6章 人類の敵

第114話 戦士の休息(グダグダ)

 獣王国フェルヴォーレ玄関口とも呼ばれる北の港町は城下町でもあることから国内で一番賑わっている。

 行き交う人の中でベンチに腰掛け疲れた顔を浮かべる青年がいた。ナバル・グラディスである。


……


『ナバルよぉ、お前今日は久々の休みだろ?俺も非番だから街にくりださね?』


『野郎で出かけるならオレも行くぞ。重い荷物とか楽できそうだ』


……


 数時間前の会話を思い出し、そこで違和感を感じるべきだったと今は反省してる。顔を合わせれば年中ケンカしているテリオとトランが珍しく息のあった会話をしていたのだ。流されるままに街に来てみれば…。

 露店で買ったジュースを飲みながら前方、右側を見れば…。


「やぁ、ステキなお嬢さん方。そこの茶屋で俺と素敵なトークに花を咲かせませんか?」


 獣人美女の2人組を前に爽やかスマイルを浮かべるテリオバカ1号の姿が。会心の笑顔以上にひざが笑いまくってる。いっその事膝カックンでも決めて笑いを取ってやろうか…。

 問題はコイツだ。前方、左側を見れば…。


「やぁ、ステキなお嬢さん方。そこの茶屋でボクをモフりませんか?」


 うるせぇよバカ野郎!とトランバカ2号に心の中で突っ込むナバル。そもそも魔法袋を持ってる時点で重い荷物も何も無かったわけで、2人は結託して自分をダシに使ったであろうと思い至る。

 こんな事なら部屋で1杯ひっかければ良かったなぁとダメ人間的思考に至るナバル君バカ3号。不意に影がナバルを覆う。見上げれば見慣れない美女2人が自分の前に立っていた。


「ねぇお兄さん、いま暇?」

「ねぇ、わたし達と遊ばない?」


 マジかぁと思うと同時だった。2つの殺気がナバルを襲う。俺にキレるなよと思いながらバカ2人を指差した。


「まぁ、暇ではあるんだがよ、そこのアホ2人も来るけどいいか?」


 瞳を輝かせるバカ2人。『お前最高だぜ!』と心の声が聞こえるのとは反対に…。


「ごめんねお兄さん。用事思い出しちゃった」

「またね〜」


 彼女たちの反応は早かった。

 バカ2人が膝から崩れる。四つん這いになりうなだれる二人を通行人は一瞬目を向けるが何事もなかったかのように歩き出す。バカ2人が崩れるのは日常になりつつあった。


「何故だ!ナゼに誰も振り向かない!神はいないのか!」


「いや…神はいるかもしれねぇが…オレたちに微笑まねぇだけかもしれねぇ…」


「「うおぉぉぉ!神よぉ!」」


「うるせぇ」


ガガン!と容赦ない蹴りが炸裂する。が、慣れたものか2人(1人と1匹)の受け身は早かった。


「ヒデェ事しやがる。

おれキズついてんだよ?!それを蹴るか普通!」

 

「っかぁ〜!

ナバル君!オレはそんな子に育てた覚えはねぇぞ!」


「ッセぇよバカ共。

それよりトラン。そろそろじゃねぇのか?

新しい服頼んでたろうが」


「あ、忘れてた」


 帝国の雷神との戦いでトランは装備の殆どを半壊させてしまった。現地で新装備を調達はしたのだが、折角ならと獣王国フェルヴォーレでの討伐依頼で得た素材で特注をしていたのだった。

 機嫌を良くした小グマを見るテリオ。

「…そうか!俺に足りないのはオシャレか!」

等と明後日の考えにいたる親友に黙秘を貫くナバル。その動機は(帰ったら昼寝も悪くねぇな)と、やはりバカばっかの3人組だった。


「…今更だけどさ、海竜シードラゴンって海王リヴァイアサンとは関係ないよな?」


「素材の魔物か?俺らが狩ったのは正確には海鬼竜デモニケロンって奴らしいぜ。海王リヴァイアサンとは敵対関係の竜種だから平気なんじゃね?」


「何で敵対関係とかわかるんだ?」


海王アイツがさ、『アレ嫌い』って感じなのが解ったんだよな」


「ナバルがどんどん人間やめてやがる」


「ヤメてねぇよ!失敬だな!」


 そんなことを話しているうちに一軒の店についた一行。飾られている武具は装飾も無く、むしろ平凡にも見える品々だが見る人が見ればいずれもが業物とわかるものばかりだった。


「よぉ、坊主共。仕上がってるぞぉ」


 間延びする声の店主は店先でキセルをふかしノンビリと出迎えた。かなり高齢の獅子獣人の老人は、若かりし頃は勇猛を馳せたのであろう体躯をした大男であった。だがその瞳は穏やかにナバルたちを見つめる。


「おう!オッチャンの服、今から楽しみだぜ。着て帰るってできる?」


「おうよ。奥に更衣室あるからそこ使いな。…あったあった。ほらよ」


「いぇっふ〜!」


 袋を受け取り小走りする小グマ。それを見送ると飾られた武具へと視線を移すナバル。


「やっぱ俺も革鎧系も欲しいなぁ」


「フォッフォッフォッ。

商売人としちゃあ嬉しいがよぉ。そのアーマーに匹敵する商品は流石にねぇぞ」


「そう言ってくれんのは嬉しいがよぉ、用途によって装備変えるのもアリだろ?俺は『こっち系』は持ってねぇんだよな」


「??

