第48話 門前の攻防
「よく来た冒険者…
配置を言われ移動しながらテリオがナバルに話しかける。
「…気をつかわれたのか?俺らが若いから?」
「それはどうだろうな。ある種の最終防衛戦だから…。魔物を一匹も抜けさせられねえぞ」
「そう考えるとハードだな」
テリオとナバルが話している間にも続々と武装した人々が集まる。ただし、殆どが動物の皮であろう鎧で(魔獣の皮ではない)守備力に不安を覚えるものばかりだった。
「金属製の防具は正規兵くらいだな」
「あ~、そういうのが出回ってるのは王都周辺か隣国との境の町くらいだぞ」
そんなことを話ながら門の前の障害トラップの数々に目をやる。ふとナバルは森に目を向けた。
「…始まったな」
「え?」
ナバルの呟きにテリオは森を見る。
「まだ何も…」
『『グゥオォォォォ!!』』
『『ギュオォォォォ!!』』
魔物たちの叫び声が響く。
!!
「始まったぞ!」
「総員、持ち場につけ!」
兵と冒険者、村人たちは慌ただしく移動する。森の中からは怒号と激しい金属音が響きわたる。その中から何体かのリザードマンとオークが走って来た。
「おい!こっち来てるぞ!」
誰かが叫ぶ。
「アイツらは鼻と勘がいいからな。こっちが餌場になるってわかってんだろう」
そう言い抜剣するナバル。トラップの柵の前後では戦闘が始まった。
兵士は持ちこたえられてるが武装しただけの村人では厳しいとふむナバル。そうしてる間に一人の村人の前に大きさが2m程のオークが棍棒で殴りかかった。
「うわぁぁぁ!」
ガアァン!
防げてはいたが盾ごと吹っ飛ばされる村人。オークの顔が醜悪な笑みを浮かべる。周りの村人たちは足がすくんだのか動けない。
「ナナイ、こっちに来るヤツは頼んでいいか?」
「はい!」
棍棒が降り下ろされる直前、突風のように飛んだナバルがオークの脇腹を蹴り飛ばす。吹き飛ばされたオークはトラップの柵に激突し目を回した。
唖然とする村人たち。
苛立ち睨み付けるオーク達。
蹴り飛ばした本人は悠々と曲刀を肩に魔物を見回す。
「オークねぇ。…素材も使いづらくて有名なんだが、まあ良いや」
ブン!
男の降り下ろす剣の風圧に思わず後ずさりするオーク。
「来いよ!相手してやる」
…
…
…
何時ものように畑仕事をしていると狩人の友人が壁の向こうにオークを見たと言っていた。そのあとすぐにリザードマンも現れたと。物見遊山で行ってみればどうやら揉めているようだ。俺は慌てて酒場のマスターのところに駆け出した。
酒場は町のヤツらのたまり場になっていた。だからって訳でもないが何か困った事があるとすぐに相談しに行くのが習わしになっていた。それに冒険者が出入りしているのも大きいんだけどな。
その日は同じタイミングで領主様に嘆願書を送った。注意喚起の張り紙がされると行商人の護衛をしていた冒険者や森の浅いところで狩りをする狩人なんかが徐々に酒場に集まりだした。魔物の素材は彼らにとって魅力的らしい。俺には良くわからないが。
そんなある日、1台の馬車が町を訪れた。
初めは商人かと思ったがそうでは無かった。
獣人の男と少女。皮鎧の男と魔術師風の少女、魔術師見習いだろうか…。
そして…
黒い皮のロングベスト、プレートとチェインで編まれた頑丈そうな鎧。鎧と同じ色の小手と具足。
腰には大きめの曲刀とロングソード。
何より目をひくのはその男が纏う空気だった。
まれに訪れるベテランが同じ空気をしていた。しかし見た目は十代だから何かの間違いだろうか…
そんな彼らが…あ、あとはしゃべるクマのぬいぐるみがいた。
そんな彼らが今回の騒動に手を貸してくれることになった。
壁の門の前では迎え撃つ準備が出来ていく。
木で出来た柵…素人の俺からは不安なのだが近くにいる冒険者に聞くところ、少しでも時間稼ぎができればその間に槍や剣で倒せるからそれなりに有効らしい。感心していたら…
『『グゥオォォォォ!!』』
『『ギュオォォォォ!!』』
魔物の咆哮が辺りに響き渡る。
それだけで足がすくむ。…俺だけじゃないぞ!村のヤツは殆どがビビってるからな!
リザードマンとオークがこっちに走ってきた。何でこっちに!そう思ったら『あの男』が、
「アイツらは鼻と勘がいいからな。こっちが餌場になるってわかってんだろう」
なんて言ってた。冗談じゃねぇぞ!壁の中には俺の家族もいるんだ!襲われてたまるか!そう思った矢先、1体のオークが俺に棍棒を降り下ろしていた。咄嗟に持っていた盾でなんとか受け止めた…つもりが盾ごと吹っ飛ばされた。
なんて
オークが2発目を振りかぶる。
俺は尻餅ついたままだが、しびれる腕でなんとか盾を構えた。
…
…
2発目は来なかった。
見ると『あの男』が俺の前にたっていた。いつの間に?
「来いよ!相手してやる」
ちょ!コイツまじか!俺の前でやめて!巻き添えで死ぬとか勘弁なんですが!
男が挑発した瞬間、オークとリザードマンが男に襲いかかる。
言わんこっちゃない!
男の姿がぶれる。
ブゥン!!
「…え?」
俺は夢でも見てるのだろうか…
オークとリザードマンが斬られて倒れていた。
ヒュン!
男は曲刀を振ると続々と来る魔物に単身突撃をしかけた。次々と魔物を
そこは男の独壇場だった。
「すげぇ…」
村のやつらも唖然としている。感心していたら男の範囲外からこっちに来る魔物が走ってきた。ヤベェ!!
ギチギチギチ…
なんの音だ?俺は音の元凶に顔を向ける。そこには…一人の少女が杖を掲げていた。氷の槍に囲まれて。
「ん?」
間抜けな声を出しちまったよ。仕方ないだろ?氷の槍なんて初めて見たんだから!なんだコレ?意味がわからない。
ドゴゴゴゴォン!!
あり得ない爆音をたてて無数の氷の槍が魔物を襲う。当たった魔物は爆散した。
………爆散?
運よく逃れた魔物が少女を襲おうとしたが近づく前に吹っ飛んでいった。よく見ると獣人の少女が横から殴りつけてた。
…待って待って。
魔物が吹っ飛ぶほどのパンチってなによ?
陣営の中央付近でも戦ってる音が聞こえるがこっちはもうすぐ終わりそうなんですけど…
おもに3人だけで…
そう思った時だった。
『ガアァァァァァァ!!』
森の中から今まで聞いたことのない声が戦場に響いた。それはオークともリザードマンとも違う、もっと根底に響く叫びだった。
俺は視線をおもむろに向けると…
巨大な二足歩行の
叫びそうになったら隣にいた冒険者がとんでもないことを呟いた。
「あれは!…地竜じゃねぇか!」
初めて見た地竜…噛まれているリザードマンに思わず自分の姿を重ねた。今度こそ俺は死んだかもしれない。
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