツの予備が幾つか有ったからな。魔王あるじが執務を終わらせられたって喜ばれたもんさ」


「…副作用は大丈夫ですか?」


「………次の宿場で一泊しよう」



 あと3日程で聖国アクアリアへ入国するところまで来ていた。通常の馬車の旅では1週間はかかる距離をここまで縮めたのは驚異的だった。

(馬は丸1日座りこんで動かなかった。

後に馬番は、此方をじっと見てきて怖かったと言ったそうな)


 今は宿の一階のバーでグラスを弄びながら商人達の会話に耳をかたむけている。

 やがて頭まで覆った外套の男が宿を取り2階へ上がる。ナバルはカウンターに酒代の大銀貨を置くと席を立つ。


「釣りはいらねぇ」


 バーテンは黙って会釈すると1口もつけてないグラスを片付けた。



「外はどうだった?」


「静かなもんだった。いや、静かすぎるか」


 室内に入ると交わされるナバルとカースの会話に、黙っていた黒服のリーダーが小さな紙を見て。


「届いたぞ、アイリスお嬢様は無事だそうだ」


 受け取りナバルが目にしたものは。


『姫檻へ、無事無傷、敵兵負傷多数。

襲撃無し』



 「無事なのはわかったが…兵隊どもの負傷ってなんだ?戦闘は無かったんだよな」


「ああ、足の速い連中に尾行つけさせてるから見落としはないはずだが…お嬢さんに手を出そうとして返り討ちにあった?さすがにそれは無いか」


「いや、娘が魔王都ギルドランの連中と接触あったなら、無いとは言い切れん」


 部屋の端にいたカースの補足に首をかしげる2人。ナバルも心当たりは無いらしいことに驚きを感じるカースは補足を続けた。


「暴漢撃退用の結界機能付きのアクセサリーが売っているからな。娘が身に付けていても不思議はない。

 もっとも、魔王都うちは治安たいして悪くないから売れなかった、と造り手がぼやいてたからな」


「そんなのが売ってたのかよ。気づかなかったぜ。誰だ?造ったの。俺の知ってるヤツかなぁ」


魔王ウィルだ」


「ああ、納得。そこらの人間ヒュームじゃ手も足も出ないわなぁ」


 町中で売ってる防犯グッズの制作者が、まさかの伝説の武具を作った魔王本人だと誰が思うか。


(どこぞの小グマと変態ギルマスそそのかされて小遣い稼ぎのつもりで大量に作ったそうな。

 大量に在庫が余って泣いた魔王がいたそうな)


 結界に何処までの強度があるかは分からないが、仮に処刑するにしても、それこそナバルの師である【剣狼 ガド】が所有する七神セブンマイスズ相当の武器でもなければ破ることは出来ないだろう。

 ナバルは久々に魔王ヴィレントのやらかしを思いだし彼に感謝するのだった。



……



「何故だ!何故痛めつけることはおろか鎖で繋ぐことも出来んのだ!!」


「そ、それが近づこうとすると弾かれてしまい…」


 拉致されたアイリス・デルマイユが聖国アクアリアの首都、聖都アクアへ着いて直ぐの事だ。現地の指揮官らしき男が連行してきた兵士を怒鳴り散らしている。幌の中にまで聞こえる罵声に顔をしかめるアイリス。そんな彼女を監視しながらも無能な指揮官にうんざりしている男がいた。四天王の一角にして冒険者のヴィルディ・カイザックである。


(わめけば解決するわけでもねぇだろうがゴミ野郎。

 そもそも常時発動なら誘拐じたい出来なかったはずだ。嬢ちゃんの実力にしては強力すぎるしな。何かしらのカラクリがありそうだが…。まあ、このまま連れてくしかねぇだろう)


 幌の中が鉄格子になっていることにホッとしつつ、結局そのままで大聖堂まで連行されたのだった。





…………


大変お待たせしました。


此処まで読んでくださりありがとうございました。

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