第91話 再戦
「もぎゅもぎゅ」
「
「ええ、本島から少し離れるけどフルーツ専門に栽培している島もあるのよ」
ロナウドさん兄妹と一緒にデザートを食べ、くつろぎまくってるオレたち。ここのテラスから感じる海風も心地良いわぁ~。
ボケぇ~っと座っていると風の臭いに不穏な物が混じってきた。
「…鉄と血の臭いか??」
ボソッと溢したオレの一言に瞬時で兵士の顔になるロナウドさん。ナナイは少し考え、オレに聞いてきた。
「トラン君、兄さんたちが向かった南側じゃないんだよね…ってことは…」
ナナイの言うとおり風は北から吹いてきている。この港町は島の西にありネシア王国との玄関口でもある。島の反対側、東には神殿があるらしい。
そしてナバルが向かったのは南側、小さな島が点在してそこでは色んな作物を栽培しているとか。その行き来の邪魔になるから定期的に魔物を間引いているそうだ。
それにしてもこの臭い…まるで戦場のような…。そんなふうに考えているところにガンガン!と金属の鐘を叩く音が響き渡る。
「警報だ!レレイ、皆と一緒に避難しなさい!」
そう言うと飛び出すロナウドさん。ナナイとホルンは俄然やる気だ。…だが敵は『ソウード』って国の兵士だろ?魔物相手なら良いけど人間相手はなぁ…。
「なあ、レレイさんと避難したあとノベルさんとこの護衛を二人に頼んでいいか?オレは逃げ遅れた人たちつれて合流するからさ」
「ニャ!ノベルもナナイたちも任せるニャ!」
「…トラン君も無茶はしないでね」
参ったね。ナナイは何かを察したらしい。レレイさんを連れて駆け出す二人を見送るとオレは港に向かった。勿論北側の方な。ナバルは心配だけどそれよりもヤバイのがこっちに居そうなんだよね。
港には兵士がずらっと並んでいる。軍艦らしき立派な船に急ピッチで物資や兵士を乗せている。オレはその船の先、ずっと向こうにいるだろう場所を臭いと僅かに感じる魔力で辿る…。
いた!
獣王が国にいる現在、それでも攻めるにはそれなりの自信がある証拠だ。そして自信の大元は…。
…
…
「将軍、
将軍と呼ばれた茶褐色の男は椅子に座り足を机に投げ出した格好で目をつむっている。
彼らが今いるのは
「ソウードの諸君は先陣にて大いに手柄をたてるがよい。我ら帝国軍は良き友の武功を称えようではないか」
と、もっともな事を言っていたが肝心の『獣王が帰還している』事実を彼らソウード軍には告げていない。
(したたかなお方だ)
戦闘が始まれば先発のソウード軍には壊滅的な被害が予想される。全ては予定通り。
ふと見上げると何かが飛んでいる。それもこちらにだ。
「敵の攻撃だ!撃ち落とせ!!」
将校が叫び即座に矢が放たれる。
ブゥワァァン!
風の結界に阻まれたかのように次々と矢が弾かれる。そんな馬鹿なと将校が目を見張ると、いつの間にか『将軍』と呼ばれた男が隣に立っていた。緊張して数歩後ずさりする将校。茶褐色の将軍は空を見上げると邪悪な笑みを湛えた。
「…ヤツが出てきたか。面白い!!」
飛来物に手をかざす将軍。直後、凄まじい轟音と共に一条の光が『ソレ』を襲う。
バアァァァン!
突如現れた黒い霧が将軍の稲妻をかき消した。甲板に緊張が走る。帝国内においてかの将軍の雷撃に対抗出来るものなど存在しない。誰もが『獣王』かと怯む。黒い霧は共に来た木の柱をこちらに向かって飛ばしてきた。2発目の雷撃が撃ち落とす。四散する破片に兵達の間に動揺がみられる。
しかし現れたのは小さな『小グマ』だった。だが兵士たちは緊張したままだった。『将軍の雷撃』を防げるのが『獣王』だけではないことが証明されてしまったからだ。
その小グマはマストに着地すると兵たちを見下ろす。否、ただ一点のみを凝視していた。
「やはりキサマか。また俺に殺られに来たか」
将軍が小グマに対し尊大に言い放つ。どこか嬉しそうなのが将校には印象的だった。
「ぬかせ。そういうお前はゾロゾロ部下を引き連れてなんのつもりだバカ野郎。
『社員旅行』なら他所いけや。テメーら海賊くずれの来る所じゃねぇんだよアホんだら」
信じられないことに小グマは正面から『将軍』に喧嘩を売る。(死にたいのか!) と平時なら怒鳴り散らしているところだがこの小グマから発せられる空気も尋常ではない。
「クックックッ…『最強の一角』と勘違いしてる愚か者の巣穴に行くのだ。これほど『娯楽』に向いた場所もなかろう」
ヤバイ!始まる!と将校は長年の勘から最悪の一騎討ちが始まることを予見する。この将軍クラスの怪物の戦いが始まってしまえば、その他の兵たちなど邪魔でしかない。
「ならオレが遊んでやるよ」
『ガアァァァァ!!』
「やられっぱなしだと思うなよ!
クサレ神ぃぃ!!」
小グマが飛びだし褐色の将軍が迎撃する。高濃度の剣爪と雷が激しく火花を散らした。船の上は瞬く間に巨大な魔力崩壊の黒雲に覆われそこかしこに稲妻が走る。慌てて避難船をだし逃れる帝国兵たち。遠くから見ていた
…
……
………
獣王ガウニスがその気配を感じたのはつい先ほどだった。愛用のハルバードを手に城を飛び出した。獣王が最初に感じたのは『危機感』だった。それが凄い速度で東の神殿に向かっている。その敵を視認するやいなや全力の魔力刃を飛ばした。
ガンッ!!
鈍い音と共に落下するソレ。
ソレが島の中央の山に落ちたのは行幸だった。誰もいなく、岩と木々に囲まれたここならば被害は最小で抑えられそうだった。
「どうなってやがる。テメェは確かにナバルに討たれたはずだろうがよぉ」
そう言いながら少しずつ近づく獣王。ソレが顔をあげ『ニヤァ』と不気味な笑顔を向けたとき凄まじい嫌悪感が全身を駆け巡った。
「そうか。あの小僧はナバルと言うか…」
(喋りやがった!コイツはまさか!)
バサッ!と黒くおぞましい翼が大きく羽ばたく。獣王は最大限の警戒をとった。
「カッカッカッ!!
我が名はニーズヘッグ!
蘇りし真なる魔王であり最強の『邪王』である!!」
黒衣の魔神が吼える。最悪の魔人と獣人の王が激突した。獣王国にとって最悪と呼ばれる日が今、始まったのだ。
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