第90話 爽やかな日常は突然に
お待たせしました。書きたての本日2話目になります。
あとで修正するかもしれません。
…………………………
「そんな馬鹿な…」
荒れ狂う海を前にした船乗りが呟く。目の前の現実に思考がついてこない。
「ぼさっとするな!野郎共!急いで逃げるぞ!」
船長らしき男の怒号に大慌てで持ち場に駆け出す船員たち。彼らの動揺を誰よりも理解している彼は『その元凶』に目をやると急いで逃走の指揮を執る。
…
……
………
ホルンとナナイが買い物に夢中になっている。というよりナナイは買い物で不安を紛らわそうとしてるな。
ともかくだ、この状況、オレが荷物持ちになるわけで早々にナバルと別れたのを後悔し始めた。テリオがいれば…。
「トラン♪こっちの魚もンマそうだニャ~!」
「ねぇトラン君、この貝殻で何かアクセサリー作れるかな」
…そんなに悪くないかも。ホルンは食い気まっしぐらだけどナナイは小物やちょっとしたオシャレに目覚めたらしい。フフン、ナバルやテリオじゃ荷が重すぎるだろうな。…アレ?オレもオシャレに自信ないぞ?
テンパり始めた心境を誤魔化しながら買い物に付き合っていくとテラスのある喫茶店が見えてきた。
「あの人たしか…」
ナナイが示した場所に一組の男女がお茶を飲みながら楽しそうに談笑してる。二人とも狼獣人だが男の方は確か…。
「ベルヘルトって人の豹獣人の部下で…たしかロナウドさんって名前だったか?」
オレの声が聞こえたのか男の方がこっちを見た。彼は
「ナバル殿は一緒では?」
「
「ああ、彼女は俺の…」
オレの冷やかし口調にロナウドさんは苦笑いで答えようとして…連れの女性は立ち上がりお辞儀をして自己紹介をしてくれた。
「兄がお世話になりました。妹の
レレイ・シェナーザルと申します」
…可愛い系の美人さんだった。
お辞儀の所作からもまるで可憐な花びらが舞ったかのような…(妄想です)。
「これはご丁寧に。ワタシはトランと申します。見ての通りのしがない小グマです。
今日は運命の女神がボクらに祝福をお与えになったようだ!
今日の出会いとあなたの瞳に乾杯」
襟をただし、やや大袈裟に礼をするオレ。ロナウドさんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、レレイさんは可笑しそうにころころ笑った。…
「ささ、お兄様もボケッとバカづらさげてないでお座りください。粗茶ですがどうぞ」
「まてマテ待て!
コレ俺が頼んだお茶だから!
さりげなくバカにしてるから!
『兄』と呼ぶな!妹はやらん!」
「キレっキレの突っ込みありがとう」
そんなロナウドさんはグッタリして座り込み、レレイさんは楽しそうにオレたちを見て…ナナイとホルンは注文を済ましている。
「ねーちゃん!ホルンはパンケーキニャ!」
「私も同じものをお願いします」
「…二人とも、放置は寂しいぜ」
…
……
………
「やっぱ
「ハハハ!かの
出航一番で船の荷物と化したナバルに船乗りたちは可笑しそうに声をかける。冗談とわかっているナバルは
「わ~るいね~。よろしく頼むよぉ~~~」
と気の抜けた声で答えた。
「野郎共! かの英雄どのに代わって俺たちが勇姿を見せつけるぞ!」
船長の冗談のような掛け声に笑顔で答える船員たち。ナバルも
「頼りにしてるぜぇ~。
海の勇者たちぃ~~!」
と気の抜けたエールで答えた。
ナバルの『オッサンと友達』になるスキルは『船酔い』でも発揮したようだった。そんな和気あいあいとした船出はしばらくしてから緊迫に包まれていく。
「…船長!先発隊の前から船です!」
「どこの
「あれは…
見張りの言葉に一気に緊張が走る。見れば先発隊は破損の激しい船に着けて負傷者の救助をしているようだ。
「反対側につけろ!他のやつらは周囲を警戒!」
船員が慌ただしく駆け出していく。ナバルは周囲を警戒しながら一つの瓶を取りだし飲み干した。
「!!~!…エッグ過ぎ…だが効果は出てるな」
飲み干した瓶の正体はナバルが前日の夜に試験的に調合した『乗り物酔い覚まし』のポーションだった。全くの新作で今回初めて飲んでみたが気持ち悪さは随分と軽減された。…かわりに体の怠さが出てしまい失敗と言わざるをえない代物だった。
デッキの手すりをしっかり掴み海を睨むナバル。
(なんだ…何だこの感覚!まるで…)
船が来た方向、その遥か先からチリチリと神経が焦がされていくような気配を感じる。ナバルたちの船が難破船から救助者を移送していく。もう少しで終わろうかという時、海底から『ゾワリ』と寒気が襲った。
「そこのヤツ!逃げろ!」
叫ぶと同時に駆け出すナバル。
えっ?!と固まる彼の腕を引き『元凶』から遠ざけたとき、入れ替わるようにナバルが食われた。
「チィィ!」
舌打ちと共に抜いたルナ・ア・カーデでなんとか巨大生物の顎を抑え『喰われる』のを阻止するナバル。ふと見れば先程いた船は随分下にあった。
(コイツどんだけデカイんだよ!!)
そう思うと同時に船乗りの言葉がやけに鮮明にナバルに届いた。
「なんで
巨大生物が海面に潜る瞬間、『ああ、コイツが海の主か…』と漠然と思うナバルだった。
……………………
ここまで読んでくださりありがとうございました。
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