 なぁナバル。素材が違うって何か変わるのか?」


 店主との会話に首を傾げるテリオ。さしたるふうでもなく、ゆっくりと座り直すと店主は新たにキセルに火を灯す。


「そういや、そっちの兄さんは冒険者ギルドの事務方だったかのぉ」


「あ〜、勉強不足でスミマセン」


「気にするなや。誰にでも最初はあらぁなあ」


 そして店主による鍛冶の説明にテリオは驚いた。一般に知られている鍛冶は熱した金属を鍛え形を変える鍛造たんぞうと、液体状に溶かした金属を型に流しこむ鋳造ちゅうぞうではなかったからだ。


 この世界の一流の鍛冶師は、槌を打つとき(炉で金属を熱しるのは鍛造と同じ)自身の魔力を流し物質に変化を起こさせる。その魔力の性質や加減で出来栄えが決まる。そしてこの製法は魔鉄や魔鋼(魔鋼とは、魔鉄から不純物を取り除いた純度の高い金属)、ミスリルやオリハルコンといった魔法金属に特に顕著に現れる。

 一般にミスリル製の剣は鋼鉄よりも硬いと言われるが、実は加工前のミスリル銀は鋼鉄よりも柔らかいのだ。それが鍛え打てば鋼鉄をも切り裂くミスリルの剣が出来るのであるから魔法金属を扱う鍛冶師の腕が如何程かわかるというものである。

  一方の魔獣の素材は魔法金属と違い、素材のポテンシャルの上限が決まっている。いかに上限に近づけるかも大事ではあるが、別の素材との組み合わせも重要で同じ魔獣でも効果の幅が変動し、上手く合わさると総合力は元のポテンシャルを大きく上回るのだ。

 骨や牙などは金属と同じで魔力と火で熱して加工するのだが、素材によって火力は弱くしたり強くしたりと調整せねばならず、そこを誤ると素材はゴミとなる。

 一見、魔獣素材のほうが難易度は高そうだが魔法金属に関しても魔法に関する知識の他に『満遍なく魔力を通す技量』、『適正な魔力量の見極め』、『素材の粘りと硬さのバランス』などなどこちらもかなりの難易度であり、鍛冶師の系統もどちらかに偏るものである。


「ひゃ〜。知らなかった。それ習得するのに何十年かかるんだよ」


「まぁ、だから職人が尊敬されるわけでもあるんだがな」


「鍛冶師ってスゲェんだな」


「そうだな。それに魔獣素材の大きな特徴は『素材によって付与効果がある』事なんだよ」


「付与効果?」


「おう。魔獣本来が持ってる特性がまんま出るからな。そうだなぁ…大 毒蛇ヴェナント・ヒュドラって猛毒持ちの蛇がいるだろ?ソイツの毒袋をプロが処理するとビックリ、解毒作用の機能持ちの防具ができるんだよ」


「はぁ!!マジか!!」


「それならソッチの棚にある篭手がそうだよ。手にとって構わんよ」


 ボーッと座っていた店主がキセルで指した先に真新しい武具が並んでいた。ナバルは礼を言いながら1つの篭手を手にする。


「そうそう、こんな感じに内側の地肌に当たる部分に仕込むと、即効性は無いんだが毒緩和と、ゆっくりと毒解除の効果付きの防具が出来上がるんだよ…まてよ?コイツの表面はひょっとして…闇水竜ネガ・シーサーペントの革か!!」


「そうだよ。兄さん詳しいな。

そいつは解毒作用もそうだが目玉は別でね。

 装着者の魔力に反応して常時魔力抵抗ヴィアグ・レジストが働くように設定されていてね。更に意識して魔力抵抗ヴィアグ・レジストを掛けるとその効果が上乗せされて強化されるようになってるのさ。しかも常時発動の時の魔力消費は微々たるもんだから大抵の戦士なら気にするほどでも無い程度でねぇ。その効果も強力だからオススメの逸品だねぇ」


「「ほ、欲しい…」」


 思わず本音がこぼれる二人。

 そんな2人の思いを逆撫でるように小グマの自慢げな声があがる。


「そうさ!それが魔物素材の素晴らしいところ!それがオシャレ装備になったら無敵と思わない?」


 2人が見た視線の先、上機嫌の小グマはターンを決めて最上級のドヤ顔だった。反するように2人の顔は渋くなる。


「トラン…その格好で戦闘は無理ありすぎじゃね?」


「置物でありそうだな」


 え?!と素の驚きをかます小グマは…。

タキシードだった。「い、イケてるだろ?」の必死の声も虚しく

「ダメな方でな」

「無駄な背伸び」

と一部悪意があったり無かったりで散々だった。


「んだよ!じゃあコッチでいいや」


 と紺のズボンに深緑のパーカーに早着替えした。


「あれ?中のシャツも魔獣素材か?」

「いや、魔王都あっちで作ってた予備」


 前が空いているパーカーから見えていたのは銀糸が輝く白の襟なしシャツだった。

「…コイツが準備良いのは今更か。

せっかくだから俺も…」


「ナバル君や、この全身バトルスーツ格好良くね?

クマンダー2号の正装にどうよ?」


「二度とやるかバカ野郎!

…あれ?テリオは?」


 シャーッとカーテンが開き現れたテリオ。ビシッとキマったタキシード姿に頭を抱えるナバルだった。


「おっちゃん。このバトルクロスそこのヤクザ顔に合わせてくんない?」


「だからいらねぇよ!」





 







………………………………

おまたせしました。

鍛冶についての説明回になってしまいましたが、この世界ではこんな感じです。

雰囲気を楽しめていただけたら幸いです。

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