第100話 支え合う仲間たち

大変おまたせしました。

本日は2話投稿になります。

(2話目は茶番回)


…………………………

 昔々、双子の女神様がいました。

 一人は光の国を作り、もう一人は闇の国を作りました。

 光の国は色々な動物にあふれ、とても賑やかに過ごしました。

 ある日、光の女神が闇の女神に殺されてしまいました。

 光の女神は世界に溶けてなくなりました。

 怒った光の住人は闇の女神に戦いを挑みました。ですが突然、邪悪な竜が現れて光の国を荒らし回りました。

 激しい戦いの中、ようやく竜を倒し闇の女神と戦い、なんとか封印しました。こうして世界は平和になりました。



……

………


「これが最近じゃ廃れちまった創世神話だ。知ってたか?」


 病室でそう語るのはこの国の主、獣王本人。その本人と配下に進められ椅子に座って聞いていたのはトラン達4人だった。


「昔、親父に聞いた記憶あるなぁ」

「私はアルさんに聞いたよ」

「アルさんって誰ニャ?」

「アルファルド・メルリヌスって名前で宮廷魔導師の団長さんだよ」

「ああ、『骨』のおっさんな。まだ元気なのか?」


(骨?!どゆことよ!)


 興味が明後日あさっての方に向くトランを無視して会話は先に進む。話が長くなるとふんだのかゼノンはお付きの者たちにお茶を用意するよう指示していた。


「一般にこの世界が光の世界でよ、魔物が発生する亀裂の先が夜の国って呼び方をしてるな」


「じゃあ、魔物は闇の女神の眷属なのか?」


「いや、こっちの魔力溜まりから負の感情で汚染されて魔物化するのもいるし。屍喰らい等のアンデッドはその典型だろう。それに…どうやら『眷属』と呼べるのはごく一部らしいぜ。殆どはこれまで通り言われてる『魔力溜まりと怨嗟の思念による汚染』から生まれた奴ららしいからな」

 

 簡易テーブルにお茶を配られるとそれぞれ口にし静寂が生まれる。そして困惑げにナバルが顔を上げた。


「それでよダンナ、俺らの話ってそのおとぎ話なのか?」


「んん…」


 振られた獣王はカップを置くと唸るような声を上げたあと押し黙りゆっくりと言葉をつなげる。


「お前らっていうより…関係あるのはナバル、お前さんだよ」


「お、俺?!」


 驚くナバルを見据え、何か覚悟を決めたような顔で獣王はナバル一点を見つめる。


「ナバル、お前さんは自分の魔術が特殊だってことは気づいてるか?」


「…ああ、昔バアちゃんに言われた。一般的な魔術師ってのは内側の魔力を切っ掛けに外側の『世界』に干渉して起こすのが、いわゆる『魔術』なんだけど、俺は『魔術に至る全てが内包されてる』って。レアな『精霊術』ってのとも違うと言われた」


「そうだな。『精霊術』は文字通り『精霊』との接触で『奇跡』を起こす技だからな。『世界』とリンクする一般的な魔術と違って、術者と精霊の親和性で大きく差が出る。通常の魔術じゃ『世界との親和性』なんざたかが知れてるが、『精霊との親和性』は相性によっては、普通じゃ考えられねぇ奇跡をもたらす」


 そこまで語ると獣王は一息つき。


「だが、お前さんはどちらとも違う」


 そう、断言する。


「だがなナバル。実は過去にお前さんはみたいな奴は2人いたんだ。彼女たちは共に『7つの属性』を持っていると言われていた」


 そして視線を愛槍ムディノギアスに向ける。


「各属性を発動させるとき、『世界の奥』にあるとされる『原初の属性』に干渉して引き出すんだが、普通はせいぜい、表層部分が限界だ。良くても中層だろう。その限界を超えることができるのは特殊な媒介がなければ不可能だ。おれの愛槍コイツみたいにな。

 だが、お前さんは、そのどれでもない」


 誰かの息を飲む音が聞こえる。静寂がやけに重たく感じた。


「教会の秘術の中に『異世界召喚』と呼ばれるものがある。文字通り、異世界の住人をこっちに呼ぶってやつだ。人道的な問題から今の教皇からは『禁呪』指定を受けてるんだがな」


 そこまで言うと獣王は据え付けられた水を飲む。


「召喚の際、何らかの異能に目覚めることがある。そういう奴らを『異世界の勇者』と呼ばれるんだ。

 だが『勇者』と呼ばれるのはもう1つあってな」

「奇跡を胸に宿す者、光の女神の代行者、神の刃を振るう者。


 そういう奴らが『勇者』と呼ばれた。ナバル、お前がかつて振るった聖剣ブレイブ・ブリング、あれは『光の女神の力』そのものだ」


……

………


 月明かりが照らす中、ナバルはテラスに置かれた椅子に座る。程よい涼しさの風が髪をそよいだ。


「なぁ、ナバル。さっきの獣王おっさんの話が気になってるのか?」


 風呂上がりなのかタオルを首にかけたトランが近づく。


「まあな」


 視線を海に向けたまま応えるナバル。トランは対面に座ると持ってきたフルーツジュースの瓶の封を切った。


「…俺は今までナナイを守ることに躍起になってただけなんだがな」


 深く息を吐いた。持っていたグラスに映るナバルの瞳は、どこか寂しげだった。


「もう、親父の時みたいに何も出来ないのは嫌だった。ナナイに二度と、あんな顔させたく無くて…とにかく必死だったな」


 グラスの氷が音を立てる。海を見つめる小グマは何も言わない。


「自分のことで手いっぱいなのにな…



…そんな俺が『勇者』かよ」



 そう言ったあと一口飲む。飲み慣れた味は、どこか苦かった。




「お前は『お前』だよ。どこまで行ってもな」


 小グマは海を見つめたまま呟いた。


「鍛錬と戦闘が大好きな問題児、脳筋かと思えば趣味は『薬学』という変わり者。

 酒と宴に目がなくて、色恋沙汰には鈍感&ヘタレ。そんなナバルが何も『一人で』背負わなくても良いだろうがよ」


 えっ!と顔を上げるナバル。小グマは肩をすくめる。


「世界に対立するはずの『魔王』がアレだぜ?

 グータラのナマケ者で城下町の徘徊が生きがい。種族関係なく気に入った奴とはすぐに仲良くなって無類の食いしん坊。子供に甘くて『常に楽しく』をモットーにしている。そんな奴が敵対するかよ」


 やれやれだせ、と手を広げ首を振る。


「森にはバアちゃんと師匠もいるしさ、ナナイやホルンだって成長してるしな。

 愚痴りたくなったらテリオを巻き込んでバカトークに花を咲かそうや。

 気になるオナゴがいたらノベルさんに相談しろ?間違ってもテリオに相談するなよ?したらフラれるぞ」


 違い無いと二人で笑いあった。


「だからよ…バカみたいに広い世界に『勇者』だけが背負う必要なんかねぇんだよ」


 それに『最終兵器トランさん』がいるしな!とおちゃらけて見せる小グマ。大事なところで必ず支えてくれる存在に胸が暖かくなる。


「ありがとよ。



   相棒あいぼう   」



 月明かりが照らすなか、これからの栄光を願うように二人は乾杯した。




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